催告の抗弁権と保証債務の補充性で宅建試験対策

催告の抗弁権と保証債務の補充性で宅建試験対策

宅建試験で頻出の「催告の抗弁権」について詳しく解説します。保証債務の補充性から生じるこの権利の意味や要件、連帯保証との違いなど、試験対策に役立つポイントを網羅的に解説。あなたは催告の抗弁権の仕組みを正確に理解できていますか?

催告の抗弁権と保証債務の基礎知識

催告の抗弁権の基本
📝
保証債務の補充性

保証債務は主たる債務に対して補充的な性質を持ち、主たる債務者が返済できない場合に初めて履行責任が生じます。

⚖️
催告の抗弁権の意義

債権者からの請求に対して、保証人が「まず主たる債務者に請求すべき」と主張できる権利です。

連帯保証人の場合

連帯保証人には催告の抗弁権が認められておらず、債権者はいきなり請求することが可能です。

催告の抗弁権の意味と保証債務の性質

催告の抗弁権とは、債権者が保証人に債務の履行を請求したときに、保証人が「まず主たる債務者に催告をすべき」と主張できる権利です。これは保証債務の「補充性」という性質から生じるものです。

 

保証債務の補充性とは、保証人は主たる債務者が弁済しない場合にのみ弁済する責任を負うという性質を指します。つまり、保証人は「2番手」の弁済者であり、債権者はまず「1番手」である主たる債務者に請求すべきという考え方が根底にあります。

 

民法では、保証人が催告の抗弁権を行使すると、債権者は主たる債務者への催告を行わなければなりません。催告とは、債務の履行を促す請求行為のことです。債権者がこの催告を行わなかったために弁済を受けられなかった場合、催告をすれば弁済を得られた額を限度として、保証人は保証債務を免れることができます。

 

保証債務には以下の性質があります。

  • 付従性:主たる債務がなければ保証債務も成立せず、主たる債務が消滅すれば保証債務も消滅します
  • 随伴性:主たる債務が移転すると、それに伴って保証債務も移転します
  • 補充性:主たる債務者が弁済しない場合にのみ保証人が弁済する責任を負います

催告の抗弁権が適用される条件と例外

催告の抗弁権は一般の保証人に認められる権利ですが、すべての場合に適用されるわけではありません。以下の条件と例外を理解しておくことが重要です。

 

【適用条件】

  • 一般の保証契約であること(連帯保証ではないこと)
  • 債権者が保証人に対して債務の履行を請求していること
  • 主たる債務者に対する催告が可能な状態であること

【適用されない例外】

  1. 主たる債務者が破産手続開始の決定を受けた場合
  2. 主たる債務者の行方が知れない場合

例えば、Aさんが消費者金融から100万円を借り入れ、Bさんが保証人となった場合を考えてみましょう。Aさんが返済期限を過ぎても返済しなかったとき、消費者金融がいきなりBさんに請求してきた場合、Bさんは「まずAさんに請求してください」と催告の抗弁権を行使できます。

 

しかし、Aさんが破産手続開始の決定を受けていたり、行方不明になっていたりする場合は、Bさんは催告の抗弁権を行使できません。これは、そのような状況では主たる債務者に催告しても実効性がないためです。

 

催告の抗弁権と検索の抗弁権の違いと関連性

保証人には催告の抗弁権だけでなく、「検索の抗弁権」も認められています。この2つの抗弁権は密接に関連していますが、行使のタイミングや要件が異なります。

 

【催告の抗弁権】

  • 行使のタイミング:債権者が最初に保証人に請求してきたとき
  • 主張内容:「まず主たる債務者に請求してください」
  • 要件:特に要件はなく、主たる債務者が破産手続開始の決定を受けたり行方不明でない限り行使可能

【検索の抗弁権】

  • 行使のタイミング:債権者が主たる債務者に催告した後、再び保証人に請求してきたとき
  • 主張内容:「主たる債務者に弁済能力があり、執行も容易なので、まず主たる債務者の財産から回収してください」
  • 要件:保証人が以下の2点を証明する必要がある
    1. 主たる債務者に弁済する資力があること
    2. 執行が容易であること(現金など換価しやすい財産があること)

この2つの抗弁権は、保証人が「2番手」であるという補充性に基づいており、債権者に対して「まずは1番手である主たる債務者から回収してください」と主張するための権利です。催告の抗弁権が最初の防御線であり、検索の抗弁権はその次の防御線と考えることができます。

 

重要なのは、両方の抗弁権とも連帯保証人には認められないという点です。連帯保証人は主たる債務者と同等の立場(1番手)にあるため、債権者はいきなり連帯保証人に請求することができます。

 

催告の抗弁権と同時履行の抗弁権の比較

宅建試験では、様々な抗弁権が出題されますが、催告の抗弁権と同時履行の抗弁権は性質が大きく異なります。両者を比較することで、それぞれの特徴をより明確に理解できます。

 

【催告の抗弁権】

  • 根拠:保証債務の補充性
  • 主張できる人:一般の保証人(連帯保証人は不可)
  • 目的:主たる債務者への請求を優先させる
  • 効果:債権者は主たる債務者に催告しなければならない

