
国税通則法第74条の12は、国税庁等又は税関の当該職員が国税に関する調査について必要があるときに、事業者や官公署に対して調査の参考となる帳簿書類その他の物件の閲覧・提供その他の協力を求めることができる権限を定めた条文です。この規定により、税務調査の円滑化と適正公平な課税の実現が図られています。[1][2]
従来は官公署に対してのみこのような協力要請の権限が認められていましたが、平成31年(令和元年)の国税通則法改正により、事業者に対する協力要請についても法的根拠が明文化されました。この改正は令和2年1月1日に施行され、事業者に対する情報提供の依頼がより確実に実施できるようになりました。
参考)https://datsuzei-bengoshi.com/syoukai/
国税通則法74条の12第1項に規定する「事業者」とは、商業、工業、金融業、鉱業、農業、水産業等のあらゆる事業を行う者を指し、営利・非営利の別は問わないとされています。当然のことながら、不動産業や宅地建物取引業もこの事業者に含まれるため、宅建業者も協力要請の対象となります。[3]
税務調査における協力要請は、調査に関して参考となるべき帳簿書類その他の物件の閲覧や提供を求める内容です。具体的には、取引記録、契約書、領収書、顧客情報などの書類が対象となることが想定されます。ただし、協力要請はあくまで任意であり、罰則の定めはありません。
参考)https://www.zeiken.co.jp/hourei/HHTUS000000/74-12.html
しかし、根拠規定の明文化により、個人情報保護法第16条第3項第1号及び第23条第1項第1号における「法令に基づく場合」に該当することが明確となり、個人情報保護法上の制限の対象外となりました。これにより、事業者は個人情報保護法を理由として協力を拒むことは困難になりました。
不動産業界における国税通則法74条の12の適用場面として、まず不動産売買における譲渡所得税の調査が挙げられます。不動産の売買価格や取引条件について、宅建業者が仲介した案件の詳細が求められることがあります。特に高額な不動産取引や複数回にわたる取引については、税務署が申告内容を確認するために宅建業者への協力要請を行う可能性が高いです。[4]
また、賃貸不動産の所得税調査においても、管理会社や仲介業者に対して賃料収入の実態や必要経費の妥当性を確認するための資料提供が求められることがあります。家賃収入の申告漏れや架空の必要経費計上が疑われる場合には、管理会社の帳簿や契約書の提供が要請される場合があります。
参考)https://www.kfs.go.jp/service/JP/110/08/index.html
相続税の調査における不動産評価についても、宅建業者への協力要請が行われる可能性があります。相続財産に含まれる不動産の時価評価や取引事例について、地域の不動産業者が持つ情報が税務調査において重要な参考資料となるためです。
宅建業者が国税通則法74条の12に基づく協力要請を受けた場合の実務的対応について説明します。まず、協力要請は書面で行われることが一般的で、要請の内容や提供を求められる資料の範囲が明確に示されます。協力要請を受けた際は、要請の根拠や必要性について確認し、提供する情報の範囲を把握することが重要です。[4]
協力要請に対する対応は任意であり、拒否しても直接的な罰則はありませんが、税務調査の円滑化に協力することで良好な関係を維持できます。ただし、顧客のプライバシーや営業秘密に関わる情報については、提供の範囲や方法について慎重に検討する必要があります。
協力要請への対応に当たっては、提供する資料の範囲を明確にし、必要に応じて税理士や弁護士などの専門家に相談することが推奨されます。また、提供した情報の取り扱いについて確認し、守秘義務の遵守について税務署側との間で合意を形成しておくことが重要です。
宅建業者が国税通則法74条の12に基づく協力要請に対応する際は、宅地建物取引業法との関係についても注意が必要です。宅建業法では、宅建業者に対して顧客情報の適切な管理が求められており、個人情報の取り扱いについて厳格な規制があります。[6][7]
しかし、国税通則法74条の12に基づく協力要請は「法令に基づく場合」に該当するため、個人情報保護法上の制限を受けません。これにより、宅建業法上の守秘義務と税務調査への協力義務の間でバランスを取りながら対応する必要があります。
実際の対応においては、要請された情報が調査に必要最小限の範囲内であることを確認し、提供する情報の正確性を担保することが重要です。また、協力要請の内容が宅建業者の業務範囲を超える場合や、過度な負担を強いるものである場合には、その旨を税務署側に申し出ることができます。
協力要請への対応記録を適切に保管し、後日のトラブルを回避するための証跡を残しておくことも重要な実務上のポイントです。税務調査への協力は事業者としての社会的責任でもありますが、適切な範囲内での対応を心がけることが大切です。