公益通報者保護法改正2025の影響と企業対応ポイント

公益通報者保護法改正2025の影響と企業対応ポイント

2025年改正の公益通報者保護法による企業への影響と必要な体制整備について、フリーランス保護の拡大や罰則強化、従事者指定義務などの重要な変更点を解説。どのような対応が企業に求められているのでしょうか。

公益通報者保護法改正2025の概要と施行時期

2025年公益通報者保護法改正の主要ポイント
📅
施行時期

2025年6月11日公布、2026年中に施行予定

👥
保護対象拡大

フリーランスが新たに保護対象に追加

⚖️
罰則強化

最大3000万円の法人罰金を導入

2025年6月4日に成立し、同月11日に公布された公益通報者保護法改正法は、企業の内部通報制度に大きな変革をもたらします。施行時期は公布日から1年6カ月以内とされており、2026年中の施行が見込まれています。
参考)https://www.toben.or.jp/know/iinkai/koueki/column/post_26.html

 

今回の改正は、2020年の前回改正時の附則や附帯決議を踏まえ、消費者庁による実態調査と有識者検討会での議論を経て実現したものです。改正の背景には、企業不祥事の相次ぐ発生と、現行法では十分な保護が図れていない実情があります。
参考)https://keiyaku-watch.jp/media/hourei/koekitsuhosyahogohou-2026/

 

改正法は4つの主要な柱から構成されており、第一に事業者が公益通報に適切に対応するための体制整備の徹底と実効性向上、第二に公益通報者の範囲拡大、第三に公益通報を阻害する要因への対処、第四に公益通報を理由とする不利益な取扱いの抑止・救済の強化が挙げられます。

公益通報者保護法改正による保護対象の拡大

最も注目すべき変更点の一つが、公益通報者として保護される対象の拡大です。現行法では労働者、退職者、役員、派遣社員、請負契約の労働者が保護対象とされていましたが、改正法では新たに「特定受託業務従事者」、いわゆるフリーランスが追加されました。
参考)https://kpmg.com/jp/ja/home/insights/2025/09/toriteki-law-2026-update.html

 

具体的には、事業者と業務委託契約を結んで業務を行う個人事業主や、従業員がゼロの法人が対象となります。さらに、契約終了後1年以内の元フリーランスも保護対象に含まれるため、企業は契約関係が終了した後も一定期間は通報者保護の義務を負うことになります。
参考)https://zelojapan.com/lawsquare/57639

 

この変更により、企業は取引先マスターや取引先名簿からフリーランスに該当する企業の特定を行い、契約締結時の内部通報制度の説明などが必要になります。フリーランスから内部通報を受けた場合は、正社員同様に保護対象として扱い、通報を理由とした契約解除や報酬支払い停止といった不利益取扱いは禁止されます。

公益通報者保護法改正での不利益取扱い禁止強化

改正法では、公益通報を理由とする解雇や懲戒処分に対する罰則が大幅に強化されました。通報を理由とする解雇・懲戒処分を行った個人には最大6か月の拘禁刑または30万円以下の罰金、法人には最大3000万円以下の罰金が科されることになります。
参考)https://news.yahoo.co.jp/articles/327f34b73d8b99598143963a1845cbe68ee92b1f

 

特に重要なのが、立証責任の転換(推定規定)の新設です。公益通報から1年以内、または事業者が公益通報を知ってから1年以内に行われた解雇又は懲戒処分については、公益通報をしたことを理由としてされたものと推定されます。これにより、企業側が「その処分と通報が無関係である」という立証責任を負うことになり、通報者の保護が大幅に強化されました。
参考)https://www.businesslawyers.jp/articles/1451

 

従来は通報者側が解雇や懲戒の理由を立証する必要がありましたが、改正法により企業側の立証責任が重くなることで、報復的な処分への抑止効果が期待されています。また、懲戒の無効についても法律に明記され、労働者が保護要件を満たす公益通報をしたことを理由とする懲戒は無効とされます。

