
不動産売買契約書の特約条項は、標準的な雛形契約書に記載されていない 個別の取引条件 を定める重要な条項です。売主と買主双方の合意により設けられ、一般条項に抵触する場合は特約条項が優先されます。
不動産取引の多様性に対応するため、物件の状況や当事者の事情に応じて柔軟に内容を設定できます。ただし、強行法規に反する内容や公序良俗に違反する条項は無効となるため、適切な法的知識が必要です。
特約条項の効力は、通常の契約条項よりも強く、場合によっては一般条項を打ち消すことも可能です。そのため、記載内容については売主・買主双方が十分に理解し、合意した上で契約書に明記することが重要となります。
特約条項の記載には、明確で 曖昧性のない表現 を使用することが重要です。条項番号を明確にし、「本契約書第○条の規定にかかわらず」などの文言で既存条項との関係を示します。
記載方法の基本構成。
例文では、「本物件に設定されている抵当権が対象不動産の引き渡し時までに抹消されない場合、本契約は解約とし」のように、条件と結果を明確に対応させる構文が使われています。
文言の選択においては、法的な正確性を保ちながら、当事者双方が理解しやすい表現を心がけることが重要です。専門用語を使用する場合は、その定義を明確にし、解釈の余地を残さないよう配慮します。
抵当権抹消に関する特約は、不動産売買契約で 最も頻繁に使用される条項 の一つです。売主が住宅ローンなどの担保として設定している抵当権の処理について定めます。
通常の抹消特約例文。
「本契約書第○条の規定にかかわらず、本物件に設定されている抵当権が対象不動産の引き渡し時までに抹消されない場合、本契約は解約とし、売主は受領済みの金員を無利息にて買主に返還するものとする」
同時抹消特約例文。
「本物件に設定されている抵当権については、売主が買主から受領する残代金を充当し、その債務を完済した上で抹消することとする。前記抵当権の抹消登記については所有権移転登記と同時に、その申請手続きを行うものとする」
同時抹消特約は、売却代金で住宅ローンを完済する場合に使用され、決済と登記を同日に行う 実務に対応した条項です。この特約により、買主は安全に所有権を取得でき、売主も確実に債務を完済できます。
住宅ローン特約は、買主が 金融機関からの融資を前提 として不動産を購入する場合に設ける条項です。審査に通らなかった場合の契約解除を可能にし、買主を保護する重要な特約となります。
基本的なローン特約例文。
「買主は、融資金額○○万円、融資利率年○%以下、返済期間○年以下の条件で、○年○月○日までに金融機関から融資の承認を得るものとする。期日までに融資の承認が得られない場合、買主は本契約を無条件で解除することができ、売主は受領済みの手付金等を無利息で返還する」
詳細な条件設定例文。
「買主は下記金融機関から融資を受けて売買代金を調達する予定である。融資の全部または一部について承認が得られない場合、または承認された融資条件が下記条件に適合しない場合、買主は○年○月○日までに限り本契約を解除できるものとする」
期限設定は通常 1ヶ月程度 が一般的ですが、金融機関の審査期間を考慮して適切に設定する必要があります。期限を超えてからの解除は違約金が発生する可能性があるため、余裕を持った期間設定が重要です。
境界確定特約は、土地の売買において 隣地との境界が未確定 の場合に設ける条項です。測量費用の負担や確定できない場合の契約解除について定めます。
境界確定義務の特約例文。
「売主は、本物件の引渡しまでに隣接地所有者立会いのもと境界確定測量を実施し、境界確定図を作成して買主に交付するものとする。測量費用は売主の負担とする」
境界確定不能時の解除特約例文。
「万一、売主の責めに帰さない事由により隣接地所有者の境界確認書が取得できない場合、売主及び買主は協議のうえ本契約を無償にて解除することができるものとする」
現況有姿での引渡し特約例文。
「本物件の境界については現況有姿にて引渡しを行い、将来境界に関して紛争が生じても売主は一切の責任を負わないものとする。ただし、売主は買主に対し既存の境界に関する資料を全て引き継ぐものとする」
境界問題は 長期化しやすい ため、事前の合意と適切な特約設定が重要です。特に都市部では隣地所有者との調整が困難な場合が多く、契約解除条項の設定が双方の利益を保護します。
従来の定型的な特約に加えて、現代の取引実態に応じた 独自の特約条項 を設けることで、より安全で円滑な取引が実現できます。特にデジタル化やライフスタイルの変化を反映した新しい視点での特約が重要となっています。
IT設備に関する特約例文。
「本物件のインターネット設備について、売主は引渡し時点での接続可能な回線業者名および最大通信速度を書面にて買主に通知する。引渡し後に記載内容と相違があっても売主は責任を負わないものとする」
在宅ワーク環境特約例文。
「買主は本物件を在宅ワーク用途で使用することを売主に通知済みである。近隣住民への騒音配慮および建物使用方法について、買主は善良な管理者の注意をもって使用するものとする」
災害リスク開示特約例文。
「売主は買主に対し、本物件所在地のハザードマップ情報、過去10年間の自然災害履歴について引渡し前に書面で開示する。買主はこれらの情報を了承の上で契約を締結するものとする」
これらの 時代に即した特約 は、従来の法的リスクに加えて、現代的な住環境や働き方の変化に対応したものです。不動産業界においても、こうした新しい視点での特約設定が求められており、顧客満足度向上と訴訟リスク軽減の両面で効果を発揮します。
特約条項は契約当事者双方の利益を適切に調整する重要な法的手段です。実際の取引において発生する可能性がある問題を事前に想定し、適切な条項を設けることで、安全で確実な不動産取引の実現に寄与します。