
会社法第308条第1項は、株主の議決権について「株主は、株主総会において、その有する株式一株につき一個の議決権を有する」と規定しています 。これは「一株一議決権の原則」と呼ばれ、株式会社における資本多数決の原則を体現する基本的な仕組みです 。
参考)https://www.crear-ac.co.jp/shoshi/takuitsu_kaishahou/kaishahou_308/
この原則により、株主は所有する株式数に応じて会社の意思決定に影響力を行使できます。例えば、10株を保有する株主は10個の議決権を、100株を保有する株主は100個の議決権を有することになります 。単元株制度を採用している会社では、1単元(例:100株)につき1個の議決権となる例外規定も設けられています 。
参考)https://shiodome.co.jp/js/blog/11559
この制度により、出資額に応じた公平な議決権配分が実現され、会社の所有者である株主の意思が適切に会社経営に反映される仕組みが確立されています 。
参考)https://money-bu-jpx.com/news/article059130/
会社法は株主の議決権について、複数の制限規定を設けています。最も重要な制限として、第308条第2項では「株式会社は、自己株式については、議決権を有しない」と明記されています 。これは会社が自己の保有株式により議決権を行使することで、経営陣の保身や株主の意向を無視した決議が行われることを防ぐためです 。
参考)https://toma.co.jp/blog/pn/%E3%81%A9%E3%81%AE%E3%82%88%E3%81%86%E3%81%AA%E5%A0%B4%E5%90%88%E3%81%AB%E6%A0%AA%E4%B8%BB%E7%B7%8F%E4%BC%9A%E3%81%A7%E8%AD%B0%E6%B1%BA%E6%A8%A9%E3%81%8C%E8%A1%8C%E4%BD%BF%E3%81%A7%E3%81%8D%E3%81%AA/
相互保有株式についても議決権制限があります。会社法第308条第1項括弧書きでは、「株式会社がその総株主の議決権の4分の1以上を有することその他の事由を通じて株式会社がその経営を実質的に支配することが可能な関係にある株主」の議決権を排除しています 。
参考)https://taniguchi-office.net/sub/kaisha-houmu/%E6%A0%AA%E4%B8%BB%E7%B7%8F%E4%BC%9A%E3%81%AE%E8%AD%B0%E6%B1%BA%E6%A8%A9-131.html
その他の制限として、議決権制限株式(会社法108条)、単元未満株式(308条1項ただし書)についても議決権が認められていません 。これらの制限により、公正な会社運営と株主間の利益バランスが保たれています。
参考)https://niigata-common.com/info/legal/%E3%80%90%E5%BC%81%E8%AD%B7%E5%A3%AB%E3%81%8C%E8%A7%A3%E8%AA%AC%E3%80%91%E8%AD%B0%E6%B1%BA%E6%A8%A9%E3%81%AE%E5%88%B6%E9%99%90%E3%81%AB%E3%81%A4%E3%81%84%E3%81%A6
会社法第309条は、株主総会の決議要件について詳細に規定しています。第1項の普通決議では「議決権を行使することができる株主の議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した当該株主の議決権の過半数をもって行う」とされています 。
参考)https://www.crear-ac.co.jp/shoshi/takuitsu_kaishahou/kaishahou_309/
特別決議は第2項で「議決権を行使することができる株主の議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した当該株主の議決権の3分の2以上の多数をもって行う」と規定され、定款変更や合併などの重要事項で要求されます 。定足数については定款で「3分の1まで」引き下げることが可能です 。
参考)https://syogyo-toki.com/%E6%A0%AA%E4%B8%BB%E7%B7%8F%E4%BC%9A%E3%81%AE%E6%B1%BA%E8%AD%B0%E8%A6%81%E4%BB%B6/
さらに重要な決議として特殊決議があり、株式の譲渡制限設定では「議決権を行使することができる株主の半数以上で、かつ当該株主の議決権の3分の2以上」の賛成が必要となります 。これらの要件により、会社の重要事項ほど多くの株主の意思が反映される仕組みが構築されています。
参考)https://gyosyo.info/%E6%A0%AA%E4%B8%BB%E7%B7%8F%E4%BC%9A%E3%81%AE%E6%B1%BA%E8%AD%B0%EF%BC%88%E6%99%AE%E9%80%9A%E6%B1%BA%E8%AD%B0%E3%83%BB%E7%89%B9%E5%88%A5%E6%B1%BA%E8%AD%B0%E3%83%BB%E7%89%B9%E6%AE%8A%E6%B1%BA%E8%AD%B0/
株主総会における特別利害関係人の議決権行使について、現行会社法は従来とは異なるアプローチを採用しています。特別の利害関係を有する株主であっても、原則として議決権行使が認められています 。これは昭和56年改正前商法が特別利害関係株主の議決権を排除していたことと対照的です 。
参考)https://www.azx.co.jp/knowledge/2842
ただし、特別利害関係人の議決権行使により「著しく不当な決議」がなされた場合には、会社法第831条第1項第3号に基づき決議取消しの訴えの対象となります 。この制度により、原則的に議決権行使の自由を保障しながら、具体的な不当性については事後的な救済で対処する仕組みが確立されています 。
参考)https://www.nakata-law.com/smart/column/entry/post-116/
自己株式の取得決議における取得対象株式の株主などは、会社法140条3項、160条4項、175条2項により明確に議決権行使が禁止されている例外的なケースもあります 。このように、特別利害関係人の議決権については、原則許容・例外制限の柔軟な制度設計がなされています。
株主の議決権に関する条文を実務で適用する際には、いくつかの重要なポイントがあります。まず、議決権数の計算では自己株式を除外する必要があります。例えば発行済株式3,000株のうち1,000株が自己株式の場合、議決権総数は2,000個となります 。
参考)https://isojima.com/2021/02/05/%E8%87%AA%E5%B7%B1%E6%A0%AA%E5%BC%8F%E3%81%AB%E3%81%AF%E6%B1%BA%E8%AD%B0%E6%A8%A9%E9%99%90%E3%81%8C%E3%81%AA%E3%81%84%EF%BC%9F/
相互保有株式の判定は、原則として株主総会当日における会社と株主の関係で行われ、基準日を設定している場合は基準日時点で判断されます 。この判定により議決権行使の可否が決まるため、事前の確認が重要です。
株主提案権についても、会社法第303条で議決権の保有割合による制限があります。取締役会設置会社では「総株主の議決権の100分の1以上」または「300個以上の議決権」を6ヶ月前から継続保有する株主のみが提案権を行使できます 。これらの実務的な要件を正確に理解することで、適切な株主総会運営と議決権行使が可能になります。
参考)https://www.crear-ac.co.jp/shoshi/takuitsu_kaishahou/kaishahou_303/