
ノンリコースローンは、特定の資産から生じるキャッシュフローのみを返済原資とする融資方式です。この融資形態では、担保物件の価値と収益性が融資判断の中核となり、借入人の信用力よりも担保資産の質が重視されます。
従来のリコースローンとは異なり、返済不能時の責任範囲が担保物件に限定されるため、「非遡及型融資」とも呼ばれています。例えば、8,000万円の不動産を担保に同額の融資を受けた場合、物件売却価格が5,000万円にとどまっても、残り3,000万円の返済義務は生じません。
この仕組みにより、借入人は他の事業や資産への影響を最小限に抑えながら、大規模な資金調達が可能となります。特に不動産証券化や大型開発プロジェクトにおいて、リスク分散効果を発揮する重要な金融手法として位置づけられています。
ノンリコースローンの審査では、担保物件の収益性と将来価値が最重要項目となります。金融機関は以下の要素を厳格に評価します。
審査基準はリコースローンよりも厳格で、担保物件の評価額に対する融資比率(LTV)は通常60-80%程度に設定されます。また、デット・サービス・カバレッジ・レシオ(DSCR)として、年間キャッシュフローが年間元利返済額の1.2-1.5倍以上であることが求められるケースが多いです。
金融機関によっては、担保物件の管理会社の実績や、テナントとの賃貸借契約の内容まで詳細に審査します。これは、返済原資が担保物件の収益に依存するため、収益の安定性と継続性を確保する必要があるからです。
責任財産限定特約は、ノンリコースローンの核心となる契約条項です。この特約により、以下の内容が明確に規定されます。
この特約の存在により、借入人は担保物件を超えた責任を負わないことが法的に保証されます。ただし、借入人が故意または重過失により担保価値を毀損した場合や、契約違反があった場合は、この限定が解除される可能性があります。
実務上は、担保物件の保険加入義務、適切な維持管理義務、第三者への担保提供禁止などの付帯条件が設定されることが一般的です。これらの条件違反は、責任財産限定特約の効力に影響を与える可能性があるため、借入人は慎重な物件管理が求められます。
制約条項(コベナンツ)は、債権者が貸付リスクを管理するために設定する約束事項です。ノンリコースローンでは、以下のような制約が課されることが多いです。
財務制約条項
行為制約条項
情報提供義務
これらの制約条項に違反した場合、期限の利益を喪失し、債権者は担保物件の処分権を行使できます。そのため、借入人は契約締結時に制約内容を十分理解し、継続的な遵守体制を整備することが重要です。
ノンリコースローンの担保処分時には、特殊な税務処理が適用されます。通常の不動産売却とは異なり、以下の点で独特な取扱いとなります。
債務免除益の認識
担保物件の売却価格が残債務を下回った場合、その差額は債務免除益として課税対象となる可能性があります。ただし、資産の時価が債務額を下回っている場合は、債務免除益の計上が不要とされるケースもあります。
減価償却の取扱い
ノンリコースローンで取得した不動産の減価償却については、通常の不動産と同様の処理が適用されます。しかし、担保処分時の損益計算では、取得価額から累計減価償却額を控除した帳簿価額が基準となります。
消費税の取扱い
事業用不動産の場合、担保処分による売却でも消費税の課税対象となります。ただし、居住用賃貸物件の場合は非課税取引として扱われます。
これらの税務処理は複雑であり、専門家による事前検討が不可欠です。特に法人が借入人の場合、会計処理と税務処理の差異が生じる可能性があるため、適切な税務戦略の策定が重要となります。
国税庁の研究報告書では、ノンリコースローンの税務上の取扱いについて詳細な検討が行われています。
https://www.nta.go.jp/about/organization/ntc/kenkyu/ronsou/77/02/01.pdf