
景観法と景観条例は、よく混同されがちですが、実際には階層的な関係にある制度です。景観法は2004年に制定された国の法律で、良好な景観の形成を総合的かつ計画的に進めるための基本的な枠組みを定めています。これに対して景観条例は各自治体が景観法に基づいて定めるローカルルールで、地域の実情に応じた具体的な規制内容を設定しています。
両者の関係性を端的に表現すると、**景観法が"骨組み"であり、景観条例が"中身"や"実行ルール"**という位置づけになります。景観条例は景観法に基づいて定められる補完的な存在であり、独立した制度ではありません。
景観法自体は直接的に都市景観を規制しているわけではなく、景観行政団体が景観に関する計画や条例を作る際の法制度として機能しています。つまり、実際の規制や指導は景観条例を通じて行われることが一般的です。
この関係性を理解することで、不動産業務において景観関連の規制を調査する際に、国の法律レベルと自治体の条例レベルの両方を確認する必要性が明確になります。
景観条例の歴史は景観法よりもはるかに古く、1968年(昭和43年)に金沢市が制定した「伝統環境保存条例」が最初とされています。都道府県レベルでは1969年(昭和44年)の宮崎県「沿道修景美化条例」が最初で、その後全国に拡大していきました。
しかし、2005年まで景観条例は法令の委任に基づかない自主条例だったため強制力がありませんでした。多くの自治体が独自に景観行政を展開する必要に迫られ、自主条例を制定して対応せざるを得なかったのが実情です。
景観法が2005年6月1日に全面施行されて以降、景観行政団体である地方公共団体は条例で景観問題に対して大きな役割を果たすことが可能になりました。これにより、従来の自主条例では限界があった強制力を伴う法的規制の枠組みが設けられ、同時に自治体の独自性が発揮できるような法的仕組みが導入されました。
この歴史的経緯により、現在でも景観法に基づく条例と自治体独自の条例の2種類が併存している地域があります。前者は景観計画区域や景観地区を定めた条例で、後者は地方自治法に基づき各自治体が独自に制定する条例です。
景観法の運用において中核的な役割を果たすのが景観行政団体です。景観行政団体になれるのは以下の自治体です:
景観行政団体は景観計画を策定し、景観計画区域を指定する権限を持っています。景観計画区域では、建築物の新築・増築・改築、外観の変更を要する修繕や模様替え、色彩の変更などの行為について、30日前までに景観行政団体の長への届出が必要です。
また、景観行政団体は景観地区を設定することも可能で、景観地区では都市計画法に基づくより強力な規制が適用されます。景観地区では建築物の形態意匠の制限、高さの最高・最低限度、敷地面積の最低限度、壁面の位置の制限などが定められます。
景観行政に取り組みたい市町村は、都道府県との協議を経て景観行政団体になることが可能で、これにより地域の実情に応じたきめ細かい景観行政の展開が期待されています。
景観法と景観条例では、規制の対象や内容に明確な違いがあります。
景観法レベルの規制では、景観計画区域において以下の行為が対象となります:
一方、景観条例レベルの規制では、各自治体がより具体的で詳細な基準を設定します。例えば。
景観法では基本的な枠組みを提供し、景観条例で実際の運用に必要な詳細な基準を設定するという役割分担が明確になっています。これにより、全国統一的な制度の下で、地域の特性に応じた柔軟な景観行政が展開できる仕組みが構築されています。
不動産実務においては、景観法の対象区域かどうかの確認とともに、該当する自治体の景観条例の具体的な規制内容を把握することが不可欠です。
景観法と景観条例の違いを理解する上で重要なのが、実効性と罰則規定の違いです。
景観法の強制力については地域によって違いがあります。法律の条文でも「良好な景観の形成に関する計画を定めることができる」という表現で、「定めなければならない」とは規定されていません。そのため、各景観行政団体によって強制力の程度に差が生じているのが現状です。
しかし、景観条例に違反した場合の罰則は明確に定められています:
これらの罰則規定により、景観条例には一定の実効性が担保されています。
興味深い点として、景観法制定以前から独自の景観条例を制定して地域の景観形成を図ってきた先進的な自治体も存在します。これらの自治体では、長年の運用実績に基づいた独自のノウハウが蓄積されており、景観法制定後もそれらの経験を活かした効果的な景観行政を展開しています。
また、景観条例を制定していない自治体でも、開発指導要綱や開発許可の基準などで類似の規制を行っている場合があります。このような地域では、景観法や景観条例以外の制度による景観規制が存在する可能性があるため、不動産実務では多角的な調査が必要になります。
現在の景観行政の課題として、エリアマネジメント団体による創造的な景観協議や多様な主体の参画による景観マネジメントの重要性が指摘されており、従来の規制誘導手法だけでない新しいアプローチが模索されています。