
法の適用に関する通則法(以下「通則法」)は、平成18年6月21日に制定され、2007年1月1日に施行された日本の国際私法の基本法律です 。この法律は、国際的な法律関係において、どの国の法律を適用するかを決定する「抵触規則」を定めており、従来の「法例」を全面改正したものです 。
参考)https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%B3%95%E3%81%AE%E9%81%A9%E7%94%A8%E3%81%AB%E9%96%A2%E3%81%99%E3%82%8B%E9%80%9A%E5%89%87%E6%B3%95
通則法の目的は、第1条に明記されているように、国際的な私法関係に適用すべき法を定めることです 。特に、グローバル化が進む現代において、国境を越えた取引や関係が増加する中で、法的予測可能性と法的安定性を確保する重要な役割を果たしています 。
参考)https://laws.e-gov.go.jp/law/418AC0000000078
通則法は全43条からなり、総則(第1条から第3条まで)と各論(第4条から第43条まで)に分かれています 。総則部分では、法の適用に関する基本原則が定められ、各論では個別の法律関係ごとに準拠法決定ルールが規定されています 。
参考)https://eu-info.jp/IPR/2.html
第2条では法律の施行期日について定められており、法律の公布日から起算して20日を経過した日に施行することを原則としています 。これにより、法律の適用開始時期が明確化され、法的安定性が確保されています。
第3条では慣習法について規定し、「公の秩序又は善良の風俗に反しない慣習は、法令の規定により認められたもの又は法令に規定されていない事項に関するものに限り、法律と同一の効力を有する」と定めています 。これは、国際的な法律関係においても、適切な慣習法の適用を可能にする規定です。
通則法第13条は、物権及び登記すべき権利について、目的物の所在地法を準拠法とする「所在地法主義」を採用しています 。この規定により、動産と不動産を区別せず、両者とも目的物の所在地法によるとされています 。
参考)https://eu-info.jp/IPR/property-law.html
物権を所在地法によらしめる理由として、以下の3点が挙げられます:①物権は物を支配する権利であるから、その物が現存する地の法に従うのが最も自然であること、②土地の所有権をめぐる争いなど、所在地の公益に関わる場合が少なくないため、③担保物権の設定など、所在地以外の法律を適用するのは技術的に困難ないし不可能な場合があるためです 。
不動産取引における具体的な適用として、不動産の売買契約の成立に関する準拠法は通則法第7条に基づき決定されますが、この契約に基づく不動産所有権の移転時期については、物権に関する問題として第13条により決定されます 。
通則法第7条は、契約の準拠法について「当事者自治の原則」を採用しており、契約当事者が準拠法を合意で指定した場合、その地の法が第一次的な準拠法となります 。この原則により、国際契約において当事者の意思を最大限尊重することが可能となっています。
当事者間で契約上明確に準拠法を定めていない場合については、通則法は「最密接関連地法」を適用するルールを定めています 。具体的には、特徴的給付を当事者の一方が行う場合、その給付を行う当事者の常居所地法が最密接関連地法と推定されます 。
不動産取引の場合は特別な規定があり、通則法第8条第3項により、対象となる不動産の所在地法が最密接関連地法と推定されることが定められています 。これにより、不動産に関する法律行為においては、不動産の所在地法が適用される可能性が高くなります。
通則法は家族関係についても詳細な準拠法決定ルールを定めています。婚姻の成立については第24条で、「婚姻の成立は、各当事者につき、その本国法による」と規定されています 。婚姻の方式については、原則として婚姻挙行地の法によるとしつつ、当事者の一方の本国法に適合する方式も有効とする選択的適用を認めています 。
参考)https://www1.doshisha.ac.jp/~karai/intlaw/docs/houtekiyou.htm
親子関係については、通則法第28条から第31条で詳細に規定されています。嫡出親子関係については第28条で「夫婦の一方の本国法で子の出生の当時におけるものにより子が嫡出となるべきときは、その子は、嫡出子となる」と定められています 。
参考)http://lex.lawlibrary.jp/commentary/pdf/z18817009-00-160292001_tkc.pdf
相続については、被相続人の本国法を原則とする規定があり、国際的な相続案件において重要な役割を果たしています。これらの規定により、国際的な家族関係においても法的安定性が確保されています 。
参考)https://ocw.nagoya-u.jp/files/443/yokomizo_11.pdf
宅地建物取引業法の適用を受ける不動産取引においても、通則法の規定が重要な意味を持ちます。国際的な不動産取引では、宅建業法と通則法の両方の規定を理解することが必要です 。
参考)https://www.retio.or.jp/wp-content/uploads/2024/11/houmu_17_002_02.pdf
外国人が日本の不動産を購入する場合や、日本人が海外不動産を取得する場合など、国境を越える不動産取引が増加している現状において、通則法の理解は宅建業者にとって必須の知識となっています 。特に、契約準拠法の指定や物権準拠法の適用について、顧客への適切な説明が求められます。
実務上の具体例として、日本在住の外国人が本国の不動産を売却し、その代金で日本の不動産を購入する場合、売却契約と購入契約それぞれについて異なる準拠法が適用される可能性があります。このような複雑な取引において、通則法の知識は適切な契約書作成や重要事項説明の基礎となります 。
参考)https://townandcitylawoffice-loan.com/page-1211/
また、国際的な不動産取引においては、物権の移転時期や登記制度の違いなど、各国の法制度の相違を理解した上で取引を進める必要があり、通則法の所在地法主義の理解が重要になります 。これらの知識は、宅建業者の専門性向上と顧客サービスの質的向上に直結します。