
地籍調査は昭和26年の国土調査法制定から70年以上が経過しているにも関わらず、全国的な進捗は大幅に遅れています。平成27年度末時点での全国進捗率は約52%にとどまり、特に都市部での遅れが深刻な状況となっています。
地域別の進捗状況を見ると、九州・沖縄地方や北海道・東北地方では比較的進んでいる一方、関東・近畿地方では大幅に遅れており、全国で大きな地域差が生じています。
特筆すべき事例として、沖縄県では県が主体となって直接地籍調査を実施してきた経緯があります。これは太平洋戦争の沖縄戦で県土が荒廃し、市町村が主体となる地籍調査は負担が大きいと県が判断したためです。
佐賀県の高い進捗率の背景には、昭和40年代から国が補助する農地整備事業に積極的に取り組んだ結果、地籍調査と同等の測量結果が得られたことや、各市町村長が固定資産税の徴収適正化のために地籍調査を重視したことがあります。
地籍調査は自治事務として位置づけられ、主に市町村及び特別区等の地方公共団体が実施主体となっています。実施に必要な経費は、国が2分の1、都道府県が4分の1、市町村が4分の1を負担する仕組みとなっており、都道府県や市町村の負担分については80%が特別交付税措置の対象となります。
市町村職員からの意見として、国庫負担金の交付額が要望額を下回っているため、計画通りの調査実施が困難になっているケースが報告されています。平成27年度末の進捗率は、市が独自に策定した地籍調査の実施に係る長期計画の目標の約53%にとどまっている状況です。
調査の作業手順は、実施計画等の策定、住民説明会の開催、一筆地調査の実施という流れになっています。一筆地調査では、調査図素図や地籍調査票の作成、土地所有者等への現地調査通知が準備作業として行われ、その後、土地所有者等の立会いのもと、一筆ごとに地番、地目、所有者及び境界の確認が実施されます。
地籍調査について一般的に誤解されがちなのが、その法的性質です。地籍調査は国土調査法に基づく実態調査であり、所有権等の権利関係の変更や新たに境界を形成することを目的とするものではありません。
特に重要なのは、地籍調査で定められた境界は当事者の合意による境界であり、不動産登記法上の筆界を定めたものではないという点です。この「合意による境界」は「筆界」とは異なる概念であり、地籍調査の結果が法務局に持ち込まれ、法務局が「これならうちでも使えるね」と判断した場合に初めて、そこに表現されている境界が「筆界」に昇格することになります。
明治初期の地租改正時に設定された原始筆界の正確性については、専門家の間でも疑問視する声があります。農地を転用して宅地化する際の測量では、「土地は必ずデカくなる」という前提で測量・調査を行うのが業界の不文律となっているのが実情です。
市街地・都市部では道路や水道などのインフラ整備のために図面などの整備が進みましたが、農地については耕作に不都合がない限り、ほとんど放置状態が続いています。
地籍調査の成果である地籍図は、土地の境界トラブルの未然防止、公共事業やまちづくりの迅速化、災害時の復旧復興事業の円滑な実施、固定資産税の徴収適正化などに大きく寄与します。
不動産業界にとって特に重要なのは、地籍調査により現況と一致する正確な地図が作成されることで、地籍の明確化が図られ、改められた土地情報を基にした固定資産税の算出など、市町村における様々な行政事務の基礎資料として活用されることです。
国土調査は、地籍調査、土地分類調査及び水調査の3つの調査から構成されており、地籍調査はその中核を成しています。地籍の明確化を図ることが主要な目的とされており、不動産取引の安全性向上に直結する重要な制度です。
山村部においては、土地境界が明確となることで必要な間伐等を円滑に行うことができるなど、将来の時間や費用の浪費という潜在的なリスクに備える点で、地籍調査を実施する意義が大きいとされています。
地籍調査の技術的な側面で重要なのが調査図素図の作成です。調査図素図作成例は、昭和32年10月24日付け経企土第179号にて経済企画庁総合開発局長から通達され、最新の改正は平成12年5月23日に国土国第178号にて行われています。
調査図素図作成例の構成は以下のようになっています。
これらの技術的な規定により、全国統一的な基準での地籍調査が可能となっており、不動産業界での活用においても一定の品質が保たれています。
調査図素図は地籍調査の基礎となる重要な図面であり、現地調査において土地所有者等の立会いのもと、一筆ごとに土地の範囲や境界を確認する際の基準となります。この図面の正確性が、最終的な地籍図の品質を左右する重要な要素となっています。
地籍調査の進捗が遅れている現状において、不動産業界としては地籍調査の重要性を理解し、市町村の取り組みを支援していくことが、将来的な業界全体の発展につながると考えられます。特に境界トラブルの未然防止や公共事業の迅速化といった効果は、不動産取引の安全性向上に直結する重要な要素です。