【同時履行の抗弁権】

  • 根拠:契約における当事者間の公平性
  • 主張できる人:双務契約の当事者
  • 目的:相手方の債務履行と自己の債務履行の同時性を確保する
  • 効果:相手方が債務を履行するまで自己の債務履行を拒むことができる

例えば、不動産売買契約では、売主の引渡債務と買主の代金支払債務は同時履行の関係にあります。買主が「代金を先に支払え」と請求しても、売主は「物件の引渡しと同時に支払ってほしい」と主張できます。

 

一方、催告の抗弁権は、保証人が債権者に対して「まず主たる債務者に請求してください」と主張する権利です。同時履行の抗弁権が対等な当事者間の公平性を確保するものであるのに対し、催告の抗弁権は保証人の地位(2番手)を守るためのものです。

 

なお、敷金返還請求権と建物明渡債務の関係については、判例により同時履行の関係にはないとされています。これは、「数十万円の敷金」と「数千万円の家屋」を同時履行の関係と考えるのは公平とは言えないためです。

 

催告の抗弁権に関する宅建試験の出題ポイント

宅建試験では、催告の抗弁権に関する問題が頻出します。以下に主な出題ポイントをまとめました。

 

  1. 催告の抗弁権の有無
    • 一般の保証人には催告の抗弁権がある
    • 連帯保証人には催告の抗弁権がない
    • 例題:「連帯保証人は、債権者からの請求に対して催告の抗弁権を主張できる」(誤り)
  2. 催告の抗弁権が行使できない場合
    • 主たる債務者が破産手続開始の決定を受けた場合
    • 主たる債務者の行方が知れない場合
    • 例題:「保証人は、主たる債務者が破産手続開始の決定を受けた場合でも、催告の抗弁権を行使できる」(誤り)
  3. 催告の抗弁権と検索の抗弁権の区別
    • 催告の抗弁権:まず主たる債務者に催告すべきと主張する権利
    • 検索の抗弁権:主たる債務者に資力があり執行も容易な場合、まず主たる債務者の財産から執行すべきと主張する権利
    • 例題:「検索の抗弁権を行使するには、主たる債務者に弁済する資力があることを証明すれば十分である」(誤り。執行が容易であることも証明する必要がある)
  4. 保証債務の性質との関連
    • 付従性:主たる債務がなければ保証債務も成立せず、主たる債務が消滅すれば保証債務も消滅する
    • 随伴性:主たる債務が移転すると保証債務も移転する
    • 補充性:主たる債務者が弁済しない場合にのみ保証人が弁済する
    • 例題:「保証債務の補充性から、保証人には催告の抗弁権と検索の抗弁権が認められる」(正しい)
  5. 2020年民法改正との関連
    • 事業のための債務保証における公正証書の要件
    • 個人根保証契約における極度額の定めの必要性
    • 例題:「事業のために負担した貸金等債務を主たる債務とする保証契約は、保証人になろうとする個人が、契約締結の日前1か月以内に作成された公正証書で保証債務を履行する意思を表示していなければ、その効力を生じない」(正しい)

これらのポイントを押さえておくことで、宅建試験における催告の抗弁権に関する問題に対応できるようになります。特に、連帯保証人との違いや、催告の抗弁権が行使できない例外的な場合についての理解が重要です。

 

催告の抗弁権と実務における保証契約の実態

宅建試験では催告の抗弁権について理解することが重要ですが、実務においてはどのように扱われているのでしょうか。実は、実務では一般保証よりも連帯保証が圧倒的に多く利用されています。

 

実務において連帯保証が好まれる理由は、債権者にとって債権回収が容易だからです。連帯保証では、債権者は主たる債務者に請求することなく、直接保証人に請求することができます。つまり、催告の抗弁権や検索の抗弁権といった保証人の防御手段が排除されているため、債権者にとって有利な契約形態となっています。

 

不動産取引の現場では、以下のような場面で連帯保証が利用されています。

  1. 賃貸借契約
    • 賃借人が賃料を滞納した場合、連帯保証人に直接請求できる
    • 家賃保証会社が連帯保証人となるケースが増加
  2. 住宅ローン
    • 配偶者や親が連帯保証人となるケースが多い
    • 返済が滞った場合、金融機関は連帯保証人に直接請求できる
  3. 事業資金の借入
    • 法人の代表者が連帯保証人となるケースが一般的
    • 2020年の民法改正により、個人が事業資金の保証人となる場合は公正証書が必要に

2020年の民法改正では、個人保証人の保護が強化されました。特に事業のための債務保証については、保証契約締結の日前1か月以内に作成された公正証書で保証意思を表示していなければ効力を生じないとされています。ただし、主たる債務者と共同して事業を行う者などは例外とされています。

 

また、個人根保証契約(一定の範囲に属する不特定の債務を保証する契約)では、保証人が負担する極度額(上限額)を定めなければ効力を生じないとされています。

 

このように、実務では連帯保証が主流ですが、法改正により個人保証人の保護が強化されている点は、宅建業務に携わる者として理解しておくべき重要なポイントです。

 

以上、催告の抗弁権について詳しく解説してきました。宅建試験では、保証債務の性質や連帯保証との違いを中心に出題されることが多いため、これらの点を重点的に理解しておくことが合格への近道となります。

 

民法(債権関係)の改正について詳しくは電子政府の総合窓口e-Govの法令検索で確認できます