
おとり広告とは、実際には存在しない物件や、すでに契約済みで取引できない物件を、あたかも取引可能であるかのように広告掲載する行為を指します。この行為は宅建業法第32条で禁止されている「誇大広告」に該当します。
宅建業法第32条では、宅建業者が広告をする際に以下の2点を禁止しています。
おとり広告は、広告で取引可能と表示した物件と実際に取引できる物件が異なるため、「著しく事実に相違する表示」に該当し、誇大広告として禁止されているのです。
特に問題となるケースとして、物件がすでに契約済みであるにもかかわらず、インターネット上の広告をそのまま掲載し続けるという行為があります。これは取引できない物件について広告を行うことになるため、おとり広告として宅建業法違反となります。
おとり広告は、不動産の表示に関する公正競争規約(表示規約)第21条においても明確に禁止されており、以下の3つのタイプに分類されます。
特に多いのが、2番目のタイプである「すでに契約済みの物件をそのまま広告し続ける」ケースです。インターネット広告の場合、更新が容易であるにもかかわらず、管理が行き届かず、成約済み物件の広告が削除されないままになっていることが問題となっています。
おとり広告を行った宅建業者に対しては、宅建業法に基づき厳しい罰則が科されます。これらの罰則は、おとり広告によって実際に消費者が損害を受けたかどうかにかかわらず、おとり広告を行った行為自体が処分の対象となります。
宅建業法に基づく主な処分と罰則は以下の通りです。
また、表示規約違反に対しては、景品表示法に基づく措置も取られる可能性があります。
これらの処分は宅建業者の信用を大きく損なうだけでなく、事業継続にも重大な影響を与えます。特に業務停止処分や免許取消しは、不動産会社の存続に関わる深刻な問題となります。
インターネット広告は現代の不動産業界において最も重要な広告媒体となっていますが、その特性がおとり広告を生み出す要因ともなっています。
インターネット広告の特性と問題点。
首都圏不動産公正取引協議会の調査によると、2015年度に認知したおとり広告などの不当表示は前年度の1.6倍の3,619件に達し、消費者庁からも業界団体に取り締まりの強化が要請されています。この数字は年々増加傾向にあり、インターネット広告の普及とともに問題が深刻化していることを示しています。
宅建業者がおとり広告を防止するためには、以下の具体的な対策を講じることが重要です。
特に重要なのは、「情報登録日」「直前の更新日」「次回の更新予定日」を明確に表示し、リアルタイムに成約状況を確認して適切に対処することです。これにより、意図せずおとり広告を掲載してしまうリスクを大幅に減らすことができます。
おとり広告に関する知識は、宅地建物取引士資格試験(宅建試験)においても重要なテーマとして頻出します。宅建試験では、広告規制に関する問題が毎年のように出題されており、特におとり広告と誇大広告の禁止に関する問題は重要視されています。
宅建試験におけるおとり広告関連の出題傾向。
宅建試験では、単なる知識の暗記だけでなく、実務に即した判断力も問われます。例えば、「すでに契約済みの物件をインターネット上に掲載し続けることがおとり広告に該当するか」といった実務的な問題が出題されることがあります。
宅建業者として業務を行う上でも、宅建試験の勉強をする上でも、おとり広告に関する正確な知識を身につけることは非常に重要です。特に近年は、インターネット広告の普及に伴い、おとり広告に関する監視が強化されているため、より一層の注意が必要となっています。
おとり広告は、単に法律違反というだけでなく、消費者の信頼を損ない、不動産業界全体の信用を低下させる行為です。宅建業者は、法令遵守の精神を持ち、誠実な広告活動を心がけることが求められています。
不動産広告の規制について詳しく解説している不動産公正取引協議会のページ
不動産広告のチェックポイントを確認できる不動産公正取引協議会連合会のサイト
宅建業者として、おとり広告を防止するための対策を講じることは、法令遵守の観点からだけでなく、消費者からの信頼を獲得し、長期的なビジネスの成功につながる重要な取り組みです。日々の業務の中で、広告内容の正確性と最新性を確保するための仕組みづくりを進めていきましょう。
また、万が一おとり広告と疑われるような状況が発生した場合は、速やかに広告を修正・削除し、再発防止策を講じることが重要です。消費者からの信頼を回復するためには、誠実な対応と透明性の高い情報提供が不可欠です。
不動産広告は、消費者が物件を選ぶ際の重要な判断材料となります。正確で誠実な広告活動は、消費者保護の観点からも、健全な不動産市場の発展のためにも欠かせません。宅建業者一人ひとりが広告のルールを正しく理解し、遵守することで、業界全体の信頼性向上に貢献していきましょう。