
履行不能とは、債務者が故意あるいは過失によらず、債務を実行することが不可能となることを指します。宅建業界では、不動産売買契約において建物の引渡しができなくなった場合などが典型例として挙げられます。
債務不履行には3つの種類があります。
履行不能が成立するためには、債務者に責任があること(帰責事由)と、債務不履行が違法であることの2つの要件が必要です。帰責事由とは、債務者またはその関係者が故意(わざと)や過失(うっかり)により債務不履行を引き起こした場合を指します。
例えば、売主がタバコの不始末により建物を焼失させてしまい、買主に引き渡せなくなった場合、これは売主の過失による履行不能となります。このような場合、買主は売主に対して損害賠償請求を行うことができます。
宅建試験では、履行不能と後述する危険負担の違いを正確に理解することが重要です。債務者の責任の有無によって法的な取り扱いが大きく変わるため、具体的な事例を通じて理解を深める必要があります。
履行不能が発生した場合、債権者は催告なく直ちに契約解除をすることができます。これは履行遅滞の場合と異なり、相当の期間を定めて催告する必要がない点で特徴的です。
契約解除の要件は以下の通りです。
不動産売買における具体例として、売主Bが買主Aに甲不動産を売却した後、Bが同じ不動産をCに二重譲渡し、Cが登記を備えた場合を考えてみましょう。この場合、BはAに対して甲不動産を引き渡すことができなくなるため、履行不能となります。AはBに対して直ちに契約解除を行い、さらに損害賠償請求も可能です。
契約解除の効果として、当事者は原状回復義務を負います。売買契約の場合、買主は代金の返還を、売主は受領した代金の返還を求めることができます。また、手付金が授受されている場合は、手付金の返還も必要となります。
宅建業者は、履行不能による契約解除が発生した場合、速やかに関連する手続きを行い、当事者間の権利関係を整理することが重要です。特に媒介契約を締結している場合は、適切な説明と対応が求められます。
履行不能により契約解除をした場合でも、別途損害賠償請求を行うことが可能です。これは契約解除と損害賠償請求が併存する関係にあるためです。
損害賠償の範囲には以下のものが含まれます。
原始的不能の場合の取り扱いも重要なポイントです。従来は原始的不能の場合、契約自体が無効とされていましたが、改正民法により契約は有効に成立し、債務不履行による損害賠償請求が可能となりました。
例えば、売買契約締結の1週間前に対象建物が火災で滅失していたことが後に判明した場合、建物引渡し債務は原始的不能となります。この場合でも契約は有効に成立しており、買主は契約解除と損害賠償請求の両方を行うことができます。
宅建業者は、履行不能による損害賠償請求において、損害の因果関係や予見可能性を適切に判断する必要があります。また、重要事項説明書や37条書面において、履行不能に関するリスクについて適切に説明することも重要です。
履行不能と危険負担の違いを理解することは、宅建試験において極めて重要です。両者の違いは債務者の責任の有無にあります。
履行不能の場合。
危険負担の場合。
東日本大震災のような大規模災害により建物が津波で流され、引渡しができなくなった場合は、債務者の責任ではないため危険負担のルールで処理されます。この場合、売主に損害賠償責任は発生しません。
判断基準のポイント。
宅建業者は、契約締結時に想定されるリスクを適切に評価し、履行不能と危険負担の違いについて当事者に説明する責任があります。特に自然災害のリスクが高い地域での取引では、危険負担に関する条項を契約書に明記することが重要です。
宅建業者として履行不能に適切に対処するためには、予防策と事後対応の両面からアプローチする必要があります。
予防策。
事後対応。
媒介契約における注意点として、宅建業者は売主・買主双方の利益を適切に調整する役割を担います。履行不能が発生した場合、一方当事者に偏った対応を行わず、公正な立場で解決に向けた調整を行うことが重要です。
また、専任媒介契約や専属専任媒介契約を締結している場合、宅建業者には物件の適切な管理と販売活動の義務があります。履行不能を防ぐため、定期的な物件確認や売主との連絡を密に取ることが求められます。
宅建業法違反を避けるため、履行不能に関する説明義務を適切に果たし、必要に応じて書面による確認を行うことも重要な実務ポイントです。