
宅建試験において「双方代理」は頻出テーマの一つです。民法108条に規定されているこの内容は、権利関係の分野で重要なポイントとなっています。本記事では、双方代理の概念から実務上の注意点、さらには宅建試験での出題傾向まで詳しく解説していきます。
双方代理とは、一人の代理人が契約の当事者双方(売主と買主など)の代理人となって契約を締結することをいいます。民法108条では、このような双方代理による契約行為は原則として「代理権を有しない者がした行為とみなす」と規定しています。つまり、無権代理として扱われるのです。
民法108条の条文を確認してみましょう。
「(自己契約及び双方代理等)
第百八条 同一の法律行為について、相手方の代理人として、又は当事者双方の代理人としてした行為は、代理権を有しない者がした行為とみなす。ただし、債務の履行及び本人があらかじめ許諾した行為については、この限りでない。」
この規定により、例えば不動産会社の担当者が売主と買主の両方から代理権を与えられて契約を締結した場合、原則としてその契約は無権代理となり、本人に効果が及ばないことになります。
なぜこのような規定があるのでしょうか。それは、代理人が双方の利益を同時に考慮することは困難であり、一方の当事者(特に代理人と関係の深い方)に有利な条件で契約が締結される恐れがあるからです。例えば、価格交渉において、代理人が一方に有利な価格設定をする可能性があります。
双方代理と混同されやすい概念に「自己契約」があります。自己契約とは、代理人が本人の代理人として、自分自身と契約することをいいます。例えば、Aさんから不動産売却の代理権を与えられたBさんが、自らその不動産を購入するような場合です。
自己契約と双方代理の違いを整理すると。
宅建試験では、これらの違いを理解した上で、どのような場合に無権代理となるか、またはどのような例外があるかを問う問題が出題されます。特に、以下のようなポイントが重要です。
過去の宅建試験では、「AがB所有の土地の売却を代理する権限をBから書面で与えられている場合、AがCの代理人となってBC間の売買契約を締結したときは、Cは土地の所有権を当然に取得するか」といった形式で出題されています。この場合、双方代理にあたり、本人の許諾がない限り無権代理となるため、Cは当然には所有権を取得しないことになります。
双方代理が原則として無権代理として扱われる理由は、利益相反の可能性があるからです。代理人が双方の利益を同時に守ることは難しく、一方に不利益が生じる可能性があります。
具体例で考えてみましょう。
三留不動産は、顧客Aから土地の売却を委任され代理人となりました。同時に、三留不動産は知人Bからその土地の購入を委任されました。この場合、三留不動産は売主Aと買主Bの双方の代理人となります。
もし三留不動産がBと親しい関係にあれば、Aの利益よりもBの利益を優先して、土地を市場価格よりも安く売却する可能性があります。逆に、Aと親しければ、Bの利益を犠牲にして高い価格で契約を締結するかもしれません。
このような利益相反の可能性があるため、双方代理は原則として禁止され、無権代理として扱われるのです。無権代理となった場合、本人(この例ではAとB)は契約を追認することもできますが、追認しなければ契約の効果は本人に及びません。
双方代理が認められる例外として、「本人があらかじめ許諾した行為」と「債務の履行」があります。
「本人があらかじめ許諾した行為」とは、契約の当事者双方が、同一人物が双方の代理人となることを事前に承諾している場合です。この場合、双方が利益相反の可能性を認識した上で代理を依頼しているため、双方代理が認められます。
「債務の履行」の代表的な例として、司法書士による登記申請があります。不動産売買契約が成立した後、所有権移転登記を行う際、売主と買主の双方が同じ司法書士に登記申請を依頼することがあります。
この場合、以下の理由から双方代理が認められます。
司法書士が双方代理で登記申請を行う場合、売主・買主双方の利益を害する可能性はほとんどなく、むしろ手続きの効率化につながります。そのため、「債務の履行」として例外的に認められているのです。
実務上、司法書士は売買契約締結後の登記手続きにおいて、売主・買主双方から委任を受けることが一般的です。これは双方代理の例外として有効であり、宅建業務においても重要な知識となります。
宅建試験では、双方代理に関する問題が繰り返し出題されています。過去問を分析すると、以下のようなパターンで出題されることが多いです。
例えば、2010年の宅建試験では次のような問題が出題されました。
「Bが売主Aの代理人であると同時に買主Dの代理人としてAD間で売買契約を締結しても、あらかじめ、A及びDの承諾を受けていれば、この売買契約は有効である。」
この問題の正解は「正しい」です。なぜなら、双方代理は原則として禁止されていますが、本人(この場合はAとD)があらかじめ許諾した場合は例外として有効となるからです。
また、2008年の宅建試験では。
「AがB所有の甲土地の売却を代理する権限をBから書面で与えられている場合、AがCの代理人となってBC間の売買契約を締結したときは、Cは甲土地の所有権を当然に取得する。」
この問題の正解は「誤り」です。Aは売主Bと買主Cの双方の代理人となっており、双方代理にあたります。本人の許諾がない限り無権代理となるため、Cは当然には所有権を取得しません。
宅建試験対策としては、双方代理の基本概念と例外規定を理解した上で、具体的な事例に当てはめて考える練習が効果的です。特に、「当然に」「有効に」といった表現に注意し、無権代理となる場合と有効となる場合を明確に区別できるようにしましょう。
双方代理と無権代理の関係について、あまり知られていない特殊なケースとして「相続」に関する判例があります。これは宅建試験でも出題されることがある重要なポイントです。
無権代理人と本人の間で相続が発生した場合、以下のような判例が確立しています。
例えば、2008年の宅建試験では次のような問題が出題されました。
「Aが無権代理人であってDとの間で売買契約を締結した後に、Bの死亡によりAが単独でBを相続した場合、Dは甲土地の所有権を当然に取得する。」
この問題の正解は「正しい」です。無権代理人が本人を単独で相続した場合、無権代理行為は相続と共に当然に有効になるという判例に基づいています。
一方、本人が無権代理人を相続した場合は異なります。
「Aが無権代理人であってEとの間で売買契約を締結した後に、Aの死亡によりBが単独でAを相続した場合、Eは甲土地の所有権を当然に取得する。」
この問題の正解は「誤り」です。本人が無権代理人を相続しても、無権代理行為は当然には有効にならないからです。
この相続に関する特殊ケースは、双方代理による無権代理の場合にも適用されます。宅建試験では、このような相続と無権代理の関係についても理解しておく必要があります。
以上のように、双方代理は宅建業務や宅建試験において重要なテーマです。基本概念と例外規定を理解し、具体的な事例に当てはめて考える力を養うことで、実務においても試験においても適切に対応できるようになるでしょう。
宅建業に従事する方々は、双方代理の禁止規定を遵守しつつ、例外的に認められるケースを正確に把握することで、適法かつ円滑な取引を実現することができます。また、宅建試験受験者は、過去問を通じて双方代理に関する出題パターンを把握し、効率的な学習を進めることが合格への近道となるでしょう。