
工作物責任とは、土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があることによって他人に損害を生じた場合に、その工作物の占有者や所有者が負う損害賠償責任のことです。この制度は民法717条に規定されており、被害者保護の観点から設けられた重要な法的制度です。
工作物とは、土地に接着して築造された設備を指し、建物、擁壁、看板、エレベーター、エスカレーター、ガス設備、電柱、橋、トンネルなど多岐にわたります。自然に存在する池や沼、暫定的に積まれた土砂などは工作物には含まれません。
瑕疵とは、工作物がその種類に応じて通常備えているべき安全性を欠いていることを意味します。この安全性は絶対的・理想的なものである必要はなく、通常のもので十分とされています。
工作物責任では、責任を負う者の優先順位が明確に定められています。
一次的責任者:占有者
まず、工作物の占有者が損害賠償責任を負います。占有者とは、実際にその工作物を使用・管理している者を指します。賃貸アパートの場合、共用部分(階段、エレベーター、駐車場等)については賃貸人が占有者となります。
二次的責任者:所有者
占有者が「損害の発生を防止するのに必要な注意をしたとき」は、所有者が責任を負います。所有者の責任は無過失責任であり、過失の有無に関わらず責任を負わなければなりません。
この二段階の責任構造により、被害者は確実に損害の賠償を受けることができる仕組みとなっています。
実際の事例を通じて工作物責任の適用を見てみましょう。
建物関連の事例
土木構造物の事例
これらの事例では、事故当時における工作物の構造、用法、場所的環境、利用状況等の諸般の事情を総合考慮して、個別具体的に瑕疵の有無が判断されます。
損害賠償を行った占有者や所有者は、真の責任者に対して求償することができます。これは民法717条3項に規定されている重要な権利です。
求償の対象者
求償の要件
求償権を行使するためには、まず占有者または所有者が被害者に対して損害賠償を行うことが前提となります。その後、損害の原因について他に責任を負う者がいることを証明し、その者に対して求償権を行使することができます。
この制度により、最終的な責任は真の原因者が負担することとなり、公平な責任分担が実現されています。
不動産業従事者として、工作物責任のリスクを最小限に抑えるための対策を講じることが重要です。
定期点検・保守管理の徹底
瑕疵の早期発見・対応
適切な保険加入
契約書での責任分担の明確化
これらの対策により、工作物責任のリスクを大幅に軽減することが可能です。特に不動産業では多数の物件を扱うため、組織的・体系的なリスク管理が不可欠です。