
日本の建設業におけるコンクリート工は、過去30年間にわたって生産性の向上が停滞している分野として知られています 。国土交通省の調査によると、トンネル工事などでは約50年間で生産性を最大10倍に向上させた一方で、土工やコンクリート工では改善の余地が大きく残っています 。
参考)https://www.mlit.go.jp/common/001181544.pdf
特にコンクリート工の現場では、鉄筋の配筋や型枠の設置などに多くの人手を要しており、熟練工の高齢化と人手不足が深刻化しています 。土工とコンクリート工で直轄工事の全技能労働者の約4割を占めることからも、この分野の生産性向上は建設業界全体の課題となっています 。
参考)https://concom.jp/contents/countermeasure/column/vol59.html
現在のコンクリート工における生産性の低迷要因として、現場作業への依存度の高さ、標準化の遅れ、そして新技術導入の遅れが挙げられます 。これらの課題を解決するため、国土交通省ではi-Constructionの一環として「コンクリート生産性向上検討協議会」を設置し、体系的な取り組みを進めています 。
参考)https://www.jice.or.jp/cms/kokudo/pdf/reports/recital/2021/gj2021_07.pdf
プレキャスト工法は、コンクリート構造物を現場で打設する代わりに、工場で製造した部材を現場で組み立てる工法です 。この工法による生産性向上効果は複数の側面から実証されています。
参考)https://www.nippon-c.co.jp/feature/precast/
工期短縮効果として、プレキャスト工法では現場での施工期間を約半分まで短縮できる事例が報告されています 。特に高速道路のオンランプ構造物では、特殊L型部材を活用したハーフプレキャストU型構造により、従来工法と比較して大幅な工期短縮を実現しました 。
品質面での優位性も重要な特徴です 。工場での製造環境では、材料や配合、設備や製造プロセスを安定させやすく、天候に左右されにくい製造が可能となります 。さらに、使用前の品質検査が実施できるため、現場打ちコンクリートよりも品質の安定性が向上します 。
参考)https://www.maruji.com/news/%E3%80%90%E3%82%B3%E3%83%A9%E3%83%A0%E3%80%91%E7%8F%BE%E5%A0%B4%E6%89%93%E3%81%A1%E3%81%8B%E3%82%89%E3%81%AE%E3%83%97%E3%83%AC%E3%82%AD%E3%83%A3%E3%82%B9%E3%83%88%E5%8C%96%E6%8F%90%E6%A1%88/
コスト面では、材料費・製造費は現場打ちより高くなりますが、現場での人件費や施工費を考慮したトータルコストでは、プレキャスト製品の方が優位となるケースが多くなっています 。特に長距離の工事や天候リスクの高い地域では、その差が顕著に現れます 。
高流動コンクリートは、従来のコンクリートと比較して高い流動性を有し、締固め作業を不要とする革新的な技術です 。この技術により、部材形状が複雑な箇所や過密鉄筋部分でも、コンクリートが隅々まで行きわたり、自己充填が可能となります 。
参考)http://www.civil.ce.nihon-u.ac.jp/~iwaki/6highperformance18.pdf
技術的特徴として、高流動コンクリートは単位粗骨材量を少なくし、高性能減水剤の使用量を増やすことで高い流動性を実現しています 。粉体系では水粉体比を小さくし、増粘剤系では増粘剤の使用が不可欠となります 。
施工効率化への効果は多岐にわたります 。流動性を高めた現場打ちコンクリートの活用により、締固め作業の軽減や打込み作業時間の短縮が実現できます 。特に振動機が入らない狭い場所や、工場製品での騒音防止が必要な現場では、その効果が顕著に現れます 。
ただし、コストや品質変動、型枠の補強などの課題も存在するため 、現場の認識不足により低品質コンクリートができてしまうリスクがあり、厳しい品質管理と施工管理が必要となります 。
