
包括承継は、民法第896条に基づく「相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する」という規定に従い、被相続人が有していた全ての権利義務を一括して承継する制度です 。
参考)https://www.tcs-law.com/glossary/post_57.html
この承継方法では、プラスの財産(不動産、預金、有価証券など)だけでなく、マイナスの財産(借金、保証債務など)も含めて自動的に承継されるため、相続人は被相続人の経済的地位を丸ごと引き継ぐことになります 。
参考)https://www.ma-cp.com/about-ma/specific-succession/
相続以外にも、企業の合併における存続会社への権利義務の移転も包括承継の典型例であり、会社法第750条では合併による権利義務の承継について規定されています 。
参考)https://fundbook.co.jp/column/understanding-ma/comprehensive-succession/
特定承継は、売買や贈与、交換、事業譲渡などにおいて、承継する財産や権利を個別に指定して移転する方法です 。この方式では、当事者間で譲渡対象を絞り込むことができるため、事業の目的や取引の意図に応じた柔軟な設計が可能となります 。
参考)https://mitsukitax.tkcnf.com/what-is-a-specific-successor
特定承継の最大の特徴は、権利義務の移転に「個別の承諾」が必要となることです 。債務の移転には債権者の同意が必要であり、雇用契約の場合は労働者本人の転籍合意が求められます 。
参考)https://bloomcapital.jp/ma-keyword/%E7%89%B9%E5%AE%9A%E6%89%BF%E7%B6%99%EF%BC%88%E5%80%8B%E5%88%A5%E6%89%BF%E7%B6%99%EF%BC%89
実務では、資産を第三者対抗要件に基づいて移転し、債権者からの承諾を個別に取得し、労働者と転籍合意書を交わすなど、一つひとつの権利義務について確実な手続きを行う必要があります 。
参考)https://ma-la.co.jp/m-and-a/successor-definition/
包括承継には重要な例外があり、民法第896条ただし書きでは「被相続人の一身に専属したもの」は承継されないと規定されています 。この一身専属権には、親権、扶養の権利義務、貞操義務、子の認知など、個人の身分関係に強く結びつく性質のものが該当します 。
参考)https://nexillpartners.jp/law/sozoku/blog/post_268/
また、被相続人の特別な技能に基づく契約や、被相続人との個人的信頼関係に基づく権利も一身専属権として扱われます 。具体例として、公営住宅の使用権や生活保護を受ける権利、各種年金の受給権などが挙げられ、これらは被相続人固有のものとして相続の対象から除外されます 。
参考)https://nao-lawoffice.jp/souzoku/columns/heritage/1017/
民法第897条では、系譜・祭具・墳墓の所有権についても特別な規定を設け、慣習に従って祖先の祭祀を主宰すべき者が承継すると定めており、通常の包括承継とは異なる取り扱いがなされています 。
包括承継と特定承継では、第三者に対する権利の対抗要件に大きな違いがあります 。包括承継の場合、原則として対抗要件がなくても第三者に対抗可能とされており、相続による権利取得では登記なしに第三者に権利を主張できます 。
参考)https://www.mc-law.jp/sozokuigon/19491/
ただし、平成30年の民法改正により、特定財産承継遺言の場合は法定相続分を超える部分について登記などの対抗要件が必要となりました 。これは相続人以外の第三者の利益を保護するための重要な制度変更です 。
参考)https://www.bk.mufg.jp/soudan/shisan/lp/column/17.html
特定承継においては、不動産の移転には登記手続きが必須であり、債権の譲渡には債務者への通知や承諾が求められます 。民法第177条における「第三者」の概念では、当事者とその包括承継人は除外されるため、包括承継人は特別な地位を有します 。
参考)https://www.mc-law.jp/fudousan/27155/
包括承継では、被相続人の債務も自動的に承継されるため、相続人は相続放棄や限定承認といった制度を活用してリスクを管理する必要があります 。日本の包括承継主義では、債務も含めた相続財産が被相続人の死亡により直ちに相続人に移転するため、事前の財産調査が重要となります 。
参考)https://www.n-estem.co.jp/e-trust/column/setsuzei/2406-02/
特定承継では、マンションの修繕積立金や管理費の滞納など、区分所有権に付随する負債を引き継がざるを得ないケースがあります 。このような場合、購入価格の減額交渉や条件調整により、被承継人と納得のいく形で引き継ぎを行うことが実務上重要です 。
事業譲渡における特定承継では、譲渡対象事業のキーパーソンの移転承諾が実行条件とされることがあり、重要な従業員の同意取得は事業価値の維持に直結する重要な要素となります 。労働契約の承継を避けたい場合は、一旦退職してから再雇用する方法も検討されます 。