
不動産業界において目的物とは、売買契約や賃貸借契約などの対象となる具体的な不動産を指します。民法第555条では「売買は、当事者の一方がある財産権を相手方に移転することを約し、相手方がこれに対してその代金を支払うことを約することによって、その効力を生ずる」と規定されており、この「財産権」が目的物に該当します。
不動産売買契約書では「売買の目的物および売買代金」として記載され、土地や建物の登記簿上の表示事項が明確に示されます。例えば、建物については建物登記簿の表題部記載事項、土地については土地登記簿の表題部記載事項が売買の目的物として特定されます。
目的物には主物と従物の概念が適用されます。民法第87条によると、物の所有者が常用に供するため自己の所有に属する他の物を附属させた場合、その附属物を従物とし、従物は主物の処分に従うとされています。つまり、建物内の畳や障子、襖、庭石なども主物である建物・土地と一体として取り扱われる場合があります。
成果物とは、業務委託契約や請負契約において、受託者による債務履行の結果として発生する有体物または無体物を指します。不動産業界では、不動産鑑定評価書、市場調査報告書、物件調査報告書、コンサルティングレポートなどが典型的な成果物です。
成果物は以下の3つに分類されます。
不動産コンサルティング契約では、成果物の定義が契約履行の判断基準となるため、具体的な内容・形式・品質基準を契約書で明確に定める必要があります。
目的物と成果物の最も重要な違いは、契約類型における役割です。
目的物の特徴。
成果物の特徴。
法的責任の面でも違いがあります。目的物については瑕疵担保責任(現:契約不適合責任)が問題となりますが、成果物については完成義務と品質保証責任が重要となります。
不動産実務において目的物と成果物を適切に区別するための判断基準をご紹介します。
目的物として扱われるもの。
成果物として扱われるもの。
実務では、納品物という用語も使用されます。納品物は成果物の中でも有体物に限定される概念で、必ずしも成果である必要はありません。例えば、売買契約で売主から買主に引き渡される物品は納品物ですが、売主の成果とは限りません。
不動産業界における目的物と成果物の取り扱いには、いくつかの法的根拠と業界慣行があります。
目的物の法的根拠。
民法上、目的物は契約の核心的要素として位置づけられ、特定・品質・数量の確定が契約成立の要件となります。不動産売買では、登記簿記載事項による特定が不可欠で、曖昧な記載は契約無効の原因となる可能性があります。
成果物の法的取扱い。
請負契約における成果物は、民法第632条の「仕事の完成」概念と密接に関連します。完成の判断基準は、発注者の要求仕様を満たしているかどうかで決まります。
業界特有の解釈。
不動産業界では、情報成果物という概念も重要です。下請法第2条第3項では「情報成果物作成委託」を定義しており、プログラム、映像コンテンツ、各種データベース等が該当します。不動産業務でも、物件データベース作成や市場分析システム開発などが情報成果物に該当する場合があります。
興味深い点として、建設業界では設計図面の作成委託も情報成果物作成委託に該当するとされており、不動産開発プロジェクトでも同様の解釈が適用される可能性があります。
また、災害リスク評価に関する研究では、不動産市場における目的物(賃貸住宅)の価値が外部要因(地震リスク等)によって影響を受けることが報告されており、目的物の価値は静的なものではなく、様々な要因によって変動することが明らかになっています。
このように、目的物と成果物の概念は単純な定義にとどまらず、不動産業界の実務や法的判断において重要な意味を持っています。適切な理解と運用により、契約トラブルの回避と円滑な業務遂行が可能となるでしょう。