

シスメックス株式会社の2025年3月期(第58期)有価証券報告書によると、同社は過去5年間において堅調な成長を続けています 。売上高は2021年3月期の305,073百万円から2025年3月期の508,643百万円まで増加し、年平均成長率約13.5%を実現しました 。
参考)https://www.sysmex.co.jp/ir/library/quarter/rep_202506.pdf
親会社の所有者に帰属する当期利益も2021年3月期の31,905百万円から2025年3月期の53,669百万円へと着実に成長しており、収益性の向上が確認できます 。一方で、2025年第1四半期(2025年4-6月期)の業績では、売上高が前年同期比5.6%減の105,731百万円、営業利益が同36.5%減となるなど、短期的な業績変動も見られます 。
参考)https://www.sysmex.co.jp/news/2025/pdf/250806_fr_j.pdf
基本的1株当たり当期利益は2024年4月1日付で1株を3株に分割した影響を考慮しても、安定した利益創出能力を示しています 。
財務健全性の観点から、シスメックスは親会社所有者帰属持分比率が69.71%(2025年3月期)と高水準を維持しており、自己資本による安定した経営基盤を有しています 。資産合計は665,268百万円まで拡大し、事業規模の成長とともに財務体質も強化されています 。
キャッシュ・フロー面では、営業活動によるキャッシュ・フローが2025年3月期に88,246百万円と前期から大幅に増加し、本業からの資金創出力が向上しています 。投資活動によるキャッシュ・フローは△52,488百万円となっており、積極的な設備投資や研究開発投資を継続していることが分かります 。
ROE(親会社所有者帰属持分当期利益率)は11.98%と二桁台を維持し、株主資本の効率的な活用が実現されています 。
シスメックスの事業展開は、「本社統括」「米州統括」「EMEA統括」「中国統括」「AP統括」の5つの地域セグメントで構成されています 。海外売上高比率は86.7%(2025年3月期)と非常に高く、グローバル企業としての特徴を示しています 。
参考)https://www.sysmex.co.jp/ir/library/quarter/rep_202406.pdf
主力事業である検体検査機器及び検体検査試薬の開発・製造・販売において、診断薬が売上高の61.7%を占める重要な収益源となっています 。特に、ヘマトロジー分野では血球計数検査(CBCテスト)で年間33億件超の検査実績を有し、世界的な市場地位を築いています 。
2025年3月期における地域別の業績では、シスメックス アメリカの売上高が117,929百万円、中国の希森美康医用電子の売上高が116,168百万円となっており、両地域が主要な収益基盤となっています 。
シスメックスの有価証券報告書では、14項目の主要リスクが詳細に記載されており、投資判断における重要な情報源となっています 。地政学的リスクでは、国家間の対立や貿易摩擦による事業活動の制限が懸念されており、特に輸出入規制の厳格化への対応が課題となっています 。
為替変動リスクでは、USD1円変動あたり売上高で748百万円、営業利益で95百万円の影響があると試算されており、海外事業比率の高さから為替の影響を大きく受ける構造となっています 。EUR1円変動では売上高561百万円、CNY1円変動では売上高5,491百万円の影響があります 。
技術革新への対応も重要なリスク要因として挙げられており、AI・ロボティクス等の新技術への対応遅れによる競争優位性低下の可能性が指摘されています 。一方で、アルツハイマー病診断支援技術の開発や迅速薬剤感受性検査システムの商品化など、イノベーション創出による機会も示されています 。
シスメックスは2033年度を最終年度とする長期経営戦略「VA33」を策定し、「より良いヘルスケアジャーニーを、ともに。」という長期ビジョンを掲げています 。この戦略では、従来のダイアグノスティクス事業に加え、手術支援ロボットや再生細胞医療等の治療領域への参入を計画しており、事業領域の大幅な拡大を目指しています 。
手術支援ロボット「hinotori™」による症例数は2024年度に5,209件まで増加し、新たな成長エンジンとしての期待が高まっています 。また、個別化医療領域では、リキッドバイオプシー技術を活用した新規項目開発に取り組み、造血器腫瘍や癌、遺伝性疾患等の診断ソリューション創出を進めています 。
環境面では2040年までのカーボンニュートラル宣言を行い、「シスメックス・エコビジョン2033」に基づく持続可能な経営を推進しており、ESG投資の観点からも注目される企業となっています 。人的資本戦略では、付加価値生産性を2025年度に2,250万円/人まで向上させる目標を設定し、従業員エンゲージメントの向上と生産性の両立を図っています 。