
令和7年3月31日時点で、全国822の地方公共団体が景観行政団体として機能しており、このうち675団体が景観計画を策定している 。景観条例は都道府県、政令指定都市、中核市では自動的に制定権限を持ち、その他の市町村では都道府県知事との協議・同意により景観行政団体となることができる 。
景観行政団体の内訳は、都道府県39団体、政令市20団体、中核市62団体、その他の市町村701団体となっている 。47都道府県のうち39の自治体が景観行政団体となっており、8つの県では県内全ての市区町村が景観行政団体に移行している 。
各都道府県における景観条例の制定状況は、地域の特色や歴史的背景により大きく異なっている 。最も早期に景観条例を制定したのは宮崎県で、1969年(昭和44年)に「宮崎県沿道修景美化条例」を施行した 。一方、最も新しく制定された例として、新潟県が2020年(令和2年)に「新潟県景観条例」を制定している 。
参考)https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%99%AF%E8%A6%B3%E6%9D%A1%E4%BE%8B
都道府県の景観条例制定年代別分類:
愛知県では2025年4月1日時点で県内54市町村のうち19市町が景観行政団体となり、16市町が景観計画を策定している 。この数値は他の都道府県と比較して高い水準を示しており、積極的な景観行政への取り組みが伺える 。
参考)https://www.pref.aichi.jp/soshiki/koen/keikan.html
2005年の景観法全面施行以降、景観条例は法的根拠を持つ委任条例として強制力を持つようになった 。景観法施行前は自主条例として運用されていたため、建築行為などに対する実効性に限界があった 。現在の景観条例は「委任条例」と「自主条例」の複合型として制定されることが多い 。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/arp1982/20/1/20_1_23/_pdf
委任条例部分では、建築物等の形態意匠に関する変更命令や届出対象行為の細分化が可能となっている 。法委任条例を制定しない場合、景観計画区域内のあらゆる規模の建築物・工作物・開発行為が届出対象となるため、事務処理が膨大になる課題がある 。
参考)https://www.pref.kagoshima.jp/ac06/kurashi-kankyo/chiiki/keisei/torikumi/documents/01-4daisansyou-02.pdf
景観法に基づく制度の活用状況:
景観条例の制定においては、住民の意見反映が重要な要素となっている 。景観計画策定時には公聴会の開催等住民の意見を反映させるための措置を講ずることが義務付けられており、条例により追加的な手続きも可能とされている 。
三田市の事例では、平成21年2月に景観行政団体となった後、市民共有の資産として良好な景観を守り、育て、創り、次世代に継承するための制度をまとめた景観条例を制定した 。この条例では、市、市民及び事業者の協働のもと、人々の生活や経済活動等と一体となった持続可能な取り組みとして景観形成に取り組むことを基本理念としている 。
参考)https://www.city.sanda.lg.jp/soshiki/34/gyomu/kaihatsu_toshikeikaku/keikan/3879.html
和泉市では令和5年8月1日に景観行政団体へと移行し、市内各地域の個性を反映した良好な景観を守り、育み、より魅力的な景観をつくり出していくための取り組みを開始した 。府内43市町村のうち18市が景観計画を策定し運用している状況にある 。
参考)https://www.city.osaka-izumi.lg.jp/material/files/group/73/R51keikan.pdf
全国の景観行政団体のうち、中核市以上では90%、特例市以下でも60%が景観計画を策定している高い水準を示している 。しかし、都道府県との協議を経て指定された特例市以下でも40%の市町村で景観計画が策定されていない状況があり、何らかの課題が存在していると考えられる 。
参考)http://www.arch.oita-u.ac.jp/urban/database/summary_list/aij2013-kyushu/706.pdf
景観行政の実効性を高めるためには、都道府県が市町村の景観行政を指導・支援する体制の構築が必要とされている 。また、地域資源の保全と活用に向けた議論も活発化しており、国土交通省では「地域資源の保全と活用に向けた歴史まちづくりや景観行政に関するワーキンググループ」を開催している 。
参考)https://www.mlit.go.jp/toshi/townscape/index.html
今後の重要課題:
埼玉県では景観資源データベースシステムを構築し、県内にある魅力的、歴史的な建物や美しいまちなみ等の良好な景観資源を県民と協働して発掘している 。このような取り組みは他の自治体にとっても参考となる先進事例として注目されている 。
参考)https://www.pref.saitama.lg.jp/a1102/keikan-shigen/20160331.html