
「公の秩序」とは、国家・社会の秩序または一般的利益を指す重要な法的概念です。これは民法第90条において「善良の風俗」とともに規定されており、社会的妥当性の判断基準として機能しています。不動産業従事者にとって、この概念の理解は契約の有効性を判断する上で欠かせない知識です。
具体的には以下の要素を含みます。
「公の秩序」と「善良の風俗」は厳密に区別されるものではなく、「公序良俗」という表現で社会的妥当性を表すものとして用いられています。不動産取引においては、常識的に考えてダメだと思うことはしないという原則が適用されます。
不動産業界において公の秩序に反する行為は、民法第90条により契約が無効となる重要なリスク要因です。特に以下のケースが問題となります。
認知症高齢者との取引リスク 🏡
認知症を患う高齢者との不動産売買契約では、暴利行為として公序良俗違反に該当する可能性があります。実際の判例では以下の要因が考慮されています:
具体的な判例事例
大阪高等裁判所の判決では、85歳の売主が軽度・中等度の認知症を患い、仲介業者がその状況を利用して売買契約に誘い込んだケースで、公序良俗違反により契約無効と判断されました。
不動産取引における暴利行為の判断では、客観的要件と主観的要件の両方が検討されます。
客観的要件の具体例 ⚖️
主観的要件の判断ポイント 🎯
相手方の窮迫、軽率、無経験等の事情に乗じた行為が認定される場合。
東京高等裁判所の事例では、70歳の売主との土地建物売買において、売買代金6,000万円が客観的価値1億3,000万円以上の半分に満たない状況で、買主が約6,000万円の転売利益を得たケースが公序良俗違反と判断されました。
不動産業従事者が公の秩序違反リスクを回避するためには、以下の実務対応が重要です。
取引前の確認事項 ✅
契約プロセスでの配慮 📝
公序良俗違反を防ぐためには、契約締結過程における適切な配慮が不可欠です。
リスク管理の体制構築 🛡️
組織として以下の体制整備が推奨されます。
対応項目 | 具体的施策 | 効果 |
---|---|---|
社内研修 | 公序良俗に関する定期教育 | 法的リスクの認識向上 |
契約審査 | 複数者による契約内容チェック | 不適切取引の事前防止 |
価格査定 | 第三者機関による適正価格評価 | 著しい不均衡の回避 |
記録保管 | 契約経緯の詳細な文書化 | 後日の立証責任への対応 |
現代の不動産業界では、従来の公序良俗概念に加えて新たな課題が生じています。超高齢社会の進展により、認知症患者の割合は65歳以上で16.7%(約602万人)に達しており、6人に1人が認知症患者という状況です。
デジタル化時代の新たなリスク 💻
社会的責任の拡大 🌍
不動産業者には単なる法的コンプライアンスを超えた社会的責任が求められています。
予防的アプローチの重要性 🔐
公序良俗違反による契約無効リスクを最小化するため、以下の予防的対策が効果的です。
不動産業従事者として、公の秩序に反しない適切な取引を行うことは、単なる法的義務ではなく、業界全体の信頼性向上と持続可能な事業運営のための重要な基盤となります。特に高齢化社会における脆弱な立場の消費者保護は、社会的使命として位置づける必要があります。
厚生労働省の認知症施策に関する詳細情報(認知症の現状と今後の施策について)
民法第90条の条文と解釈(e-Gov法令検索での正式な条文確認)