
会社法第349条により、代表取締役は株式会社を代表する法的な地位を有しています。この法律では「取締役は、株式会社を代表する。ただし、他に代表取締役その他株式会社を代表する者を定めた場合は、この限りでない」と明確に規定されています。
代表取締役は以下の権限を持ちます。
不動産業界では、重要な契約書への署名や登記手続きにおいて、この代表権が不可欠となります。物件の売買契約や賃貸契約、金融機関との融資契約など、すべての法的手続きは代表権を持つ者でなければ実行できません。
代表取締役社長は、法的な「代表取締役」の権限と、組織運営上の「社長」という役職を兼ね備えた肩書きです。会社法上では代表取締役と代表取締役社長に違いはありませんが、実務面では以下の特徴があります:
組織運営における役割
代表取締役社長の優位性
不動産会社では、顧客との信頼関係構築において「社長」という肩書きの心理的効果は大きく、高額取引における安心感を与える重要な要素となります。
会社法では代表取締役を複数名選任することが可能です。この制度を活用することで、以下のメリットが得られます:
業務効率化の観点
リスク管理の観点
不動産業界特有の活用例として、「代表取締役社長」、「代表取締役専務」、「代表取締役副社長」といった形で、営業、管理、開発といった部門ごとに代表権を分散させる企業も存在します。これにより、専門性を活かしながら機動的な事業展開が可能になります。
取締役と代表取締役の最も重要な違いは「代表権」の有無です。この違いが実務に与える影響は極めて大きく、特に不動産業界では以下の場面で差が明確になります:
契約締結における権限の違い
登記手続きにおける権限
金融取引における取扱い
取締役の役割は経営方針の決定や業務監督に限定されており、日常的な業務執行や対外的な法律行為には関与できません。しかし、取締役会を通じて重要な意思決定に参画する権限を持っています。
代表取締役の選任には厳格な法的手続きが必要です。以下の方法により選任されます:
選任方法の種類
登記における注意点
任期に関する規定
不動産業界では、宅地建物取引業の免許申請や更新において、代表取締役の情報が重要な審査項目となります。また、建設業許可や不動産特定共同事業の認可申請でも、代表取締役の経歴や資格が審査対象となるため、適切な登記管理が不可欠です。
登記実務において特に注意すべきは、代表取締役が複数いる場合の「共同代表」と「単独代表」の区別です。共同代表の場合、重要な取引では全代表取締役の署名が必要になるため、実務上の制約が生じる可能性があります。
印鑑登録における実務的配慮
法務局への印鑑登録は代表取締役ごとに行う必要があり、複数の代表取締役がいる場合は、それぞれが独自の印鑑を登録することが一般的です。不動産取引では、契約書への押印や登記申請において、登録された印鑑の使用が義務付けられているため、印鑑管理体制の整備が重要になります。