電子記録債権法をわかりやすく解説

電子記録債権法をわかりやすく解説

電子記録債権法とは何か、手形と何が違うのか、事業者にとってどのようなメリットがあるのかを基本から詳しく解説します。複雑な法律をどのように理解すれば良いでしょうか?

電子記録債権法をわかりやすく解説

電子記録債権法のポイント
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新しい金銭債権制度

手形・売掛金に代わる電子化された債権管理システム

💳
コスト削減効果

印紙税不要、管理の効率化で事務負担を大幅軽減

🔐
安全性の向上

紛失・盗難リスクなし、分割譲渡で資金調達の柔軟性向上

電子記録債権法の基本概念

電子記録債権法は、平成20年12月1日に施行された画期的な法律で、事業者の資金調達の円滑化を図ることを目的として創設されました 。従来の手形や売掛金といった紙ベースの金銭債権に代わって、電子債権記録機関の記録原簿への電子記録を債権の発生・譲渡等の効力要件とする新たな金銭債権制度を確立しています 。
参考)https://www.fsa.go.jp/access/19/200707d.html

 

この法律により創設された電子記録債権は、手形や指名債権(売掛債権等)が抱えていた問題点を克服し、中小企業をはじめとする事業者の資金調達を大幅に改善することを可能にしました 。電子記録債権の権利内容は、記録原簿に記録された債権記録によって定められ、従来の証書や帳簿管理とは根本的に異なる仕組みを採用しています 。
参考)https://it-trend.jp/factoring/article/408-779

 

法律の制定背景には、従来の金銭債権取引における課題解決への強い要請がありました。債権の譲渡・質入れにおいて、対象となる債権の存在確認や帰属の確認に多大な手間とコストを要し、二重譲渡リスクなどの問題が存在していたのです 。

電子記録債権法による制度の仕組み

電子記録債権の発生から消滅までのプロセスは、全て電子債権記録機関を通じて管理されます。まず、債権の発生時には、債務者債権者の両方が金融機関を経由して電子債権記録機関に「発生記録」を請求し、電子債権記録機関が対応することで債権が発生します 。この段階で、債権者と債務者の名前、支払額、支払日などの重要な情報がコンピュータ上で管理されることになります 。
債権の譲渡に関しては、譲渡人・譲受人の両方が電子債権記録機関に「譲渡記録」を請求し、電子債権記録機関が対応することにより取引が成立します 。この電子的な記録システムにより、従来の手形における裏書きや売掛金の債権譲渡通知といった複雑な手続きが大幅に簡素化されています 。
参考)https://www.mdsol.co.jp/column/column_120_842.html

 

支払期日においては、債務者の金融機関から債権者の金融機関に送金等による支払いが自動的に行われ、これにより電子記録債権は消滅します 。決済完了後、でんさいネットは「支払等記録」としてこれを反映し、債権者は支払当日に資金を利用できるため、手形取引とは異なる大きなメリットを享受できます 。

電子記録債権法と従来の手形との比較

電子記録債権と従来の手形との最も大きな違いは、その管理・記録方法にあります。電子記録債権はデジタル管理され、ペーパーレスで発行・譲渡が可能である一方、手形は紙媒体で発行され、物理的な保管や管理が必要で紛失や偽造のリスクが伴います 。
参考)https://www.superstream.canon-its.co.jp/column/trend_electronically-recorded-debt

 

債権の発生要件についても根本的な違いがあります。電子記録債権では電子債権記録機関の記録原簿へ「発生記録」を行うことで債権が発生するのに対し、手形は「振り出し」(必要事項を記載し作成した書面を相手に交付すること)を行うことで債権が発生します 。この違いにより、電子記録債権は物理的な証書の管理から解放されることになります。
参考)https://www.freee.co.jp/kb/kb-trend/electronic-debt/

 

譲渡方法においても大きな違いが見られます。電子記録債権では電子債権記録機関の記録原簿へ「譲渡記録」を行い、分割による譲渡が可能です。一方、手形では書面へ「裏書」(裏面に2者が署名すること)を行う必要があり、分割による譲渡は不可能となっています 。この特徴により、電子記録債権は複数の取引先への支払いにあてるなど、より柔軟な資金運用が可能になります 。
参考)https://biz.moneyforward.com/accounting/basic/77533/

 

電子記録債権法導入のメリット

債務者(支払業者)にとってのメリットは、主に事務負担の軽減と税負担の軽減の2点に集約されます。手形取引では、金額の記入・印紙の貼り付け・押印などに多くの手間と労力を要しますが、電子記録債権であればWeb上での入力と承認作業のみで済み、事務負担が大幅に軽減されます 。また、電子記録債権の利用により印紙税が不要となり、企業への郵送料などのコストも削減でき、大幅なコスト削減効果を実現できます 。
参考)https://p-m-g.tokyo/media/accounts_receivable_money/8600/

 

債権者(納入業者)にとっても多くのメリットがあります。手形は現物の管理や発行の手続きに多くの手間やコストが発生しますが、電子記録債権は債権を電子データとして扱うため、そのような煩雑さがありません 。データは電子債権記録機関の記録原簿で管理されるため、紛失や盗難のリスクも大幅に減らすことができます。さらに、電子記録債権は期日になれば口座に自動入金されるため、手形のような取り立ての手続きも不要となります 。
リアルタイムでの記録更新が可能で、債権の状況を即座に確認できる点も重要なメリットです 。これにより、管理の効率化や透明性の向上が実現し、従来の手形と比べて決済や処理のスピードが大幅に向上します 。分割譲渡が可能である点も、柔軟な資金調達を可能にする重要な特徴となっています 。
参考)https://www.superstream.canon-its.co.jp/column/zeimu-183

 

電子記録債権法における機関の役割

電子債権記録機関は、この制度の中核を担う重要な存在です。2024年10月現在、日本には5つの電子債権記録機関が指定されており、その中でも「でんさいネット」(株式会社全銀電子債権ネットワーク)は最多の493の参加金融機関が加盟する最大規模の機関となっています 。
これらの機関は、電子記録債権法によって導入され、記録原簿を備えて電子記録債権の発生・譲渡・消滅等の記録・管理を行う専業の株式会社として運営されています 。全国銀行協会が設立した「でんさいネット」は、利用者がインターネットなどを通じて取扱う「でんさい」を記録・管理し、信用金庫をはじめ全国の金融機関が参加する包括的なネットワークを構築しています 。
参考)https://www.chushin.co.jp/business/densai/about/

 

5つの指定電子債権記録機関は、それぞれ異なる指定日を持っています。日本電子債権機構株式会社(平成21年6月24日指定)、SMBC電子債権記録株式会社(平成22年6月30日指定)、みずほ電子債権記録株式会社(平成22年9月30日指定)、株式会社全銀電子債権ネットワーク(平成25年1月25日指定)、Tranzax電子債権株式会社(平成28年7月7日指定)という構成になっています 。これらの機関により、事業者は安全・簡易・迅速に電子記録債権の発生・譲渡等を行うことができる体制が整備されています 。
参考)https://www.fsa.go.jp/ordinary/densi02.pdf