
自然法とは、人間の理性や事物の自然本性から導き出される普遍的な法の原理であり、時代や場所に関係なく妥当するとされる概念です。その最大の特徴は、人為的に制定されるものではなく、自然に存在すると考えられている点にあります。
参考)https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%87%AA%E7%84%B6%E6%B3%95
自然法には普遍性、不変性、合理性という3つの核心的な特徴があります。普遍性は時代と場所に関係なく妥当すること、不変性は人為によって変更されえないこと、合理性は理性的存在者が理性を用いることによって認識できることを意味します。このような特性から、自然法は基本的人権の理論的基盤としても重要視されており、生命・自由・財産といった権利は自然権として捉えられています。
参考)https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%87%AA%E7%84%B6%E6%A8%A9
現代においても、自然法の思想は憲法における基本的人権の根拠として機能しており、「人間の固有の尊厳に由来する」という考え方に反映されています。また、自然法は理性の働きであり、道徳的認識の源泉として理解されています。
参考)https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_kenpou.nsf/html/kenpou/chosa/shukenshi031.pdf/$File/shukenshi031.pdf
実定法とは、国家や社会によって制定された成文法や慣習法など、人為的に定められた法のことを指します。実定法の本質は、立法機関や権威ある機関によって明確に定められる制定性、法的強制力を持つ拘束力、そして社会の変化によって変更可能な可変性にあります。
参考)https://www.nesteq.net/shizenhou-2/
実定法は大きく成文法と不文法に分類されます。成文法は権限を有する機関によって文章で表記され、一定の形式・手続に従って制定される法(制定法とも呼ばれる)であり、不文法は文章として明文化されていないが法として人を拘束するもので、慣習法、判例法、条理法に区分されます。
参考)https://koumu.in/articles/240329a
実定法の特徴として、特定の時代や場所に限定されて妥当することがあげられます。これは自然法の普遍性とは対照的な性質であり、社会情勢や価値観の変化に応じて改正や廃止が可能です。宅建業法のような不動産取引の規制法も実定法の典型例であり、消費者保護と適正な取引確保を目的として制定されています。
参考)https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%AE%9F%E5%AE%9A%E6%B3%95
法哲学において、自然法論と法実証主義は根本的に異なる法観を持ちます。自然法論は「自然法と実定法の二元論」を特徴とし、実定法を超えた正義の基準として自然法を認めるのに対し、法実証主義は「実定法一元論」を採用し、実定法以外に法は存在しないとする立場です。
参考)https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%87%AA%E7%84%B6%E6%B3%95%E8%AB%96
法実証主義は、法の拘束力の根拠を法の内容ではなく法の制定手続という事実に求めます。つまり、定められた手続によって制定されるかぎりで法であり、その内容の善悪に関わらず法的拘束力があるとします。この思想の哲学的淵源は中世の主意主義的唯名論にあり、普遍性よりも個物の個別性に関わる意志を重視します。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/jalps/52/2/52_1/_pdf
ハンス・ケルゼンは、自然法が実質的妥当原則に服するのに対し、実定法は形式的妥当原則に服すると指摘しました。自然法における当為は絶対的な当為であり、実定法のそれは相対的な当為であるという違いがあります。現代では法実証主義が優勢ですが、基本的人権の尊重や人間の尊厳を重視する場面では自然法的思考が用いられています。
参考)https://note.com/miyako_san/n/n7448072a06e7
宅建業法における消費者保護の理念は、自然法的な人間の尊厳や基本的権利の保護という考え方に根ざしています。不動産取引において消費者が不利益を被らないよう取引の公正性を確保するという目的は、自然法論が重視する人間の生命・財産・自由の保護という原理と合致します。
宅建業法の免許制度や宅建士の設置義務、重要事項説明の徹底といった規制は、実定法として制定されていますが、その背景には自然法的な公正性の理念があります。特に、誇大広告や不正な取引行為の禁止は、契約当事者間の対等性を確保し、弱者保護を図るという自然法的な正義観に基づいています。
参考)https://note.com/noble_guppy6313/n/n0a3fa0dcaab2
近年の宅建業法改正においても、空き家等に係る媒介報酬規制の見直しや建物状況調査の充実など、消費者保護をより強化する方向で改正が行われており、これらは自然法的な人間の権利保護の思想が実定法に反映された例といえます。宅建士には単なる法令遵守だけでなく、自然法的な倫理観に基づく業務遂行が求められているのです。
現代社会において、自然法と実定法はそれぞれ異なる役割を果たしています。実定法は具体的な社会問題の解決や秩序維持のための実用的な手段として機能し、自然法は法の正当性や道徳的基盤を提供する理論的基礎として位置づけられています。
国際人権法の発展は、自然法的思考が現代法制度に与えている影響の顕著な例です。世界人権宣言や国際人権規約において「人間の固有の尊厳に由来する」権利として基本的人権が規定されていることは、自然法の普遍性と不変性の概念が現代でも有効であることを示しています。
一方で、AIやバイオテクノロジーなど新しい技術に対する法的対応は、主に実定法によって行われています。これらの分野では、技術の進歩に応じて法律を迅速に改正する必要があり、実定法の可変性が重要な役割を果たしています。しかし、その根底には人間の尊厳や自由といった自然法的価値観が存在し、両者が補完的に機能することで、現代の複雑な法的課題に対応しているのです。