
履行遅滞とは、債務不履行の一種で、「履行期に履行が可能なのに、債務者の責めに帰すべき事由によって(自分の都合で)履行しないこと」を指します。簡単に言えば、期限までに約束したことを自分の都合で行わない状態です。
債務不履行には主に以下の3つの類型があります。
宅建試験では、特に履行遅滞に関する問題が頻出します。例えば、不動産売買契約において、売主が期限までに所有権移転登記を行わない場合や、買主が期限までに代金を支払わない場合などが履行遅滞に該当します。
履行遅滞の成立要件は以下の通りです。
これらの要件を満たすと、債務者は履行遅滞の責任を負うことになります。
履行遅滞の起算点、つまり「いつから履行遅滞になるのか」は、宅建試験で非常に重要なポイントです。債務の種類によって起算点が異なるため、しっかり整理しておく必要があります。
【債務の種類別の履行遅滞の起算点】
宅建試験では、特に不確定期限のある債務についての問題が出題されることが多いです。令和2年度の試験では「債務の履行について不確定期限があるときは、債務者は、その期限が到来したことを知らなくても、期限到来後に履行の請求を受けた時から遅滞の責任を負う」という問題が出題されました。
履行遅滞が発生すると、債権者には以下のような権利が発生します。
損害賠償額の予定条項とは、債務不履行が生じた場合に支払うべき損害賠償額をあらかじめ契約で定めておくものです。この条項があると、以下のメリットがあります。
宅建試験では、損害賠償額の予定に関する以下のポイントが出題されます。
履行遅滞中に履行不能が生じた場合の扱いは、宅建試験でよく出題される重要なポイントです。民法413条の2第1項では、「債務者が履行遅滞の責任を負っている間に、当事者双方の責めに帰することができない事由によって債務が履行不能になった場合、その履行不能は債務者の帰責事由によるものとみなされる」と規定されています。
つまり、履行遅滞中に天災などの不可抗力で履行不能になった場合でも、債務者は責任を免れることができません。これは「債務者危険負担の原則」と呼ばれています。
【具体例】
→ 売主は履行不能の責任を負い、買主は契約解除や損害賠償請求が可能
→ 買主は代金支払義務を免れず、売主に損害賠償責任も負う可能性がある
宅建試験では、平成18年度に「AはBとの間で、土地の売買契約を締結し、Aの所有権移転登記手続とBの代金の支払を同時に履行することとした。決済約定日に、Aは所有権移転登記手続を行う債務の履行の提供をしたが、Bが代金債務につき弁済の提供をしなかったので、Aは履行を拒否した。この場合、Bは、履行遅滞に陥り、遅延損害金支払債務を負う。」という問題が出題されました。
また、平成元年度には「所有権移転登記が完了し、引渡し期日が過ぎたのに、売主が売買契約の目的物である家屋の引渡しをしないでいたところ、その家屋が類焼によって滅失した場合、買主は、契約を解除することができる。」という問題も出題されています。
履行遅滞と混同されやすい概念に「受領遅滞」があります。これらは似て非なるものであり、宅建試験でも区別して出題されることがあります。
履行遅滞:債務者が自己の債務を履行しない状態
受領遅滞:債権者が債務の履行を受けることを拒み、または受けることができない状態
【主な違い】
実務上、受領遅滞は以下のような場面で発生します。
令和2年度の宅建試験では「債務の目的が特定物の引渡しである場合、債権者が目的物の引渡しを受けることを理由なく拒否したため、その後の履行の費用が増加したときは、その増加額について、債権者と債務者はそれぞれ半額ずつ負担しなければならない。」という問題が出題されました(正解は「誤り」で、増加額は債権者が全額負担します)。
履行遅滞は宅建試験で頻出のテーマであり、過去の出題傾向を分析することで効率的な学習が可能です。以下に主な出題パターンと対策をまとめます。
【出題パターン1:履行遅滞の起算点】
【出題パターン2:損害賠償額の予定】
【出題パターン3:履行遅滞中の履行不能】
【出題パターン4:受領遅滞との区別】
【効果的な学習法】
宅建試験では、履行遅滞に関する問題は単独で出題されるだけでなく、他の民法の論点と組み合わせて出題されることも多いです。特に、同時履行の抗弁権、危険負担、損害賠償額の予定との関連性を理解しておくことが重要です。
また、令和6年度の試験では「請負人の報酬債権に対して、注文者がこれと同時履行の関係にある目的物の瑕疵修補に代わる損害賠償債権を自働債権とする相殺の意思表示をした場合」の履行遅滞の起算点に関する問題が出題されました。このように、最新の出題傾向も常にチェックしておくことが大切です。
民法(債権関係)改正に関する資料 - 法務省
履行遅滞は、宅建業務においても実務上重要な意味を持ちます。売買契約や賃貸借契約において、期限までに義務を履行しない場合の責任や対応を適切に理解しておくことで、トラブルを未然に防ぐことができます。また、契約書作成時に履行遅滞に関する条項(遅延損害金の利率、履行の催告方法など)を適切に設定することも重要です。
宅建試験合格のためには、履行遅滞に関する知識を体系的に整理し、過去問演習を通じて理解を深めることが効果的です。特に、起算点や効果については、具体例を交えてイメージしながら学習することで、記憶に定着しやすくなります。