
両手仲介とは、売主から物件の売却を依頼された不動産会社が、自社で買主を探してきて売買契約を結ぶ取引形態を指します。この場合、その不動産会社が売主と買主どちらの仲介も行うため「両手」と呼ばれています。
一方、片手仲介は売主か買主のどちらか片方だけを仲介することです。例えば売主が業者A社に売却を依頼し、買主がB社に購入を依頼した場合、A社は売主の仲介、B社は買主の仲介となり、それぞれが片方だけを仲介したことになります。
仲介手数料の観点から見ると、400万円を超える売買であれば受領できる仲介手数料の上限は「売買価格×3%+6万円+消費税」となります。片手仲介の場合はこの金額が上限ですが、両手仲介の場合は買主からも売主からも仲介手数料を受け取ることが可能なため、実質的に2倍の収益を得ることができます。
両手仲介で最も問題視されているのが「囲い込み」です。囲い込みとは、売却依頼をされた物件を意図的に他社の目に触れないようにして、積極的に両手仲介を狙いに行く行為を指します。
具体的な囲い込みの手法として、以下のようなものがあります。
囲い込みをされると、売却の機会が減ることを意味し、売却に時間がかかったり、最終的に値下げを余儀なくされたりします。不動産会社にとっては大幅に値下げしたとしても、仲介手数料を片手取引の倍受け取った方が自社の利益が大きいため、このような行為が行われるのです。
国土交通省は2024年6月に宅建業法施行規則を改正し、2025年以降に「囲い込み」が確認された宅建業者は指示処分の対象となることを明確化しました。
両手仲介のメリット
売主側から見た両手仲介のメリットとして、以下の点が挙げられます。
両手仲介のデメリット
一方で、以下のようなデメリットも存在します。
両手仲介に関する法的な位置づけについて、重要な点を整理する必要があります。
民法の双方代理禁止規定との関係
民法第108条では双方代理を原則禁止していますが、宅建業法では一定の条件下で両手仲介を認めています。同一業者が売主・買主双方の代理人となることは、民法の双方代理の禁止に抵触し、原則的にはできません。しかし、宅建業法では「媒介」という形で、代理ではなく仲介として位置づけることで、この問題を回避しています。
宅建業法施行規則の改正
2024年6月の宅建業法施行規則改正により、囲い込み行為に対する規制が強化されました。具体的には。
この改正により、悪質な囲い込み行為を行う業者に対する監督が厳格化され、業界全体の健全化が期待されています。
従来の両手仲介批判とは異なる視点から、両手仲介を活用した顧客満足度向上の戦略について考察します。
情報の一元管理による付加価値創出
両手仲介の特性を活かし、売主・買主双方の詳細なニーズを把握することで、従来の片手仲介では実現できない付加価値を創出することが可能です。
透明性の確保による信頼構築
両手仲介における利益相反の問題を解決するため、以下のような透明性確保の取り組みが重要です。
テクノロジーを活用した公正性の担保
デジタル技術を活用することで、両手仲介の公正性を担保する仕組みの構築が可能です。
これらの戦略により、両手仲介の構造的な問題を解決しながら、顧客満足度の向上を実現することが可能となります。重要なのは、両手仲介を単なる収益最大化の手段として捉えるのではなく、顧客価値創出のためのツールとして活用することです。
両手仲介は確かに利益相反の問題を抱えていますが、適切な運用と透明性の確保により、売主・買主双方にとってメリットのある取引形態として機能させることができます。業界全体としては、囲い込みなどの悪質な行為を排除しながら、両手仲介の持つポテンシャルを最大限に活用していくことが求められています。