埋設型枠工法は、脱型不要のコンクリートパネルを使用して、型枠組立・解体作業の省力化と工程短縮を実現する技術です 。この工法により、従来の型枠作業における人工や工期を大幅に削減できます 。
参考)https://www.mlit.go.jp/common/001240408.pdf
SEEDフォームなどの高耐久性埋設型枠では、低水セメント比の高耐久性モルタルを繊維補強した製品を使用します 。養生期間と型枠脱型作業を省略でき、大幅な省人化が実現できるほか、構造物の耐久性向上効果も期待できます 。
参考)https://www.maeda.co.jp/tech_service/detail/seed_form.html
プレキャスト埋設型枠を用いた立坑2次覆工コンクリートの施工事例では、工期と人員が従来工法の1/8まで削減される驚異的な効果が報告されています 。寒冷地施工においても、型枠自体の保温効果により工期短縮が可能となります 。
参考)https://www.semanticscholar.org/paper/c19335890f2b94f974d2e379dc82727e35b8ee6b
山間部の砂防堰堤工事では、ウォールパネルやプロテロックメーク ピアスワンダーなどの埋設型枠製品が活用され、組立・加工が簡単で意匠性にも優れた施工が実現されています 。これらの技術により、場所打ちコンクリート構造物の構築において省力化と作業環境の向上、周辺環境への影響抑制が同時に達成されます 。
参考)https://www.landes.co.jp/page/maisetu
多能工は複数の技能を身につけた作業者で、建設現場の生産性向上において重要な役割を果たしています 。コンクリート工において多能工を活用することで、従来は複数の職人が担当していた作業を一人で担当でき、人員配置の効率化が実現されます 。
参考)https://www.shigotoarimasu.com/note/?p=344
多能工施工による効果として、鉄筋配筋と型枠設置の両方を担当できる作業者により、工程間の連携がスムーズになり、手戻りや無駄な待ち時間が減少します 。現場全体の流れを理解している多能工は、他の職人とのコミュニケーションも円滑で、突発的なトラブルにも素早く対処できます 。
工期短縮への影響も大きく、複数の工程を並行して進められるため、大幅な工期短縮が可能となります 。ある作業が終わるのを待つ必要がなく、スムーズに次の工程に移行できるため、建設プロジェクトのスピードアップと効率化が実現されます 。
品質向上への効果として、多能工は幅広い知識と経験を持っているため、適切な判断と対応が可能となります 。例えば、鉄筋工事とコンクリート打設の両方を理解している多能工なら、二つの工程の兼ね合いを考えた施工ができ、狭い箇所や複雑な部分の納まりも細やかな配慮で美しく仕上げられます 。
建設業のデジタルトランスフォーメーション(DX)は、コンクリート工の生産性向上において重要な役割を果たしています 。BIM(Building Information Modeling)の導入により、施工に取り掛かる前に設計時の不具合を事前に把握でき、効率的な照査が可能になります 。
参考)https://alc.aiotcloud.co.jp/column/20250327_01/
施工管理アプリの活用により、現場作業の効率化が実現されています 。Spider Plus(スパイダープラス)などのアプリでは、iPadを使って現場の状況確認や施工写真の管理、図面データ化、電子黒板機能などが利用でき、コンクリート工の進捗管理や品質管理業務が大幅に効率化されます 。
参考)https://dx-oyakata.net/construction/constructiondx-app/
現場の見える化技術として、360度カメラを使用したストリートビュー撮影により、進捗管理や安全対策の効率化が図られています 。これにより設計変更の削減や施工計画の最適化、現場の安全管理が実現し、全体の生産性が向上しています 。
ビジネスチャットツールの導入事例では、現場にいながら事業所で行う事務作業ができるようになり、移動時間と作業時間の削減が実現されています 。情報共有や熟練工によるアドバイスの連携がスマートフォンで可能になり、クライアントからの問い合わせにもすぐに応答できるようになっています 。