
景観行政団体は、景観法に基づいて良好な景観の保全・形成を図る重要な行政機構です 。令和7年3月31日時点で、全国に822の景観行政団体が存在し、その内訳は都道府県39団体、政令市20団体、中核市62団体、その他の市町村701団体となっています 。
参考)https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%99%AF%E8%A6%B3%E8%A1%8C%E6%94%BF%E5%9B%A3%E4%BD%93
景観行政団体の根拠法である景観法は、平成16年6月に公布され、同年12月から施行された景観に関する基本法として位置付けられています 。この法律により、都市部だけでなく農村部等も対象にした地域の個性を反映した柔軟な規制等によって景観の形成を図る制度が確立されました 。
参考)https://www.mizuho-re.co.jp/knowledge/dictionary/wordlist/print/?n=1752
都道府県内で全ての市区町村が景観行政団体に移行している県は、静岡県、山口県、香川県、愛媛県、大分県、宮崎県、鹿児島県の7県となっており、地域によって景観行政への取り組み度合いに差があることが分かります 。
参考)https://www.pref.hokkaido.lg.jp/fs/1/0/8/8/2/6/9/2/_/01_%E6%99%AF%E8%A6%B3%E3%81%BE%E3%81%A1%E3%81%A5%E3%81%8F%E3%82%8A%E3%81%AE%E6%8E%A8%E9%80%B2%E3%81%AB%E5%90%91%E3%81%91%E3%81%A6(%E5%9B%BD%E5%9C%9F%E4%BA%A4%E9%80%9A%E7%9C%81).pdf
景観行政団体は、その設立根拠によって以下のように分類されます :
自動的に景観行政団体となる団体 🏛️
協議により景観行政団体となる団体 📝
政令指定都市・中核市以外の市町村が景観行政団体になるためには、都道府県に代わって景観計画、景観重要建造物、景観重要樹木、景観協定、景観整備機構の事務を処理することについて都道府県とあらかじめ協議し、同意を得る必要があります 。
全国の基礎自治体1,741団体のうち、約3分の1を超える数が景観行政に取り組んでおり、景観行政が地域に根付いてきていることが示されています 。特に注目すべきは、景観計画を策定している団体が675団体に達していることで、これは景観行政団体の約82%が具体的な景観施策を実行していることを意味します 。
参考)https://www.mlit.go.jp/common/001489144.pdf
景観行政団体は、景観法に基づき以下の重要な権限と役割を担っています :
参考)https://www.city.ashiya.lg.jp/toshikeikaku/keikan/keikangyouseidantai.html
景観計画の策定権限 📋
景観行政団体は、良好な景観の形成に関する計画である「景観計画」を定めることができます。景観計画では、景観計画区域、良好な景観の形成に関する方針、行為の制限に関する事項などを定められます 。
参考)https://www.city.toba.mie.jp/soshiki/machidukuri/gyomu/seisaku_keikaku/keikan/1454.html
建築物等の規制・誘導権限 🏗️
景観計画区域内では、建築物や工作物の新築、増築、外観を変更する修繕や模様替え、色彩の変更を行う際に、設計や施工方法などを景観行政団体に届け出る義務が生じます 。届出をしなかった場合や虚偽の届出をした場合、30万円以下の罰金に処される可能性があります 。
参考)https://ironbird.jp/landscape-administrative-organization/
景観重要建造物・樹木の指定権限 🌳
景観行政団体の長は、景観計画区域内の良好な景観の形成に重要な建造物や樹木を景観重要建造物・景観重要樹木として指定できます 。現在、景観重要建造物829件、景観重要樹木290件が指定されています 。
参考)https://www.rilg.or.jp/htdocs/img/reiki/056_landscape.htm
屋外広告物条例の策定権限 📢
景観行政団体は、屋外広告物法に基づき、広告物の規制誘導を行う屋外広告物条例を策定することができます 。
宅建業務において、景観行政団体の存在は重要な影響を与えます。特に不動産の売買や建築に関わる業務では、以下の点に注意が必要です。
届出義務の重要性 📝
景観計画区域内で建築物の新築、増築、改築、移転、除却、外観を変更する修繕や模様替え、色彩の変更を行う場合、景観行政団体への届出が義務付けられています 。この届出は建築確認申請とは別の手続きであり、景観法に適合しないことが建築確認申請の不認定理由にはなりませんが、適切な届出が必要です 。
参考)https://laws.e-gov.go.jp/law/416AC0000000110
事前相談制度の活用 💬
多くの景観行政団体では、届出前の事前相談制度を設けています 。宅建業者として顧客にアドバイスする際は、この制度の活用を推奨することで、スムーズな建築計画の進行をサポートできます。
参考)http://www.pref.nara.jp/secure/57739/qah28.pdf
地域特性の理解 🗺️
景観行政団体ごとに定められる景観計画の内容は地域特性を反映したものとなっています。そのため、宅建業者は担当エリアの景観行政団体が策定する景観計画の内容を把握し、顧客に適切な情報提供を行う必要があります。
現在の景観行政団体の状況を分析すると、いくつかの重要な課題と動向が見えてきます。
増加傾向にある景観行政団体 📈
景観法施行以来、景観行政団体数は着実に増加しており、平成16年の94団体から令和5年3月時点で806団体まで増加しています 。この傾向は、地域における景観への関心の高まりと、良好な景観形成の重要性に対する認識の向上を示しています。
景観計画策定の進展 📊
景観行政団体のうち約82%が景観計画を策定済みであり、具体的な景観施策の実行段階に入っている団体が多いことが分かります 。これにより、建築物の形態、色彩、高さなどに関する具体的な制限が各地域で設けられています。
地域間格差の存在 🌏
都道府県によって景観行政への取り組み度合いに差があり、全市町村が景観行政団体となっている県が7県にとどまっている現状があります 。この格差は、地域の景観に対する意識や行政の取り組み姿勢の違いを反映していると考えられます。
景観行政団体の中には、従来の建築規制にとどまらない独自の取り組みを行っている事例があります。
夜間景観への対応 🌙
一部の景観行政団体では、昼間だけでなく夜間の景観形成にも着目し、照明や屋外広告物の夜間における面的な規制誘導を行っています 。これは従来の景観行政では十分に対応されていなかった分野であり、24時間の良好な景観形成を目指す先進的な取り組みです。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/journalcpij/58/3/58_1532/_article/-char/ja/
景観資源関連事業の推進 🏞️
景観行政団体は、単なる規制にとどまらず、地域の景観資源を活用した事業の推進にも取り組んでいます 。これには、歴史的建造物の保全活用、景観重要樹木の管理、地域の特色ある景観の PR 活動などが含まれます。
参考)https://www.semanticscholar.org/paper/f729725676cf830878bbc1bd849143e13106b14c
住民参加型の景観まちづくり 👥
多くの景観行政団体では、景観計画の策定や改定において住民参加を重視し、ワークショップやシンポジウム、パブリックコメントなどの手法を活用しています 。これにより、地域住民の意見を反映した実効性の高い景観施策の実現を図っています。
参考)https://www.mlit.go.jp/toshi/townscape/content/001474535.pdf
景観行政団体制度は、我が国の美しい国土形成に向けた重要な制度として定着し、今後も更なる発展が期待されています。宅建業者として、この制度の理解と適切な対応が、顧客サービスの向上と円滑な不動産取引の実現につながることを認識し、継続的な情報収集と知識の更新が重要です。