歴史まちづくり法のメリットと地域活性化効果

歴史まちづくり法のメリットと地域活性化効果

歴史まちづくり法は地域の歴史的風致を維持しながら、観光振興や経済活性化を実現する重要な法律です。認定都市における具体的な支援制度から地域再生の成功事例まで、どのような効果が期待できるのでしょうか?

歴史まちづくり法のメリット

歴史まちづくり法の主要メリット
🏛️
地域活性化と観光振興

歴史的風致の保全と活用により観光客の増加と地域経済の活性化を実現

💰
国による手厚い支援制度

歴史的建造物の修理・買取や各種事業への重点的な財政支援

🤝
部局間連携の強化

文化財部局とまちづくり部局の連携により効率的な事業推進体制を構築

歴史まちづくり法は、地域における歴史的風致の維持及び向上に関する法律として平成20年に制定され、地域固有の歴史文化資源を活用した総合的なまちづくりを支援する重要な制度です。この法律の最大のメリットは、単体の文化財保護から面的な歴史的環境の保全・活用へと視点を拡大し、地域活性化と観光振興を一体的に推進できることにあります。
参考)https://www.mlit.go.jp/toshi/rekimachi/content/001347749.pdf

 

法律の制定背景として、我が国のまちには城や神社、仏閣などの歴史上価値の高い建造物とその周辺の町家や武家屋敷等が残されており、そこで営まれる祭礼行事や伝統的な生業などと一体となって地域固有の歴史的風致を形成していることが挙げられます。しかし、維持管理の費用負担や高齢化・人口減少による担い手不足により、これらの貴重な歴史的環境が失われつつある状況に対応するため、国が積極的に支援する仕組みとして創設されました。
参考)https://www.city.otsu.lg.jp/soshiki/035/1303/g/rekisimatidukuri/25577.html

 

歴史まちづくり法による観光資源整備効果

歴史まちづくり法の計画認定を受けることで、観光資源としての価値向上と地域活性化に大きな効果をもたらします。認定都市の事例では、計画策定以降の10年間で観光客数が約4倍に増加した地域もあり、観光振興による地域経済への波及効果が実証されています。
参考)https://www.mlit.go.jp/toshi/rekimachi/content/001352089.pdf

 

観光振興の具体的な効果として、宿泊・飲食・交通・小売など多くの業種で消費が生まれ、地域内での経済循環が促進されることが挙げられます。また、観光をきっかけに地域の特産品や伝統工芸品の販売が活発化し、地場産業の発展にもつながります。歴史的建造物の保全・活用により、老朽化が進んでいた建造物は改修工事等により保存・活用がなされ、歴史的建造物の滅失を抑えることができた事例も報告されています。
参考)https://www.toppan.com/ja/joho/social/column/column19.html

 

伝統工芸品の販路拡大・販売促進推進事業では、国内外への進出機会・新規需要の開拓が促進され、市内の飲食店や宿泊施設への伝統工芸品の普及により、観光客の目に触れる機会も広がるという相乗効果も生まれています。

歴史まちづくり法に基づく支援制度と補助制度

歴史まちづくり法認定都市には、国から手厚い財政支援が提供されます。文化庁による文化財の高付加価値化改修支援では、高付加価値化された宿泊・飲食・集客施設として活用するため、計画の策定から改修工事までを包括的に支援しています。
参考)https://www.mlit.go.jp/toshi/rekimachi/content/001877975.pdf

 

補助制度の具体的な内容として、文化財の美観向上整備や活用環境強化に対して、補助率1/2(条件に応じ2/3を上限)の支援が行われ、歴史的風致維持向上計画認定都市には補助率5%の加算措置が適用されます。
地方自治体レベルでの支援制度も充実しており、岡崎市の事例では歴史的風致形成建造物に対して、10年以上の一般公開協定を締結する建造物の保全に必要な修理・修景工事に補助率2分の1、限度額300万円の支援を行っています。同一建造物に係る補助金の限度額は10年間で600万円となり、設計・工事監理については補助率2分の1、限度額50万円の支援が受けられます。
参考)https://www.city.okazaki.lg.jp/1100/1184/1169/prekihukeisei01.html

 

さらに、歴史的風致形成活動事業として、50年以上続く歴史及び伝統を反映した活動の継承に必要な費用についても補助金が交付され、地域の無形文化財の継承も支援しています。

