

司法警察権は、司法権の作用に基づき、犯罪事実を捜査し犯人を逮捕し、証拠を蒐集することを目的とする国家の作用です 。司法警察職員が行使するこの権限には、以下のような具体的な内容が含まれています 。
参考)https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%8F%B8%E6%B3%95%E8%AD%A6%E5%AF%9F
逮捕に関する権限として、通常逮捕状の請求(刑事訴訟法199条2項)、逮捕した被疑者の受け取り、犯罪事実の要旨・弁護人選任権の告知、弁解録取の実施、釈放または送致の決定があります 。これらの権限は司法警察員のみに与えられており、司法巡査は補助的な役割にとどまります 。
参考)https://www.fukuoka-roumu.jp/qa/roukisyo/qa5_4/
さらに、差押・捜索・検証令状の請求(刑事訴訟法218条3項)、証拠品の売却・還付、鑑定留置処分の請求、告訴・告発・自首の受理・調書作成、検察官への事件送致など、幅広い捜査権限を有しています 。これらの権限は、検察官が有する捜査権と同質で極めて強力な権限であるため、特定の種類の公務員もしくは専門職の従事者のみに付与されています 。
参考)https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%8F%B8%E6%B3%95%E8%AD%A6%E5%AF%9F%E8%81%B7%E5%93%A1
行政警察権は、個人の権利や自由の保護を含む公共の安全及び秩序の維持回復を内容とする活動の総称で、その中心は犯罪の予防(防犯)と鎮圧です 。警察法第2条第1項に規定されているように、警察は「個人の生命、身体及び財産の保護に任じ、犯罪の予防、鎮圧及び捜査、被疑者の逮捕、交通の取締その他公共の安全と秩序の維持に当る」ことを責務としています 。
参考)https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%A1%8C%E6%94%BF%E8%AD%A6%E5%AF%9F%E6%B4%BB%E5%8B%95
行政警察活動は多岐多様にわたり、道路交通法、銃砲刀剣類所持等取締法、質屋営業法等様々な行政警察法規をその根拠とします 。これらのうち、犯罪の予防・鎮圧等、犯罪に関連する権限を定めたものが警察官職務執行法(警職法)です 。
参考)https://tachibanashobo.co.jp/html/upload/save_image/product_trial/110116381565420067e9ab1_%E4%BB%BB%E6%84%8F%E6%8D%9C%E6%9F%BB%E3%83%8F%E3%83%B3%E3%83%89%E3%83%96%E3%83%83%E3%82%AF_%E8%A9%A6%E8%AA%AD.pdf
警察官職務執行法第2条の職務質問は、「異常な挙動その他周囲の事情から合理的に判断して何らかの犯罪を犯し、若しくは犯そうとしていると疑うに足りる相当な理由のある者」に対して停止させて質問することができる権限として規定されています 。この職務質問は、犯罪の予防を目的とする「行政」作用であって、刑事訴訟法に則って行われる「司法」作用である捜査ではないと一般に解されています 。
参考)https://jcga.repo.nii.ac.jp/record/69/files/1-63-2-108-07_Kawamura.pdf
実際の警察活動において、司法警察権と行政警察権の違いは紙一重であることが多く、両者の区分そのものが無意味とする説も有力です 。例えば、パトロールの最中に不審な人物に職務質問したところ、覚醒剤の所持を確認して現行犯逮捕する、といったように初めに行政警察活動だったのが途中から司法警察活動となるケースが頻繁に発生します 。
行政警察活動の過程で捜査の端緒が得られることもあり、司法警察活動へと移行、あるいは併存することもあるなど、両者は密接に関連しています 。しかし、行政警察権の行使と司法警察権の行使は、その根拠と目的が異なることから、法的には明確に区別されています 。
司法警察活動の中心は犯罪の訴追もしくは処罰の準備のための捜査活動であり、これに対して行政警察活動は犯罪の予防(防犯)と鎮圧を主目的としています 。この目的の違いが、両警察権の本質的な相違点となっています。
警察権の行使にあたっては、その性質上強大な権力を持っており、国民に多大な影響力を与えることから、慎重を期する必要上、4つの基本原則を順守しなければなりません 。
参考)https://www.taguchi-shihou.com/works/09-08.html
警察公共の原則では、警察権は「私生活・私住所・民事上の法律関係」に関与しないことが定められています 。これは公共の秩序と安寧を維持するという消極目的のためのみに発動することができるという原則です 。
参考)https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%AD%A6%E5%AF%9F
警察責任の原則は、警察権が「故意・過失、自然人・法人の別は問わないが、社会公共の秩序に対する障害の発生について、責任ある者にのみ」発動することを規定しています 。また、警察比例の原則により、警察権の発動は除去すべき障害に対比して社会通念上相当であるということができる範囲でのみ行使可能です 。
さらに、警察消極の原則では、警察権は公共の秩序と安寧の維持、これらに対する障害の未然防止および既然の鎮圧といった消極的な目的のみ発動されるものとし、その限界を踰越した積極的作用は違法であるとしています 。
司法警察活動を行う権限を司法警察権と称しますが、この権限を有して司法警察活動に従事する者が司法警察職員です 。司法警察職員は、その職務の権限上、「一般司法警察職員」と「特別司法警察職員」、縦の関係で「司法警察員」と「司法巡査」に分けられます 。
参考)https://tachibanashobo.co.jp/html/upload/save_image/product_leaflet/062310302962b3c2358f05c_%E3%82%B5%E3%83%96%E3%83%8E%E3%83%BC%E3%83%88%E5%88%91%E6%B3%95%E5%88%91%E8%A8%B4%E6%B3%95_%E3%83%81%E3%83%A9%E3%82%B7.pdf
警察官・皇宮護衛官・海上保安官・自衛隊警務官は一般司法警察職員として包括的な司法警察権を有する一方、労働基準監督官・麻薬取締官・麻薬取締員・漁業監督官・刑務官・船員労務官・皇宮護衛官などは特別司法警察職員として、特定の事項について司法警察職員としての職務を行います 。
参考)https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%8F%B8%E6%B3%95%E8%AD%A6%E5%AF%9F%E5%93%A1
労働基準監督官などの特別司法警察職員も司法警察員として、各種令状請求権、逮捕された被疑者を釈放又は送致する権限、事件の送致・送付の権限、告訴・告発・自首の受理権限、検察官の命により検視する権限を有しています 。これらの権限により、各行政分野における専門的な犯罪捜査が可能となっています。