公益通報者保護法改正における従事者指定義務の実効性強化

改正法では、従事者指定義務に関する実効性が大幅に強化されました。現行法では従事者指定義務違反に対して助言・指導、勧告、公表といった行政措置にとどまっていましたが、改正法では消費者庁による立入検査権限と命令権が新設されます。
参考)https://umbrella.or.jp/column/12497/

 

従事者指定義務に違反し勧告に従わない企業に対しては、消費者庁が命令を出すことができるようになり、命令違反時には30万円以下の罰金という刑事罰が科されます。また、立入検査結果に係る報告をしない行為や虚偽報告、検査拒否を行った企業に対しても30万円以下の罰金が科される予定です。
従事者は「公益通報に関して公益通報対応業務を行う者であり、かつ、当該業務に関して公益通報者を特定させる事項を伝達される者」と定義されており、公益通報窓口として通報を受け付ける者は必然的に従事者として指定する必要があります。外部に委託する場合でも、顧問弁護士などの委託先を従事者として指定することが求められます。
参考)https://ylo-corporatelaw.com/others/whistleblower/article03/

 

公益通報者保護法改正による内部通報制度整備の要点

企業には改正法施行に向けて、内部通報制度の整備と運用体制の見直しが急務となります。従業員301人以上の企業には体制整備義務が課されており、未整備の場合は行政指導や勧告の対象となる可能性があります。
参考)https://www.businesslawyers.jp/practices/1447

 

内部通報制度の構築には、まず通報窓口の設置が必要です。従業員が安心して通報できるよう、経営陣から独立した窓口を含めた複数の通報経路を設計することが重要です。社内のコンプライアンス部門とは別に、外部の第三者(顧問弁護士等)に委託した通報窓口を併用する方法が効果的とされています。
参考)https://biz.moneyforward.com/ipo/basic/13086/

 

通報方法についても、書面・メール・電話など複数手段を用意し、匿名での通報も受け付けることでハードルを下げることが推奨されています。さらに、通報受付から調査の実施、是正に必要な措置までの一連のプロセスを適切に行える体制を整備する必要があります。
参考)https://www.freee.co.jp/kb/kb-ipo/whistleblowing/

 

企業法務とコンプライアンスの連携も重要な要素です。法務部門が新規事業における法的リスクの洗い出し・分析・対応策の検討を行い、コンプライアンス部門がその遵守を確保するための社内ルールや教育プログラムを整備することで、包括的なリスクマネジメント体制を構築できます。
参考)https://www.legalon-cloud.com/media/difference-between-corporate-law-and-compliance

 

公益通報者保護法改正対応の実務上の留意点

改正法への対応において、企業が特に注意すべき実務上のポイントがあります。まず、フリーランスとの契約管理体制の見直しが必要です。業務委託契約を結ぶフリーランスに対して、内部通報制度の存在と利用方法について適切に説明する仕組みを構築しなければなりません。
また、通報妨害や通報者の特定を試みる行為が禁止されるため、社内における通報者の匿名性確保と情報管理体制の強化が不可欠です。従事者には守秘義務が課されており、従事者でなくなった後も刑事罰としての守秘義務を負うため、適切な情報管理プロセスの確立が求められます。
参考)https://ylo-corporatelaw.com/others/whistleblower/article02/

 

さらに、通報から1年以内の解雇・懲戒処分が推定規定の対象となるため、人事管理における記録保持と合理的理由の明確化が重要になります。企業は日常の人事管理において、公益通報とは無関係な客観的で合理的な理由を適切に文書化し、立証できる体制を整備する必要があります。
コンプライアンス体制の実効性向上には、定期的な研修実施と制度の周知徹底も欠かせません。従業員だけでなく、フリーランスを含む取引先に対しても、改正法の内容と通報制度の利用方法について適切な情報提供を行うことで、法令遵守の実効性を高めることができます。