契約自由の原則と例外の分類と実務における重要性

契約自由の原則と例外の分類と実務における重要性

契約自由の原則は民法の基本原則ですが、実務では例外が重要となります。本記事では、契約自由の原則の4つの分類と例外について詳しく解説します。宅建事業者として知っておくべき契約自由の原則の限界とは何でしょうか?

契約自由の原則と例外

契約自由の原則の基本
📝
4つの自由

締結自由・相手方自由・内容自由・方法自由の4つに分類されます

⚖️
例外の存在

公序良俗違反や強行法規による制限があります

🏢
実務上の重要性

宅建業では例外規定を知ることが取引の安全につながります

契約自由の原則の4つの分類と民法上の根拠

契約自由の原則は、私的自治の理念に基づく民法の基本原則の一つです。2020年の民法改正により、この原則は明文化されました。民法第521条第1項では「何人も、法令に特別の定めがある場合を除き、契約をするかどうかを自由に決定することができる」と規定され、第2項では「契約の当事者は、法令の制限内において、契約の内容を自由に決定することができる」と定められています。

 

契約自由の原則は、具体的に以下の4つに分類されます。

  1. 締結自由の原則:契約を締結するか否かを自由に決定できる
  2. 相手方自由の原則:契約の相手方を自由に選択できる
  3. 内容自由の原則:契約の内容を当事者間で自由に決定できる
  4. 方法自由の原則:契約の方式(口頭・書面など)を自由に選べる

これらの自由は、民法第522条第2項にも関連しており、「契約の成立には、法令に特別の定めがある場合を除き、書面の作成その他の方式を具備することを要しない」と規定されています。

 

宅建事業者にとって、この原則を理解することは、不動産取引における契約書作成や交渉の基礎となります。

 

契約自由の原則の例外となる公序良俗違反

契約自由の原則には重要な例外があり、その代表的なものが公序良俗違反です。民法第90条では「公の秩序又は善良の風俗に反する法律行為は、無効とする」と規定されています。

 

公序良俗とは、社会一般で通用している常識やルールを指し、これに反する契約は、たとえ当事者間で合意があったとしても法的に無効となります。

 

宅建業務における公序良俗違反の具体例

  • 不法な目的(風俗営業禁止地域での風俗店営業)のための不動産賃貸契約
  • 著しく不当な賃料や手数料を設定した契約
  • 反社会的勢力との取引
  • 差別的条件を含む賃貸借契約

特に宅建業者は、宅地建物取引業法により、より高い倫理観と法令遵守が求められます。公序良俗に反する契約を仲介・媒介することは、業法違反となる可能性があります。

 

公序良俗の判断基準は時代や社会情勢によって変化するため、常に最新の判例や社会通念に注意を払う必要があります。

 

契約自由の原則の例外となる強行法規と宅建業法

契約自由の原則のもう一つの重要な例外が、強行法規による制限です。強行法規とは、当事者の合意によっても変更できない法律規定を指します。

 

宅建業者にとって特に重要な強行法規には以下のものがあります。

  1. 宅地建物取引業法
    • 第35条(重要事項説明義務)
    • 第37条(書面の交付義務)
    • 第47条(業務上の規制)
  2. 借地借家法
    • 第3条、第9条(借地権の存続期間)
    • 第28条(借家契約の更新拒絶の制限)
  3. 消費者契約法
    • 第8条、第9条(不当条項の無効)
  4. 民法の強行規定
    • 第446条第2項(保証契約の書面要件)

例えば、宅建業法第35条に基づく重要事項説明は、たとえ買主が「説明不要」と言っても省略できません。また、借地借家法では、30年より短い借地権の存続期間の定めは無効とされています。

 

これらの強行法規は、経済的弱者の保護や取引の公正性確保のために設けられており、宅建業者はこれらを遵守した契約書作成と取引進行が求められます。

 

契約自由の原則の例外となる医師の応召義務と公共サービス

契約自由の原則の興味深い例外として、特定の職業や事業に課せられる契約締結義務があります。その代表例が医師の応召義務です。

 

医師法第19条第1項では、「診療に従事する医師は、診察治療の求めがあった場合には、正当な事由がなければ、これを拒んではならない」と規定されています。これは締結自由の原則と相手方自由の原則の両方に対する例外となります。

 

同様の義務は以下の職業にも課せられています。

  • 歯科医師(歯科医師法第19条第1項)
  • 獣医師(獣医師法第19条第1項)
  • 薬剤師(薬剤師法第21条)
  • 助産師(保健師助産師看護師法第39条第1項)

不動産取引に関連する公共サービスにおいても同様の例外があります。

  • 水道事業者は正当な理由なく給水契約の申込みを拒めない(水道法第15条第1項)
  • NHKとの受信契約締結義務(放送法第64条第1項)

宅建業者自身は契約締結義務を負いませんが、これらの公共サービスに関する知識は、物件の説明や契約条件の設定において重要です。例えば、水道の引込みが困難な土地の売買や、特定の放送サービスが受信できない物件の説明などに関わってきます。

