
割賦販売における回収基準は、平成30年度の税制改正により正式に廃止されました。この廃止は「収益認識に関する会計基準」の制定に伴うもので、国際会計基準との比較可能性確保が主要な理由とされています。
従来の割賦基準では、割賦金の回収期限到来日または入金日をもって売上収益実現の日とすることが認められていました。しかし、新しい収益認識会計基準では、顧客への支配移転時点、すなわち資産の引渡し時点で収益を計上することが原則となりました。
廃止決定の背景には以下の要因があります。
不動産業界では、特にマンション分譲や土地の分割払い販売において、従来の回収基準を採用していた企業が多数存在しており、この廃止による影響は深刻です。
収益認識会計基準への移行により、割賦販売における会計処理は根本的に変更されました。従来の回収基準処理は一切認められなくなり、商品引渡し時点での収益計上が必須となりました。
移行に伴う主要な変更点。
移行時の実務対応として、以下の手順が必要です。
不動産業界特有の長期にわたる分割払い契約では、キャッシュフローと帳簿上の収益に大きな乖離が生じる可能性があるため、資金繰り管理の見直しも必要となります。
廃止に伴い、激変緩和のための経過措置が設けられました。この経過措置により、一定の条件下で従来の延払基準を継続適用することが可能です。
経過措置の概要。
経過措置適用時の処理方法。
10年均等の益金・損金算入:
この経過措置は、収益認識会計基準を適用しない企業にとって特に重要です。中小の不動産会社など、監査法人による監査を受けていない企業では、令和5年3月31日まで現行の延払基準を継続できるメリットがあります。
割賦基準の廃止は、不動産業界の資金繰りに大きな影響を与える可能性があります。従来は代金回収と収益計上のタイミングが一致していたため、帳簿上の利益と実際のキャッシュフローに乖離が生じることは少なかったのですが、新基準では両者に大きな時間差が発生します。
不動産業界特有の影響。
対策の方向性。
不動産分譲業では、マンション販売から代金回収まで数年を要するケースが多く、この影響は特に深刻です。企業によっては、従来の回収基準で算出していた利益の数倍の税負担が発生する可能性もあり、事前の資金準備が不可欠です。
また、金融機関との取引においても、従来とは異なる指標での財務分析が行われる可能性があるため、早期の情報開示と説明責任の強化が求められます。
法人税法上の延払基準も段階的に廃止されることが決定しており、その後の税務処理について理解しておく必要があります。延払基準適用終了時の税務処理は、会計上の処理とは異なる独特の仕組みが設けられています。
延払基準終了時の税務処理。
実務上の注意点。
この10年均等算入制度は、急激な税負担変動を緩和する目的で設けられましたが、長期間にわたる管理業務が必要となります。特に不動産業界では、取引金額が大きいため、適切な管理システムの構築が重要です。
管理システムに求められる機能。
また、会計監査を受ける企業では、この10年均等算入が会計上の損益に影響を与えないよう、申告調整での処理が求められている点にも注意が必要です。