
不当利得返還請求における要件事実は、民法703条に基づき、以下の4つの要件から構成されます。
基本的な4要件:
裁判所の判例では、「不当利得返還請求権の要件事実は、①原告の損失、②被告の利得、③損失と利得との因果関係、④被告の利得が法律上の原因に基づかないことである」と明確に示されています。
これらの要件は相互に関連し合い、一つでも欠けると請求が認められません。特に不動産取引においては、複雑な権利関係が絡むため、各要件の立証が重要になります。
要件事実の記載順序:
実務における記載例は、事案の性質により異なりますが、基本的な構造は共通しています。
標準的な記載例:
「請求原因
不動産取引における記載例:
「1. 原告は、被告との間で、令和○年○月○日、別紙物件目録記載の不動産(以下「本件不動産」という)について、売買代金○○万円で売買契約(以下「本件売買契約」という)を締結した。
2. 原告は、同日、被告に対し、売買代金として○○万円を支払った。
3. 被告は、右代金の受領により○○万円の利得を得た。
4. 本件売買契約は、○○(錯誤・詐欺等の事由)により無効である。
5. よって、被告が右利得を保持する法律上の原因はない。」
記載においては、金額・日付・当事者・対象物件を特定し、各要件を明確に区分することが重要です。
不動産取引では、一般的な不当利得とは異なる特殊な考慮事項があります。
不動産特有の要件事実:
無権利者による賃料収受では、「賃貸借契約の効力」「賃料支払の事実」「収受者の無権利性」を具体的に記載する必要があります。
「A→B→C」の所有権移転における中間者Bの利得について、所有権移転の有効性と対抗要件の具備状況を詳細に記載します。
共有者の一人が持分を超えて処分した場合、「共有関係の成立」「処分行為の範囲」「他の共有者の同意の有無」を明示する必要があります。
立証のポイント:
裁判所発行の紛争類型別要件事実資料では、不動産関連の具体的な記載例が詳しく解説されています
不当利得の記載において、損失と利得の具体的算定は極めて重要な要素です。
損失の算定基準:
実務における算定例:
賃料相当損害金:
「原告は、被告の無権占有により、賃料相当損害金として月額○○万円、合計○○万円の損失を被った。」
使用利益:
「被告は、本件不動産を無償で使用することにより、賃料相当額の利益を得た。」
処分利得:
「被告は、本件不動産を第三者に売却し、売買代金○○万円の利得を得た。」
特殊な算定事例:
証拠資料:
実務では、理論的な要件事実と実際の記載・立証で乖離が生じがちです。
記載上の注意点:
複数の法律行為が関連する場合、時系列を明確にし、各行為の効力発生時点を特定する。
法人格否認・第三者詐欺等の複雑な事案では、真の当事者を正確に特定する。
不動産の場合は地番・家屋番号、動産の場合は種類・数量を具体的に記載する。
よくある記載ミス:
❌ 「相当額の損失を被った」(金額の特定不足)
⭕ 「金○○万円の損失を被った」
❌ 「法律上の原因なく利得した」(抽象的記載)
⭕ 「売買契約の無効により法律上の原因を欠く」
立証責任の分配:
実務的対応策:
シンプラル法律事務所の要件事実解説では、実務に即した記載例が多数紹介されています
不当利得訴訟では、要件事実の立証方法が勝敗を左右します。
効果的な立証戦略:
第1段階:基礎事実の確定
第2段階:要件事実の個別立証
不動産業界特有の立証ポイント:
所有権・賃借権・担保権等の重複する権利関係を整理し、真の権利者を特定する必要があります。
長期間の占有事実がある場合、時効取得の成否が不当利得の成立に影響を与えます。
善意取得・対抗要件等により第三者が保護される場合の処理が問題となります。
証拠収集の実務:
専門家の活用:
実務では、これらの専門的知見を適切に組み合わせることで、説得力のある立証が可能になります。