 

契約自由の原則の例外と宅建業者の実務上の注意点

宅建業者が日常業務で契約自由の原則の例外に直面するケースは多岐にわたります。以下に実務上特に注意すべきポイントをまとめます。

 

1. 要式契約・要物契約への対応
方法自由の原則の例外として、特定の契約には書面が必要です。宅建業務に関連する要式契約には。

  • 保証契約(民法第446条第2項)
  • 建設工事請負契約(建設業法第19条)
  • 宅建業者が関与する売買契約・賃貸借契約(宅建業法第37条)

これらの契約では、口頭合意だけでは契約が成立しないため、適切な書面作成が必須です。

 

2. 附合契約における消費者保護
不動産取引では、事業者が用意した契約書に消費者が「附合」するケースが一般的です。この場合、以下の点に注意が必要です。

  • 定型約款(民法第548条の2〜4)の適切な表示と説明
  • 消費者契約法に基づく不当条項の排除
  • 説明義務の徹底

3. パワーバランスの不均衡への配慮
大企業と個人、事業者と消費者など、交渉力に差がある場合は特に注意が必要です。

  • 過度に事業者有利な条項の回避
  • 重要事項の丁寧な説明と理解確認
  • クーリングオフ制度の適切な案内

4. 差別的取扱いの禁止
相手方自由の原則には、公正な取引の観点から制限があります。

  • 国籍・人種・性別などによる入居差別の禁止
  • 合理的理由のない契約拒否の回避
  • 公正な取引機会の提供

5. 電子契約への対応
2022年の民法改正により、電子契約の有効性が明確化されましたが、以下の点に注意が必要です。

  • 電子署名法に基づく適切な本人確認
  • 重要事項説明のIT化対応(国土交通省のガイドラインに準拠)
  • 電子データの適切な保存と管理

宅建業者は、契約自由の原則を尊重しつつも、これらの例外規定を熟知し、適法かつ公正な取引を実現することが求められます。特に、弱者保護の観点から設けられた例外規定は、トラブル防止と顧客からの信頼獲得にもつながります。

 

国土交通省:IT重説(IT を活用した重要事項説明)に関するガイドライン

契約自由の原則の例外と不動産取引における具体的事例

契約自由の原則の例外が実際の不動産取引でどのように現れるか、具体的な事例を通して解説します。

 

1. 賃貸借契約における例外事例
賃貸借契約では、借地借家法という強行法規が大きく影響します。

  • 更新拒絶の制限:貸主は正当事由なく更新を拒絶できません(借地借家法第28条)
  • 賃料増額の制限:「近隣相場に比して著しく低廉」でない限り、一方的な賃料増額はできません(同法第32条)
  • 敷金返還の特約:「敷金は一切返還しない」などの特約は無効とされます

実際の裁判例では、「賃借人の債務不履行がなくても敷金を返還しない」という特約が公序良俗違反として無効とされたケースがあります。

 

2. 売買契約における例外事例
不動産売買契約では以下のような例外が重要です。

  • 手付解除制限特約の限界:「手付解除を一切認めない」特約は、民法第557条の趣旨に反し無効とされる可能性があります
  • 瑕疵担保責任の完全免責:「いかなる瑕疵があっても一切責任を負わない」という特約は、消費者契約法により無効となる場合があります
  • クーリングオフの適用:訪問販売による土地売買では、特定商取引法によるクーリングオフが適用され、これを制限する特約は無効です

東京地裁平成28年の判決では、マンション売買において「雨漏りなどの重大な瑕疵についても一切責任を負わない」という特約が、消費者契約法第8条により無効とされました。

 

3. 仲介契約における例外事例
宅建業者の仲介契約でも例外が存在します。

  • 報酬額の上限規制:宅建業法第46条と告示により、報酬額の上限が定められており、これを超える報酬契約は無効です
  • 専任媒介契約の期間制限:宅建業法第34条の2により、専任媒介契約は3ヶ月を超えることができません
  • 両手仲介の制限利益相反となる両手仲介を行う場合は、宅建業法第35条により、その旨を説明する義務があります

最高裁平成元年の判決では、法定上限を超える仲介手数料を受領した宅建業者に対し、超過部分の返還が命じられています。

 

4. 建築請負契約における例外事例
建築請負契約では以下の例外が重要です。

  • 書面による契約義務:建設業法第19条により、一定金額以上の工事では書面契約が義務付けられています
  • 瑕疵担保責任期間の制限住宅の品質確保の促進等に関する法律により、構造耐力上主要な部分等の瑕疵担保責任期間は10年以上とすることが義務付けられています
  • 追加工事の取扱い:「一切の追加工事に応じる」という特約は、消費者契約法により無効となる可能性があります

これらの例外事例を理解することで、宅建業者は法的リスクを回避し、顧客との信頼関係を構築することができます。また、契約書作成時には、これらの例外を踏まえた適切な条項設定が求められます。

 

最高裁判所:仲介手数料上限規制に関する判例