
契約自由の原則は、私的自治の理念に基づく民法の基本原則の一つです。2020年の民法改正により、この原則は明文化されました。民法第521条第1項では「何人も、法令に特別の定めがある場合を除き、契約をするかどうかを自由に決定することができる」と規定され、第2項では「契約の当事者は、法令の制限内において、契約の内容を自由に決定することができる」と定められています。
契約自由の原則は、具体的に以下の4つに分類されます。
これらの自由は、民法第522条第2項にも関連しており、「契約の成立には、法令に特別の定めがある場合を除き、書面の作成その他の方式を具備することを要しない」と規定されています。
宅建事業者にとって、この原則を理解することは、不動産取引における契約書作成や交渉の基礎となります。
契約自由の原則には重要な例外があり、その代表的なものが公序良俗違反です。民法第90条では「公の秩序又は善良の風俗に反する法律行為は、無効とする」と規定されています。
公序良俗とは、社会一般で通用している常識やルールを指し、これに反する契約は、たとえ当事者間で合意があったとしても法的に無効となります。
宅建業務における公序良俗違反の具体例
特に宅建業者は、宅地建物取引業法により、より高い倫理観と法令遵守が求められます。公序良俗に反する契約を仲介・媒介することは、業法違反となる可能性があります。
公序良俗の判断基準は時代や社会情勢によって変化するため、常に最新の判例や社会通念に注意を払う必要があります。
契約自由の原則のもう一つの重要な例外が、強行法規による制限です。強行法規とは、当事者の合意によっても変更できない法律規定を指します。
宅建業者にとって特に重要な強行法規には以下のものがあります。
例えば、宅建業法第35条に基づく重要事項説明は、たとえ買主が「説明不要」と言っても省略できません。また、借地借家法では、30年より短い借地権の存続期間の定めは無効とされています。
これらの強行法規は、経済的弱者の保護や取引の公正性確保のために設けられており、宅建業者はこれらを遵守した契約書作成と取引進行が求められます。
契約自由の原則の興味深い例外として、特定の職業や事業に課せられる契約締結義務があります。その代表例が医師の応召義務です。
医師法第19条第1項では、「診療に従事する医師は、診察治療の求めがあった場合には、正当な事由がなければ、これを拒んではならない」と規定されています。これは締結自由の原則と相手方自由の原則の両方に対する例外となります。
同様の義務は以下の職業にも課せられています。
不動産取引に関連する公共サービスにおいても同様の例外があります。
宅建業者自身は契約締結義務を負いませんが、これらの公共サービスに関する知識は、物件の説明や契約条件の設定において重要です。例えば、水道の引込みが困難な土地の売買や、特定の放送サービスが受信できない物件の説明などに関わってきます。
宅建業者が日常業務で契約自由の原則の例外に直面するケースは多岐にわたります。以下に実務上特に注意すべきポイントをまとめます。
1. 要式契約・要物契約への対応
方法自由の原則の例外として、特定の契約には書面が必要です。宅建業務に関連する要式契約には。
これらの契約では、口頭合意だけでは契約が成立しないため、適切な書面作成が必須です。
2. 附合契約における消費者保護
不動産取引では、事業者が用意した契約書に消費者が「附合」するケースが一般的です。この場合、以下の点に注意が必要です。
3. パワーバランスの不均衡への配慮
大企業と個人、事業者と消費者など、交渉力に差がある場合は特に注意が必要です。
4. 差別的取扱いの禁止
相手方自由の原則には、公正な取引の観点から制限があります。
5. 電子契約への対応
2022年の民法改正により、電子契約の有効性が明確化されましたが、以下の点に注意が必要です。
宅建業者は、契約自由の原則を尊重しつつも、これらの例外規定を熟知し、適法かつ公正な取引を実現することが求められます。特に、弱者保護の観点から設けられた例外規定は、トラブル防止と顧客からの信頼獲得にもつながります。
国土交通省:IT重説(IT を活用した重要事項説明)に関するガイドライン
契約自由の原則の例外が実際の不動産取引でどのように現れるか、具体的な事例を通して解説します。
1. 賃貸借契約における例外事例
賃貸借契約では、借地借家法という強行法規が大きく影響します。
実際の裁判例では、「賃借人の債務不履行がなくても敷金を返還しない」という特約が公序良俗違反として無効とされたケースがあります。
2. 売買契約における例外事例
不動産売買契約では以下のような例外が重要です。
東京地裁平成28年の判決では、マンション売買において「雨漏りなどの重大な瑕疵についても一切責任を負わない」という特約が、消費者契約法第8条により無効とされました。
3. 仲介契約における例外事例
宅建業者の仲介契約でも例外が存在します。
最高裁平成元年の判決では、法定上限を超える仲介手数料を受領した宅建業者に対し、超過部分の返還が命じられています。
4. 建築請負契約における例外事例
建築請負契約では以下の例外が重要です。
これらの例外事例を理解することで、宅建業者は法的リスクを回避し、顧客との信頼関係を構築することができます。また、契約書作成時には、これらの例外を踏まえた適切な条項設定が求められます。