保有水平耐力と層間変形角1/100の建築基準法における関係性

保有水平耐力と層間変形角1/100の建築基準法における関係性

建築物の耐震性能を評価する保有水平耐力計算において、層間変形角1/100という数値はどのような意味を持ち、建築基準法上どのように扱われているのでしょうか?

保有水平耐力と層間変形角1/100の関係

保有水平耐力計算における層間変形角1/100の重要性
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計算時点の設定

保有水平耐力を求める際の終了時点として使用される変形角の基準値

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構造体の安全性指標

建物が崩壊に至る前の許容変形範囲を示す重要な判断基準

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法的位置づけ

建築基準法では明確な数値規定はないが実務上の標準的な設定値

保有水平耐力計算における1/100の設定意味

保有水平耐力計算において、層間変形角1/100は建物の最終的な耐力を求める際の重要な指標として使用されます。この値は、建築物が大地震時に崩壊メカニズムに達する前の段階で、構造体が保持できる水平耐力を算定する時点として設定されるものです。
参考)http://news-sv.aij.or.jp/kouzou/s22/public/080331-0411/appendix13.pdf

 

RC造やSRC造のラーメン架構では、保有水平耐力計算時の層間変形角を1/100程度とすることが実務上の標準となっています。一方、連層耐力壁付きラーメン架構では、より厳しい1/150程度が推奨されており、構造形式によって適切な設定値が異なります。
参考)https://www.fkjc.or.jp/wp/wp-content/uploads/2017/05/kouzou_hanrei_taiou1.pdf

 

微小変形理論の解析精度と部材復元力特性のモデル化の観点から、保有水平耐力Quを計算する際の層間変形角は、一般に1/100程度以内の時点とすることが適切とされています。これは、過大な変形角を設定した場合、架構の傾斜によるP-Δ効果の影響や部材の変形限界の考慮が必要となるためです。
参考)https://www.icba.or.jp/zzfilebox/kenshuka/r3jissenk_qa.pdf

 

建築基準法における保有水平耐力の法的根拠

建築基準法施行令第82条の3において、保有水平耐力は必要保有水平耐力以上であることが求められています。しかし、保有水平耐力を算定する際の層間変形角について、法律上明確な数値基準は定められていません。
参考)https://www.various-kozo.com/%E3%80%90%E3%82%8F%E3%81%8B%E3%82%8A%E3%82%84%E3%81%99%E3%81%84%E6%A7%8B%E9%80%A0%E8%A8%AD%E8%A8%88%E3%80%91%E5%B1%A4%E9%96%93%E5%A4%89%E5%BD%A2%E8%A7%92%EF%BD%9E%E5%A4%89%E5%BD%A2%E3%81%A8%E6%90%8D/

 

保有水平耐力計算は、建築基準法施行令第82条第1項で定められた構造計算基準の一つで、いわゆる「ルート3」と呼ばれる計算方法です。この計算では、許容応力度計算、使用上の支障確認、層間変形角確認、保有水平耐力確認、屋根ふき材等の構造計算という5つの検討項目を含む一連の計算を指します。
参考)https://f-kenkihou.com/archives/461

 

構造特性係数が0.3の建物で層間変形角1/100で保有水平耐力を決定した場合の実例も示されており、実務における標準的な設定値として1/100が広く採用されています。
参考)https://www.taaf.or.jp/information/docs/2019kaisetsu.pdf

 

層間変形角1/100と建物損傷の関係性

層間変形角1/100は、建築物の損傷レベルを判断する重要な指標として機能します。一般的に、層間変形角が1/100を超えると建物の傾き(残留変形)が目に見えて分かるようになり、余震による倒壊の危険性が高まることが知られています。
この変形レベルでは、建物の補修による再利用が困難となり、構造体に深刻な損傷が発生する可能性が高くなります。一方、1/150を超え始めると非構造部材(内外装材の脱落、建具の変形による開閉不能、窓ガラスの破損など)に被害が発生しやすくなることも確認されています。
木造建築物においては、大地震時の層間変形角として1/30が設定されることがありますが、これは鉄筋コンクリート造鉄骨造とは異なる構造特性を反映したものです。各構造種別に応じた適切な変形角の設定が、建物の耐震安全性を確保する上で重要となります。
参考)https://hirohouse1.com/genkai/

 

保有水平耐力計算の実務的な運用基準

実務において、保有水平耐力はいずれかの層が1/100rad(約1/100の層間変形角)に達した時点の耐力として算定することが標準的な手法となっています。この時点では、脆性破壊する部材が生じないことを確認することが重要な条件となります。
参考)https://www.mlit.go.jp/gobuild/content/001517903.pdf

 

純ラーメンに近い架構では、保有水平耐力と判断する時の層間変形角(設計限界変形)が概ね1/100程度以下であることを確認する必要があります。これは、機構保証設計の観点から、構造体の安全性を担保するための重要な検討項目です。
構造計算適合性判定制度においても、保有水平耐力計算が必要保有水平耐力以上の値になっているかどうかの審査が行われており、計算結果が法令基準に適合していることの確認が求められています。
参考)https://www.mlit.go.jp/common/000118095.pdf

 

大地震動時の層間変形角推定における1/100の意義

大地震動時の建築物の応答を評価する際、令第82条の2に規定する層間変形角から推定する方法では、エネルギー一定則を用いた計算が行われます。この計算結果が1/100を超える場合は、建物の剛性や耐力を向上させる構造変更が必要となります。
参考)https://note.com/kozosystem40th/n/n62a86cc91cbc

 

現行の建築基準法では、一次設計における層間変形角の制限値として1/200が設定されていますが、二次設計(大地震時)における明確な制限値は法的に定められていません。しかし、保有水平耐力計算において1/100が実務上の標準として採用されることで、大地震時の建物安全性を実質的に担保する役割を果たしています。
参考)https://kenchiku-kouzou.jp/houki/kouzoukeisan/soukan-henkeikaku/

 

限界耐力計算などのより詳細な耐震性能評価手法では、建物の層間変形が1/120、1/60、1/30、1/15の各段階における検討が行われますが、保有水平耐力計算における1/100はこれらの中間的な安全性レベルを表現するものです。
国土交通省の構造設計指針では、建築物の耐震性能を層間変形角によって段階的に評価することが推奨されており、1/100という数値は実用的な安全性判断の基準として重要な位置を占めています。