
請願法は、昭和22年3月13日に法律第13号として制定された、比較的簡素な法律です 。この法律は全6条から構成されており、日本国憲法第16条に規定される請願権の実際の運用に関して詳細を規定しています 。
参考)https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%AB%8B%E9%A1%98%E6%B3%95
憲法第16条では、「何人も、損害の救済、公務員の罷免、法律、命令又は規則の制定、廃止又は改正その他の事項に関し、平穏に請願する権利を有し、何人も、かかる請願をしたためにいかなる差別待遇も受けない」と定められています 。この規定により、請願権は国民の基本的人権の一つとして確固たる地位を占めています 。
請願とは、国または地方公共団体の機関に対し、その職務に関する事柄について希望を述べることをいいます 。この制度は、国民が国政に対する要望や苦情等を直接表明できる重要な手段として位置づけられています 。
国籍による制限はなく、日本国籍を持つ方及び日本国内に在住の外国人の方であれば誰でも提出することができます 。また、年齢制限もないため、未成年者であっても請願を行うことが可能です 。
参考)https://www.pref.okinawa.jp/kensei/kochokoho/1014932/1014934.html
請願法第2条では、請願の基本的な成立要件を規定しています。請願は、請願者の氏名(法人の場合はその名称)及び住所(住所のない場合は居所)を記載し、文書でこれをしなければならないとされています 。
参考)https://ja.wikisource.org/wiki/%E8%AB%8B%E9%A1%98%E6%B3%95
請願書の提出先については、第3条で明確に定められています。請願書は、請願の事項を所管する官公署にこれを提出しなければならず、天皇に対する請願書は内閣に提出する必要があります 。所管する官公署が明らかでない場合は、内閣に提出することも可能です 。
第4条では、請願書が誤って他の官公署に提出された場合の対応が規定されています。その場合、受理した官公署は請願者に正当な官公署を指示するか、または正当な官公署にその請願書を送付しなければなりません 。
第5条では、適正な請願に対する官公署の処理義務について定めています。この法律に適合する請願は、官公署において、これを受理し誠実に処理しなければならないとされています 。最後に第6条では、請願者の保護について規定し、何人も請願をしたためにいかなる差別待遇も受けないことが明記されています 。
請願書の作成において、基本的な記載事項を正確に把握することが重要です。表紙には、令和○年○月○日、衆議院議長殿(または参議院議長殿)、件名に関する請願書、紹介議員の署名・押印、請願者氏名、住所等を記載します 。
参考)https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_annai.nsf/html/statics/tetuzuki/seigan.htm
本文には、要望する内容等の説明を「請願要旨」、要望を「請願事項」として簡潔に記載する必要があります 。縦書き・横書き、用紙の大きさについては随意ですが、日本語文を用いることが基本となります 。
参考)http://www.town.owani.lg.jp/gyousei/gikai/seiganchinjutsu/teisyutsuhouhou.html
複数人で請願する場合は、代表者を決めて「外○名」と記入し、署名簿がある場合は末尾に添付します 。署名簿には住所と署名(自筆での氏名記入)が必要で、記名の場合は押印が必要となります 。
参考)https://www.city.kodaira.tokyo.jp/gikai/014/014433.html
地方議会への請願の場合、議員の紹介が必要です 。この紹介議員制度は、地方自治法第124条に規定されており、請願書には紹介議員の署名または記名押印が必要となります 。外国語で書かれた請願書については、翻訳文を添付する必要があります 。
参考)https://www.city.ito.shizuoka.jp/gyosei/soshikikarasagasu/gikaijimukyoku/shiseijoho/1/557.html
請願と陳情は、要望等を議会に訴える手段という点では同じですが、形式面で重要な違いがあります 。請願は憲法で保障された国民の基本的権利であり、その方式や処理の手続きなどが法律で定められていますが、陳情には法的な根拠がありません 。
参考)https://www.city.ayase.kanagawa.jp/soshiki/gikaijimukyoku/yokuarushitsumon/5090.html
最も大きな違いは紹介議員の必要性です。請願は議員の紹介が必要ですが、陳情は議員の紹介を必要としません 。請願は地方自治法第124条の規定により、議員の紹介により請願書を提出しなければならないとされています 。
参考)https://www.city.moriya.ibaraki.jp/gikai/seigan/1007105/1006003.html
審査過程においても違いがあります。請願は定例会において議題とし、委員会での審査及び本会議での討論・採決を行います 。一方、陳情は議長預かりとし、定例会において議題としない議会も多く存在します 。
参考)https://www.city.chiryu.aichi.jp/soshiki/gikai/giji/gyomu/9/1445252117235.html
ただし、多くの地方議会では陳情についても請願に準じた取り扱いを行っており、付託された委員会で審査を行う場合があります 。採択された請願については、市長その他の執行機関に送付し、その処理の経過及び結果の報告を求めることができます 。
請願法第5条の「誠実な処理」義務は、官公署に対する重要な法的義務を定めています。この条項により、官公署は適式な請願について誠実に処理すべき旨の国法上の義務を負うことになります 。ただし、この規定は官公署の事務処理上の行為規範を定めたものであり、請願者に対して回答義務や通知等を求める権利を生じさせるものではありません 。
参考)https://www.city.kawasaki.jp/880/cmsfiles/contents/0000104/104876/310208seigan1siryo2.pdf
「誠実な処理」の解釈については、請願内容に対する誠実な処理とともに、少なくとも請願者に対してその処理の経過・結果を告知することも含まれると解されています 。実際の運用において、多くの官公署では請願者に対して処理結果を文書で回答する実務が定着しています 。
参考)https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_shitsumon.nsf/html/shitsumon/a155017.htm
請願制度の実効性については課題も指摘されています。国会の各議院での採択率を見ると、ここ5年間で20%程度にとどまっており、請願権の意義が相対的に減少しているという見方もあります 。これは学説での整理があまりなされていないことに加えて、国会の各議院における取り扱いの問題が影響しているとされています 。
地方レベルでは、採択された請願について市長その他の執行機関に送付する際に、議会から処理の経過及び結果の報告を請求することができ、議会・執行機関双方に実現への努力が要請される仕組みとなっています 。