
銀行法第16条の4に規定される「5%ルール」は、銀行とその子会社が国内の一般事業会社の議決権を合算して5%を越えて取得・保有することを原則的に禁止する制度です 。この規制は1998年に新設され、銀行が本業以外で健全性を損なうことを防止する重要な役割を担っています 。
参考)https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB227G80S3A121C2000000/
銀行法における5%という基準は、独占禁止法第11条の規定に準拠しており、金融機関による事業会社の支配を予防することを狙いとしています 。具体的には、国内の会社の総株主等の議決権に百分の五を乗じて得た議決権の数を基準議決権数として、これを超える議決権の取得・保有を制限しています 。
参考)https://www.nomura.co.jp/terms/english/other/5percent-ho.html
この規制により、銀行は本業専念による効率性の発揮、他業リスクの排除、利益相反取引の防止、優越的地位の濫用の防止という4つの理念を実現しています 。これらの理念は、銀行業務の公共性と健全性を維持するために不可欠な要素として位置づけられています。
参考)https://8knot.nttdata.com/column/8750531
銀行法による議決権保有制限は、対象となる金融機関によって異なる上限が設定されています。普通銀行とその子会社については、合算して5%を超える議決権の保有が禁止されている一方、銀行持株会社とその子会社については15%という上限が設けられています 。
参考)https://www.dir.co.jp/report/research/law-research/securities/20210126_022046.pdf
信用金庫、信用組合、保険会社については10%が上限となっており、これらの機関の特性を考慮した制度設計がなされています 。この差異は、各金融機関の業務内容や社会的役割の違いを反映したものです。
協同組織金融機関についても同様の規制が設けられており、議決権保有制限は合算して取得・保有できる割合が10%に制限されています 。これにより、金融システム全体の安定性と健全性が確保される仕組みとなっています。
参考)https://www.dir.co.jp/report/research/law-research/regulation/20190822_020982.pdf
銀行法5%ルールには重要な例外規定が設けられており、特に投資専門子会社を通じた投資については特別な取り扱いがなされています。銀行は投資専門の子会社を設立することで、ベンチャービジネス会社、事業再生会社・事業承継会社、地域活性化事業会社の議決権を最大100%まで保有することが可能です 。
ベンチャービジネス会社への投資については、非上場会社で設立から10年以内(2024年の改正案では20年以内への緩和が検討)という制約があり、議決権を保有できる期間は15年までと定められています 。事業再生会社や事業承継会社については、第三者が経営改善計画の策定に関与することが要件となり、議決権保有期間は10年までに制限されています 。
参考)https://www.fsa.go.jp/news/r6/ginkou/20241129/01.pdf
地域活性化事業会社への投資も同様に、非上場会社で議決権保有期間は10年までという制約の下で、銀行の投資専門子会社による100%の議決権保有が認められています 。これらの例外規定により、地域経済の活性化やベンチャー企業の成長支援という政策目的が実現されています。
銀行法における5%ルールは、銀行の不動産業参入問題にも密接に関連しています。2021年の改正銀行法施行に際して、全国宅地建物取引業協会連合会などの活動により、銀行本体および関連会社による不動産業への参入は引き続き制限されることが明確化されました 。
参考)https://www.zentaku.or.jp/news/6702/
改正銀行法の施行規則において、銀行本体の地域活性化等に資する業務として追加されたのは経営相談や人材派遣、ITシステム販売などに限定され、不動産賃貸や不動産仲介は規定されていません 。この結果、宅建業界への影響を回避し、中小宅建業者の事業継続性が保護されています。
参考)https://www.jutaku-s.com/newsp/id/0000048836
政府も2022年6月の質問主意書に対する答弁書において、銀行による宅地建物取引業の営業は銀行法第12条の規定により認められておらず、銀行の健全性確保や利益相反の観点から慎重な検討が必要であるとの見解を示しています 。これにより、5%ルールの趣旨が不動産業界においても堅持されています。
参考)https://www.h-res.jp/blog/gyoukainews/20221223
銀行法5%ルールは、実務における銀行の投資戦略に大きな影響を与えており、2020年から2024年の間に地方銀行によって設立された子会社約100社のうち、約30社が投資専門会社となっています 。これは、5%ルールの例外規定を活用した戦略的な子会社設立の現れといえます。
近年の規制緩和の動きとして、ベンチャービジネス会社への投資要件について「設立から10年以内」を「設立から20年以内」に緩和する案が検討されており、創薬分野等の研究開発期間が長期にわたる企業への支援が強化される見込みです 。この改正により、銀行による成長産業への資金供給がより柔軟に行えるようになります。
また、投資専門子会社のコンサルティング業務についても、出資先・出資見込み先以外の企業に対してもサービス提供が可能となる改正が進められており、銀行グループ全体としての付加価値向上が期待されています 。これらの改正により、5%ルールの基本的な枠組みを維持しながら、地域経済の活性化や産業支援の機能が強化されることとなります。