
田園住居地域は、平成30年4月1日に施行された都市計画法・建築基準法の改正によって新設された13番目の用途地域です。この地域は、「農業の利便の増進を図りつつ、これと調和した低層住宅に係る良好な住居の環境を保護するため」に定められました。
田園住居地域の最大の特徴は、都市部において農地と住宅地が共存できる環境を法的に整備したことにあります。従来の都市計画では、市街化区域内の農地は「宅地化すべきもの」という位置づけでしたが、田園住居地域の創設により、都市農地を都市に「あるべきもの」として明確に位置づけた点が画期的です。
この用途地域は、特に都市部の農地を保全しながら、良好な住環境を維持することを目的としています。宅建業務において、この地域の特性を理解することは、適切な不動産取引を行う上で非常に重要です。
田園住居地域では、第一種低層住居専用地域で建てることができる建築物に加えて、以下の建築物を建てることが可能です。
これらの制限は、農業関連施設と小規模な商業施設を許容しつつも、大規模な商業施設や高層建築物を制限することで、低層住宅地としての良好な環境を維持する意図があります。
建築物の高さについても、第一種低層住居専用地域や第二種低層住居専用地域と同様に、10mまたは12mのうち、都市計画で定められた高さを超えてはならないという「絶対高さ制限」が適用されます。これは宅建試験でも頻出の内容です。
田園住居地域における建蔽率は、30%から60%の範囲内で都市計画で定められます。この数値は、第一種低層住居専用地域や第二種低層住居専用地域と同様の規制となっています。
建蔽率については、以下のような場合に緩和措置が適用されることがあります。
例えば、都市計画で建蔽率が50%と定められている田園住居地域の角地に建築する場合、建蔽率は60%まで緩和されることになります。
容積率についても、低層住居専用地域と同様に、50%から200%の範囲内で都市計画により定められます。これらの数値は、宅建試験において頻出の内容ですので、しっかりと理解しておく必要があります。
田園住居地域内の農地(耕作の目的に供される土地)については、特別な規制が設けられています。具体的には、以下の行為を行う場合には市町村長の許可が必要となります。
これらの規制は、田園住居地域内の農地を保全し、無秩序な開発を防ぐための措置です。市町村長は、これらの行為が当該地域における農業の利便の増進を図る上で支障がないと認める場合に限り、許可を与えることができます。
この規制は、宅建業者が重要事項説明を行う際に説明すべき内容となっています。宅建業法の改正により、田園住居地域内の農地における建築等の規制、および田園住居地域内における用途規制に関する規定(建築基準法48条8項)が、宅建業者が説明すべき重要事項として追加されました。
田園住居地域と密接に関連する制度として、生産緑地制度があります。生産緑地は、市街化区域内において緑地機能や多目的保留地機能の優れた農地等を計画的に保全し、良好な都市環境の形成を図ることを目的としています。
生産緑地制度は平成4年(1992年)に創設され、指定から30年が経過すると、所有者は地方公共団体に対して買取りを申し出ることができるようになります。自治体が買い取らない場合、他の農家への斡旋を経ても買い手がつかなければ、所有者は農地を不動産業者などに売却することが可能になります。
注目すべきは、2022年(令和4年)に生産緑地指定から30年が経過する農地が全体の約8割を占めるという点です。これにより、都市部では多くの農地が宅地化され、不動産市場に流入する可能性があります。
田園住居地域の指定は、こうした状況を背景に、都市農地を保全するための新たな選択肢として導入されたとも言えます。宅建業者としては、この両制度の関係性を理解し、今後の不動産市場の動向を予測する上での重要な知識として活用することが求められます。
宅建試験において、田園住居地域に関する問題は、主に以下のようなポイントから出題されることが多いです。
特に注意すべきは、田園住居地域が「低層住居専用地域」に分類されるという点です。そのため、容積率、建蔽率、建築物の高さ制限、斜線制限、日影規制など、建築基準法上の規制に関しては、原則として低層住居専用地域に関する規制が適用されます。
また、敷地が複数の用途地域にまたがる場合の取扱いについても、出題されることがあります。例えば、「一の敷地で、その敷地面積の40%が第二種低層住居専用地域に、60%が第一種中高層住居専用地域にある場合」のような問題では、過半の属する地域の建築物に関する用途制限が適用されるという原則を理解しておく必要があります。
宅建試験対策としては、田園住居地域の特徴や規制内容を他の用途地域と比較しながら理解することが効果的です。特に、第一種低層住居専用地域との類似点・相違点を整理しておくと良いでしょう。
田園住居地域の創設は、宅建業務にも様々な影響を与えています。まず、重要事項説明の内容が追加されたことにより、宅地建物取引士は田園住居地域に関する知識を深める必要があります。
また、実務的な観点からは、田園住居地域の指定が進むことで、都市部における農地と住宅の共存という新たな土地利用の形が広がる可能性があります。これにより、都市農業を活かした新しい住環境の提案や、農地付き住宅の取引なども増えていくことが予想されます。
特に注目すべきは、2022年以降の生産緑地の期限切れに伴う不動産市場への影響です。多くの都市農地が宅地化される可能性がある一方で、田園住居地域の指定によって農地としての利用が継続される土地も出てくるでしょう。宅建業者としては、こうした動向を見据えた営業戦略の立案が求められます。
さらに、SDGsや環境配慮型の都市づくりが注目される中、田園住居地域は「都市と農業の共生」という新たな価値観を体現する地域として、今後さらに重要性を増していく可能性があります。宅建業者にとっては、こうした社会的背景も踏まえた提案力が求められるでしょう。
田園住居地域の指定状況は自治体によって異なりますが、今後の都市計画の見直しに伴い、徐々に指定が進んでいくことが予想されます。宅建業者は、自社の営業エリアにおける田園住居地域の指定状況や今後の見通しについて、常に最新情報を収集しておくことが重要です。
以上のように、田園住居地域は単なる用途地域の一つというだけでなく、都市における農地の位置づけや、今後の都市計画の方向性を示す重要な指標でもあります。宅建業者としては、試験対策としての知識だけでなく、実務に活かせる広い視点での理解が求められるテーマと言えるでしょう。