
抵当権は民法第369条に規定される担保物権で、特定の債権を担保するために不動産に設定される権利です。住宅ローンなど、借入金額・返済期間・利率が契約時点で明確に定まる取引において広く利用されています。
一方、根抵当権は民法第398条の2以下に規定され、一定の範囲に属する不特定の債権を担保するため不動産に設定される担保権です。「極度額」と呼ばれる借入上限額を設定し、その範囲内であれば何度でも借入と返済を繰り返すことができます。
抵当権と根抵当権の最も基本的な違いは、担保する債権の特定性にあります。抵当権では「AのBに対する100万円の貸付債権」のように被担保債権を具体的に特定しますが、根抵当権では「AがBに対して将来取得する一切の貸付債権」といったように被担保債権の範囲のみを定めます。
抵当権と根抵当権の重要な違いの一つが、付従性と随伴性の有無です。
付従性とは、債権のあるところに抵当権などの権利が発生する性質のことです。抵当権には付従性があるため、住宅ローンを完済して債権が消滅すると、抵当権も自動的に消滅し、登記からの抹消が可能になります。
これに対し、根抵当権には付従性がありません。借入金を完済しても根抵当権は消滅せず、極度額の範囲内で再び借入が可能な状態が続きます。根抵当権を抹消するには、借入残高をゼロにした上で、債権者と債務者双方の合意による抹消手続きが必要です。
随伴性についても同様の違いがあります。抵当権には随伴性があり、債権を他の人に譲渡すると抵当権も譲渡先に移転します。しかし、根抵当権は債権に紐付けられていないため随伴性がなく、原則として譲渡できません。
根抵当権の付従性と随伴性が制限される理由は、担保される債権が不特定で変動的であるという性質にあります。この特徴により、継続的な取引関係において柔軟な資金調達が可能になる一方、一般の抵当権とは異なる法的取り扱いが必要となります。
根抵当権の特徴的な要素として「極度額」があります。極度額とは、根抵当権によって担保される債権の元本の上限額のことで、不動産の評価額を基準に設定されます。例えば、1億円の価値がある不動産に対して極度額5,000万円の根抵当権を設定した場合、5,000万円の範囲内で何度でも借入が可能です。
ただし、実際の借入可能額は極度額満額ではありません。金融機関では一般的に「借入上限は極度額の90%まで」といった制限を設けています。これは、利息や損害金の発生を考慮し、極度額を超過するリスクを回避するためです。
抵当権の場合は、担保となる債権額が明確に定められます。住宅ローンで3,000万円を借り入れる場合、3,000万円に対応する抵当権が設定され、返済完了と同時に抵当権も消滅します。
根抵当権の極度額は登記事項として記録され、第三者に対する対抗要件となります。極度額の変更には債権者と債務者の合意に加え、変更登記が必要です。また、極度額の増額については、後順位の担保権者がいる場合、その同意も必要となる場合があります。
根抵当権における債権の範囲設定も重要な要素です。「金銭消費貸借取引」「手形債権」「小切手債権」など、担保対象となる債権の種類を明確に定める必要があります。この範囲設定により、どのような取引が根抵当権の担保対象となるかが決まります。
連帯債務者の設定可否は、抵当権と根抵当権の重要な違いの一つです。
抵当権では連帯債務者の設定が可能です。連帯債務者とは、主たる債務者とともに返済義務を負う人のことで、債権者は主たる債務者と連帯債務者のいずれに対しても債務の全額を請求できます。住宅ローンにおいて夫婦が連帯債務者となるケースなどが典型例です。
一方、根抵当権では連帯債務者の設定は認められていません。これは、根抵当権が担保する債権が不特定で変動的であることが理由です。債権額や返済期間が一定でない状況では、連帯債務者の責任範囲を明確に定めることが困難なためです。
ただし、根抵当権において保証人の設定は可能です。保証人は主たる債務者が返済不能となった場合に代わって返済責任を負いますが、連帯債務者のように主たる債務者と同等の責任を負うわけではありません。
この違いは実務上重要な意味を持ちます。事業資金の調達において、抵当権を利用する場合は経営者の配偶者などを連帯債務者とすることで信用力を補完できますが、根抵当権ではこの手法が使えません。
また、連帯債務者がいる抵当権では、連帯債務者の一人が弁済した場合の求償権の処理など、複雑な法的関係が生じる可能性があります。根抵当権ではこうした問題が生じないという側面もあります。
抵当権と根抵当権は、それぞれ異なる場面で活用されます。
抵当権の主な活用場面。
根抵当権の主な活用場面。
金融機関が根抵当権を選択する基準として、以下の要素があります。
一方で、根抵当権には注意すべき点もあります。債権額が不確定なため、担保価値の管理が困難になる場合があります。また、複数の金融機関が同一不動産に根抵当権を設定している場合、優先弁済の順位に関する複雑な調整が必要になることがあります。
意外な活用例として、相続対策における根抵当権の利用があります。不動産の評価額を下げる目的で、実際の借入額よりも高い極度額で根抵当権を設定するケースが見られます。ただし、この手法については税務上の問題が生じる可能性があるため、専門家への相談が必要です。
近年では、フィンテック企業による新しい担保活用も注目されています。AIを活用した与信判断システムと組み合わせた根抵当権の活用により、中小企業の資金調達支援を行う動きが見られます。これは従来の金融機関では困難だった、小額・短期・頻繁な資金需要への対応を可能にする革新的な取り組みです。
抵当権と根抵当権の選択は、借入者の事業特性・資金需要・将来計画を総合的に考慮して決定することが重要です。適切な担保選択により、効率的な資金調達と事業発展を実現することができます。