
価格時点とは、不動産鑑定評価において不動産の価格判定の基準日を指します。不動産の価格は社会経済情勢や周辺地域の状況、不動産に関連する法令上の制限など多数の要因によって形成されており、これらの要因は常に一定ではなく流動的で時の経過により変動するため、不動産の価格はその判定の基準となった日においてのみ妥当するものです。
不動産鑑定評価基準は、こうした経済法則を基礎に「変動の原則」を規定しており、不動産の価格形成要因は常に変動の過程にあることが示されています。そのため、不動産の価格判定においては、その基準日を確定させる必要があり、この日を「価格時点」と呼んでいます。
賃料の場合でも同じく「価格時点」という用語が使用され、賃料の価格時点は算定期間の期首となることが定められています。これは賃料の算定期間の収益性を反映するためであり、賃料特有の時間的要素を考慮した規定です。
価格時点の重要性は、特に経済情勢が急速に変化している時期や周辺で新たな開発やインフラ整備が行われるなど不動産を取り巻く環境に大きな変化があるときに顕著に現れます。このような状況下では、価格時点の僅かな相違によって不動産価格が大きく異なる場合があり、注意が必要です。
不動産に限らず、一般に財の価格は、その価格を形成する要因の変化に伴って変動します。不動産の価格形成要因には以下のような要素があります:
これらの要因が複合的に作用することで、不動産価格は常に変動しており、価格時点が違えば鑑定評価額も違ってくるのが当然の結果となります。
価格時点は、鑑定評価を行った年月日を基準として、現在の場合(現在時点)、過去の場合(過去時点)、将来の場合(将来時点)の3つに分けられます。
現在時点は最も一般的な価格時点であり、鑑定評価を行っている現時点を基準とします。この場合、評価に必要な資料の収集が最も容易であり、価格形成要因の把握も比較的正確に行うことができます。
過去時点の鑑定評価は、対象不動産の確認等が可能であり、かつ、鑑定評価に必要な資料の収集が可能な場合に限り行うことができます。過去時点の評価が必要となるケースには、相続税評価、損害算定、訴訟関連などがあります。
将来時点の鑑定評価は、対象不動産の確定や価格形成要因の把握、分析など、すべて想定又は予測することとなり、また収集する資料についても鑑定評価を行う時点までのものに限られ不確実となります。したがって特に必要がある場合において、鑑定評価上妥当性を欠くことがないと認められる場合を除いては、原則としてこのような鑑定評価は行うべきではないとされています。
時点修正とは、不動産鑑定評価において、評価の基礎となるデータが現在ではなく過去の時点で取得された場合に、その価格データを現在の価格水準に修正する手法のことを指します。価格時点と時点修正は密接な関係にあり、鑑定評価の精度を高めるために欠かせない概念です。
鑑定評価の基本的事項として価格時点を確定しなければならない理由は次の2点です:
たとえば、1年前に行われた類似物件の取引価格を参考にする際、1年間の市場変動を加味して評価時点に合わせた価格を算出しなければなりません。この修正によって、評価結果の整合性が担保されます。
時点修正は、単なる物価の変化だけでなく、金利動向、景気の状況、不動産需給バランスなどさまざまな要因を考慮して行われます。具体的な修正手法には以下があります:
価格時点の設定においては、鑑定評価の依頼目的や使用目的を十分に考慮する必要があります。売買の際には、いつの時点の鑑定評価書が必要なのかを明確にすることが重要です。
資料収集の制約については、鑑定評価作業において必要な資料が得られないほど遠い過去時点、また予測の困難なほどの将来時点の価格時点は不動産鑑定士、不動産鑑定士補の自己の能力を超える業務となるおそれがあるので、設定してはならないこととなっています。
評価時点との関係も重要な要素です。価格時点と評価時点(鑑定評価書を作成し、鑑定評価額を表示した日)の間隔は、資料収集、価格形成要因等に影響するので、評価時点において鑑定評価額に瑕疵がないことを立証するために記載されます。
不動産鑑定評価書を利用する際には、価格時点をはじめとした基本的事項が依頼目的に合致したものとなっているか確認することが重要です。不明な点があれば積極的に不動産鑑定士に説明を求めることで、適切な評価書の活用が可能になります。
価格時点の概念は、不動産取引の安全性と透明性を確保するための基礎的な仕組みであり、不動産業従事者として正確に理解しておくべき重要な専門知識です。市場環境の変化が激しい現代においては、この概念の理解がより一層重要性を増しています。