両手仲介の仕組みと囲い込み対策で不動産業界を理解する

両手仲介の仕組みと囲い込み対策で不動産業界を理解する

両手仲介は不動産業界で一般的な取引形態ですが、囲い込みなどの問題も指摘されています。片手仲介との違いやメリット・デメリット、法的規制について詳しく解説します。あなたは両手仲介の実態を正しく理解していますか?

両手仲介の基本構造と業界実態

両手仲介の基本構造
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両手仲介とは

1社が売主・買主双方を仲介し、両方から手数料を受け取る取引形態

💰
手数料構造

片手仲介の約2倍の収益を得られるため業者にとって魅力的

⚖️
利益相反の問題

売主の高値希望と買主の安値希望の板挟みになる構造的課題

両手仲介の定義と片手仲介との違い

両手仲介とは、売主から物件の売却を依頼された不動産会社が、自社で買主を探してきて売買契約を結ぶ取引形態を指します。この場合、その不動産会社が売主と買主どちらの仲介も行うため「両手」と呼ばれています。

 

一方、片手仲介は売主か買主のどちらか片方だけを仲介することです。例えば売主が業者A社に売却を依頼し、買主がB社に購入を依頼した場合、A社は売主の仲介、B社は買主の仲介となり、それぞれが片方だけを仲介したことになります。

 

仲介手数料の観点から見ると、400万円を超える売買であれば受領できる仲介手数料の上限は「売買価格×3%+6万円+消費税」となります。片手仲介の場合はこの金額が上限ですが、両手仲介の場合は買主からも売主からも仲介手数料を受け取ることが可能なため、実質的に2倍の収益を得ることができます。

 

両手仲介における囲い込み問題の実態

両手仲介で最も問題視されているのが「囲い込み」です。囲い込みとは、売却依頼をされた物件を意図的に他社の目に触れないようにして、積極的に両手仲介を狙いに行く行為を指します。

 

具体的な囲い込みの手法として、以下のようなものがあります。

  • 専属専任媒介契約と専任媒介契約で義務付けられているレインズ(物件情報システム)への登録を怠る
  • レインズに登録後、すぐに情報を削除する
  • 他社からの問い合わせに対して「現在売主様の都合で一時紹介をストップしています」などと虚偽の回答をする
  • 物件を相場より高い価格で売り出し、意図的に「干す」期間を作る

囲い込みをされると、売却の機会が減ることを意味し、売却に時間がかかったり、最終的に値下げを余儀なくされたりします。不動産会社にとっては大幅に値下げしたとしても、仲介手数料を片手取引の倍受け取った方が自社の利益が大きいため、このような行為が行われるのです。

 

国土交通省は2024年6月に宅建業法施行規則を改正し、2025年以降に「囲い込み」が確認された宅建業者は指示処分の対象となることを明確化しました。

 

両手仲介のメリットとデメリット分析

両手仲介のメリット
売主側から見た両手仲介のメリットとして、以下の点が挙げられます。

  • 交通整理がしやすい:関係者が少なくなるため、売り手側と買い手側の担当者の言うことが違うということがなくなります
  • 意思疎通がスムーズ:双方と接しているので内見の調整がよりスムーズで、買い手の検討が進まなかった際も、お断りの理由をヒヤリングして次に生かすことができます
  • 詳細な物件情報の提供:売主から直接話を聞いた担当者・会社が案内するため、周辺情報・物件情報に詳しく、売主の「家」に対する思いをしっかり買主に届けることができます
  • 早期成約の可能性:条件が合いそうな買主を紹介することで、一連の流れをスムーズに進めることができ、早く決まる、高い金額で決まることもあります

両手仲介のデメリット
一方で、以下のようなデメリットも存在します。

  • 利益相反の問題:売主は高く売りたい、買主は安く買いたいという相反する利益を1社で調整しなければならない
  • 囲い込みのリスク:他社からの問い合わせをシャットアウトする不法行為が発生する可能性
  • 売却価格の下落リスク:多少売却価格が下がっても業者の利益は確保されるため、売主が不当に安く買い叩かれる可能性
  • 競争原理の阻害:複数の買主が比較検討しづらく、価格の競り上がりが期待しづらい

両手仲介の法的規制と双方代理の関係

両手仲介に関する法的な位置づけについて、重要な点を整理する必要があります。

 

民法の双方代理禁止規定との関係
民法第108条では双方代理を原則禁止していますが、宅建業法では一定の条件下で両手仲介を認めています。同一業者が売主・買主双方の代理人となることは、民法の双方代理の禁止に抵触し、原則的にはできません。しかし、宅建業法では「媒介」という形で、代理ではなく仲介として位置づけることで、この問題を回避しています。

 

宅建業法施行規則の改正
2024年6月の宅建業法施行規則改正により、囲い込み行為に対する規制が強化されました。具体的には。

  • 囲い込みが確認された宅建業者は指示処分の対象となる
  • レインズへの登録義務違反や虚偽報告に対する処分が明確化
  • 業界の透明性向上と消費者保護の強化

この改正により、悪質な囲い込み行為を行う業者に対する監督が厳格化され、業界全体の健全化が期待されています。

 

両手仲介における独自の顧客満足度向上戦略

従来の両手仲介批判とは異なる視点から、両手仲介を活用した顧客満足度向上の戦略について考察します。

 

情報の一元管理による付加価値創出
両手仲介の特性を活かし、売主・買主双方の詳細なニーズを把握することで、従来の片手仲介では実現できない付加価値を創出することが可能です。

  • ライフスタイルマッチング:売主の住まいへの思い入れと買主の理想の暮らしをマッチングさせる
  • アフターフォローの充実:売買後も双方との関係を維持し、長期的なサポートを提供
  • 地域コミュニティの継承:売主から買主へ地域の情報や人間関係を橋渡しする

透明性の確保による信頼構築
両手仲介における利益相反の問題を解決するため、以下のような透明性確保の取り組みが重要です。

  • 価格査定の根拠明示:複数の査定方法を用いて客観的な価格を提示
  • 市場動向の共有:売主・買主双方に同じ市場情報を提供
  • 交渉過程の可視化:価格交渉の経緯を双方に詳細に報告

テクノロジーを活用した公正性の担保
デジタル技術を活用することで、両手仲介の公正性を担保する仕組みの構築が可能です。

  • AI価格査定の導入:人的バイアスを排除した客観的価格算出
  • ブロックチェーン技術の活用:取引履歴の改ざん防止と透明性確保
  • オンライン査定システム:複数の査定結果を同時に提示

これらの戦略により、両手仲介の構造的な問題を解決しながら、顧客満足度の向上を実現することが可能となります。重要なのは、両手仲介を単なる収益最大化の手段として捉えるのではなく、顧客価値創出のためのツールとして活用することです。

 

両手仲介は確かに利益相反の問題を抱えていますが、適切な運用と透明性の確保により、売主・買主双方にとってメリットのある取引形態として機能させることができます。業界全体としては、囲い込みなどの悪質な行為を排除しながら、両手仲介の持つポテンシャルを最大限に活用していくことが求められています。