
減災と防災の違いは、災害に対するアプローチの根本的な考え方にあります 。防災は「災害を未然に防ぐ、または災害による被害を防ぐための備え」であるのに対し、減災は「災害は起こるものとして、災害による被害を最小限に抑えるための備え」という前提条件の違いが特徴的です 。
参考)https://www.newton-consulting.co.jp/bcmnavi/glossary/disaster-damage-mitigation.html
災害対策基本法第2条2項によると、防災は「災害を未然に防止し、災害が発生した場合における被害の拡大を防ぎ、及び災害の復旧を図ることをいう」と定義されています 。一方で、減災という概念は1995年の阪神・淡路大震災以降に注目されるようになりました 。
参考)https://dcm-diyclub.com/diyer/article/21363
減災が重要視される背景には、東日本大震災などの大規模災害の経験があります。これらの災害では被害想定を大きく上回る被害が発生し、事前の防災対策だけでは不十分であることが明らかになりました 。そのため、「被害を完全に防ぐことは困難である」という現実的な前提に立ち、より合理的で実践的な減災の考え方が普及したのです 。
参考)https://www.publicweek.jp/ja-jp/blog/article_80.html
減災とは、内閣府の定義によると「災害後の対応よりも事前の対応を重視し、できることから計画的に取り組んで、少しでも被害の軽減をはかるようにすること」とされています 。この概念の核心は、一人ひとりのほんの少しの工夫や気付きが災害被害の軽減につながるという考え方にあります 。
参考)https://www.nafias.jp/column/930/
減災対策では、想定する被害のうち何をどの程度軽減させるべきかという優先付けを行い、重点的な対策を立てることが特徴です 。具体的な減災対策の例として以下が挙げられます :
参考)https://uranok.com/article/p/post-1120/
また、減災には新しい概念として「縮災」という言葉も生まれました 。縮災とは、想定外の災害を許さず、災害が起こることを前提とし、早期復旧を目指す取り組みのことで、災害発生から社会機能が回復するまでの時間と被害による損失部分をいかに小さくするかについて、社会全体の人間力や回復力によって損失を最小限に抑える包括的な概念です 。
防災訓練は、災害発生時に被害を最小限に抑え、適切な対応を取るために実施される重要な取り組みです 。企業においては消防法第36条の「防災管理定期点検報告」に基づき、大規模建築物等では年1回以上の実施が法的義務として定められています 。
参考)https://sol.kepco.jp/useful/anpis/w/bosaikunren_naiyo/
防災訓練の主な目的は以下の3つです :
効果的な防災訓練として、状況発生の詳細を知らせずに行う「ブラインド訓練」があります 。これは従業員による避難誘導や受傷者の搬送・誘導方法の見直しに有効な手法とされています 。
京都市では、大都市における災害(地震、大火災など)を想定し、各部局と防災関係機関が緊密な連携と協力のもとに総合的な防災訓練を実施しています 。このような訓練を通じて、防災活動への責任の自覚と技術の向上を図るとともに、市民に対する防災意識の啓発を目的としています 。
参考)https://www.bousai.city.kyoto.lg.jp/0000000138.html
減災対策を効果的に進めるためには、自助・共助・公助の三要素による体系的なアプローチが不可欠です 。これらは防災対策の基本的な枠組みとして広く認識されています 。
参考)https://www.city.tsukuba.lg.jp/soshikikarasagasu/shichokoshitsukikikanrika/gyomuannai/1/3/1000598.html
自助とは、「自分(家族)の命は自分(家族)で守る」という考えのもと、日ごろから災害に対して備えたり、発災時には負傷せずに生き残ることを目指す取り組みです 。主な自助の取り組みには以下があります :
参考)https://mylet.jp/news/corporate-disaster-prevention/disaster-prevention-measures-01
共助は、「自分たち(地域・組織・グループ)は自分たち(地域・組織・グループ)で守る」という考えに基づき、まず自分自身や家族の安全を確保した後に、近所や地域の方々と助け合うことです 。1995年の阪神・淡路大震災では、一番多くの人命を救助したのは地域の住民による共助でしたが、このことからも共助の重要性がわかります 。
公助は、行政機関等(消防・警察・自衛隊など)による公的な救助・災害支援や復旧活動のことです 。しかし、大規模災害時には行政自身が被災して機能が麻痺する場合もあり、効果的な公助の展開には発災後1週間程度はかかると考えておく必要があります 。
ライフライン事業者による防災・減災対策は、社会インフラの安定供給を維持するために極めて重要な取り組みです 。関西電力グループでは、電力の安定供給を守るため、「早期復旧に向けた防災体制の確立」と「災害に強い設備づくり」を基本として対策を進めています 。
参考)https://www.kepco.co.jp/corporate/report/yous/8/active-kansai/article3.html
早期復旧に向けた防災体制としては、以下の取り組みを実施しています :
災害に強い設備づくりでは、以下のような具体的な対策を講じています :
土木学会では「ライフライン防災・減災技術の高度化と体系的活用検討小委員会」を設置し、首都直下地震や南海トラフ巨大地震津波等に向けた研究・技術情報の交流を図っています 。これまでに「インフラ・ライフライン減災対策シンポジウム」を計9回開催し、研究者や事業者・技術者の間でライフラインの防災・減災技術の最新動向を広く共有する活動を継続しています 。
参考)https://committees.jsce.or.jp/eec224/
減災教育は、地域全体の防災力向上に重要な役割を果たしています 。従来の防災教育効果の評価は参加者のみを対象とした検討に基づくものでしたが、近年では防災教育の効果がその参加者だけでなく、周囲の人々にも波及することが注目されています 。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/journalcpij/48/1/48_39/_article/-char/ja/
中央防災会議は「災害被害を軽減する国民運動」を推進しており、その基本方針の重点項目の1つとして防災教育の充実を挙げています 。しかし、防災教育には参加者が少数であることや、参加層がもともと防災活動に熱意を持つという少数の集団に偏重するという課題があります 。
効果的な減災教育の実現には、以下の要素が重要です :
健康教育分野の研究では、参加者が学んだことを家庭で実践したり、家族に対して伝達行動を行った結果、参加者のみならず家族においても良好な行動変容が生じることが報告されています 。このような知見は、減災教育においても参加者を通して家族や地域といった周囲の人々へ効果が波及する可能性を示唆しています 。
防災教育の効果を地域全体に波及させるためには、単に知識を伝達するだけでなく、参加者が自ら実践し、それを周囲に伝える仕組みづくりが重要といえます。地域の防災力向上を効率的に進めるためには、このような波及効果を意識した減災教育プログラムの設計が求められています 。