歴史まちづくり法認定都市の地域再生成功事例

兵庫県篠山市(現丹波篠山市)では、一般社団法人ノオトによる古民家再生プロジェクトが大きな成果を上げています。人口19人で限界集落と言われていた丸山地区において、空き家となっていた古民家を改修した宿泊施設「集落丸山」を開業し、2.1ヘクタールあった集落の耕作放棄地を解消するとともに、4人が集落にUターンするなど、観光を通じた地方創生に大きく貢献しました。
参考)https://visithachinohe.or.jp/wp-content/uploads/2019/07/0220_%E6%AD%B4%E5%8F%B2%E7%9A%84%E8%B3%87%E6%BA%90%E3%82%92%E6%B4%BB%E7%94%A8%E3%81%97%E3%81%9F%E8%A6%B3%E5%85%89%E3%81%BE%E3%81%A1%E3%81%A5%E3%81%8F%E3%82%8A%E6%88%90%E5%8A%9F%E4%BA%8B%E4%BE%8B%E9%9B%86.pdf

 

同市では、地域経済活性化支援機構(REVIC)等が設立した観光マザーファンドや但馬銀行との協調支援により、株式会社NOTEリノベーション&デザインを設立し、篠山地区の古民家を一体的に改修しています。起業家や事業者を誘致し、多くのホテル、レストラン、カフェ、工房などが立ち並ぶ魅力的な城下町の街並みを実現し、20名以上の移住者と50名近くの雇用創出に成功しています。
斑鳩町では、令和6年度から令和15年度を計画期間とする第2期歴史まちづくり計画において、法隆寺周辺地区約82.0ヘクタールを重点区域として設定し、歴史的風致形成建造物修理・修景事業や道路美装化事業、電柱類景観改善事業など多岐にわたる取組み事業を展開しています。特に夜間景観形成事業やガイドツアー実施事業により、観光コンテンツの充実を図っています。
参考)https://www.town.ikaruga.nara.jp/0000000350.html

 

歴史まちづくり法による地域コミュニティの活性化

歴史まちづくり法の効果は、経済面だけでなく地域コミュニティの結束強化にも及んでいます。計画策定や計画に基づく事業等に行政が率先して取り組むことにより、歴史まちづくりに対する気運が高まり、地域の住民・団体、民間事業者の主体的な取組が活発化します。
参考)https://www.pref.hokkaido.lg.jp/fs/1/0/8/8/2/6/9/4/_/02_(1-2)%E6%AD%B4%E5%8F%B2%E3%81%BE%E3%81%A1%E3%81%A5%E3%81%8F%E3%82%8A%E6%B3%95%E3%81%A8%E3%81%9D%E3%81%AE%E6%B4%BB%E7%94%A8(%E5%9B%BD%E5%9C%9F%E4%BA%A4%E9%80%9A%E7%9C%81).pdf

 

地域の歴史的資源の魅力を再発見することで、これまでに知られていなかった祭礼なども新たに発見され、価値評価が高まる効果があります。歴史に関心がある住民がまちづくり事業に参加してくれるようになり、地域コミュニティが広がる社会的効果も確認されています。
計画策定を通じて文化財部局やまちづくり部局をはじめとした関係部局が連携することにより、歴史まちづくりの取組が円滑に実行可能な庁内体制が整備されることも重要なメリットです。これにより、従来は縦割りになりがちだった行政組織において、横断的な連携による効率的な事業推進が可能となります。

歴史まちづくり法の独自制度活用による持続可能な発展

歴史まちづくり法の真価は、地域の実情に応じた独自制度の構築と運用にあります。市町村が地域特性に応じた独自制度を持つことで、より効果的な歴史まちづくりが展開されることが学術研究でも指摘されています。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/journalcpij/55/3/55_1409/_article/-char/ja/

 

松江市では市独自の歴史的建造物登録制度を創設し、市民発意の歴史まちづくりを推進している事例があります。小田原市では歴史的建造物利活用におけるエリアコーディネートの手法を確立し、大洲市では古民家等の再生・活用スキームの構築とその運用により持続可能な保全システムを構築しています。
参考)https://www.nilim.go.jp/lab/ddg/rekimachidb/files/202103.pdf

 

法定協議会の定期的な開催や進行管理・評価の実施等により、計画認定後の取組状況をフォローアップし、計画の実効性を担保する仕組みが整備されていることも、持続可能な発展を支える重要な要素です。これにより、単発的な事業実施に終わらず、継続的な改善と発展が可能な体制が構築されています。
庁内体制を連携の枠組みと専門人材の両面について強化することで、歴史まちづくりの取組みの充実と普及が図られ、地域づくりに活かすという歴史まちづくりの考え方が広く普及してきています。これらの取組みは、文化財保護法の改正により未指定を含む文化財のまちづくりへの活用が提唱される中で、より多くの市町村での総合的な取組みの基盤となっています。