
成年被後見人とは、精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある者で、家庭裁判所の後見開始の審判を受けた者をいいます。簡単に言えば、重い認知症の方などが該当します。
事理を弁識する能力とは、物事の判断能力のことを指します。例えば、不動産を購入する場合、その結果としてお金を支払わなければならないという因果関係が理解できるかどうかという判断能力です。
成年被後見人になるためには、以下の2つの要件を満たす必要があります。
後見開始の審判の請求ができるのは、本人、配偶者、4親等内の親族、未成年後見人、未成年後見監督人、保佐人、保佐監督人、補助人、補助監督人、または検察官です。宅建試験では、この請求権者についても出題されることがあります。
成年被後見人の法律行為は、原則として取り消すことができます。これは、成年被後見人が事理を弁識する能力を欠く常況にあるため、自らの意思に基づいて正常な判断ができないと考えられるからです。
ただし、例外として「日用品の購入その他日常生活に関する行為」については取り消すことができません。例えば、食料品やシャンプーなどの日用品を購入する行為は、取消しの対象外となります。
重要なポイントとして、以下の場合でも取消しが可能です。
宅建試験では、「成年被後見人が第三者との間で建物の贈与を受ける契約をした場合、成年後見人は当該法律行為を取り消すことができるか」といった問題が出題されることがあります。この場合、建物の贈与を受ける契約は日常生活に関する行為ではないため、成年後見人は取り消すことができます。
成年後見人は、成年被後見人の保護者として、以下の権限を持っています。
注意すべき点として、成年後見人には同意権がありません。これは、成年被後見人が同意された通りに行動するかどうかが不確実であるためです。
特に重要なのが、居住用不動産の処分に関する規定です。成年後見人が成年被後見人に代わって、成年被後見人が居住している建物やその敷地について、売却、賃貸、賃貸借の解除、抵当権の設定などの処分をする場合、家庭裁判所の許可が必要です。
この規定は成年被後見人の居住の安定を図るためのものであり、宅建試験でも頻出の論点となっています。例えば、「成年後見人が、成年被後見人に代わって、成年被後見人が居住している建物を売却する場合、家庭裁判所の許可を要しない」という問題は誤りとなります。
宅建試験では、成年被後見人に関する問題が定期的に出題されています。過去の出題パターンを分析すると、以下のようなポイントが頻出しています。
特に平成26年の問題では、以下の選択肢が出題されました。
また、平成22年の問題では。
このように、成年被後見人に関する問題は、基本的な知識を問う形で出題されることが多いです。
成年被後見人制度は、近年いくつかの重要な法改正が行われており、宅建試験でもこれらの改正点が出題されることがあります。
2019年の民法改正では、成年被後見人の死亡後の成年後見人の権限について新たな規定が設けられました。成年被後見人が死亡した場合、成年後見人の任務は終了しますが、必要な場合には、相続人の意思に反することが明らかでない限り、以下の行為を行うことができるようになりました。
また、成年後見人による郵便物等の管理についても改正がありました。家庭裁判所は、成年後見人の請求により、成年被後見人宛ての郵便物等を成年後見人に配達するよう嘱託することができるようになりました(期間は6か月を超えることができません)。
これらの改正は、成年被後見人の保護をより充実させるためのものですが、宅建業法においても成年被後見人に関する規定があります。例えば、成年被後見人は宅地建物取引士になることができません。また、宅建業者の欠格事由としても成年被後見人であることが挙げられています。
宅建試験では、民法上の成年被後見人制度だけでなく、宅建業法における成年被後見人の取り扱いについても出題されることがあるため、両方の観点から理解しておくことが重要です。
成年被後見人は制限行為能力者の一種ですが、他の制限行為能力者(被保佐人、被補助人、未成年者)とは異なる特徴があります。宅建試験では、これらの違いを問う問題も出題されることがあります。
以下の表は、各制限行為能力者の特徴を比較したものです。
区分 | 判断能力 | 保護者 | 法律行為 | 同意権・取消権 |
---|---|---|---|---|
成年被後見人 | 判断能力を欠く常況 | 成年後見人 | 原則として取消可能 | 成年後見人に同意権なし、取消権あり |
被保佐人 | 判断能力が著しく不十分 | 保佐人 | 重要な財産行為に同意が必要 | 保佐人に同意権あり、取消権あり |
被補助人 | 判断能力が不十分 | 補助人 | 特定の行為に同意が必要 | 補助人に同意権あり、取消権あり(特定の行為のみ) |
未成年者 | 年齢による制限 | 親権者・未成年後見人 | 原則として同意が必要 | 親権者等に同意権あり、取消権あり |
成年被後見人と他の制限行為能力者の最も大きな違いは、保護者の権限です。成年後見人には同意権がなく、取消権と代理権があります。一方、保佐人や補助人には同意権があります。
また、成年後見人は必ず家庭裁判所が選任しますが、未成年後見人は必ずしも家庭裁判所が選任するとは限りません。未成年者の最後の親権者が遺言で未成年後見人を指定することも可能です。
宅建試験では、「成年後見人は家庭裁判所が選任する者であるが、未成年後見人は必ずしも家庭裁判所が選任する者とは限らない」という問題が出題されることがあります(平成26年問題)。
さらに、成年被後見人に関する審判請求の同意についても違いがあります。後見開始の審判は本人の同意がなくても請求できますが、補助開始の審判は本人以外の請求の場合、本人の同意が必要です。
これらの違いを理解することで、宅建試験における制限行為能力者に関する問題に正確に対応することができます。
成年被後見人制度は、判断能力が不十分な方を保護するための重要な制度です。宅建業務においても、取引の相手方が成年被後見人である場合には特別な配慮が必要となります。宅建試験では基本的な知識を問われることが多いので、しっかりと理解しておきましょう。