相殺を主張で宅建合格!債権譲渡・相殺適状・禁止要件解説

相殺を主張で宅建合格!債権譲渡・相殺適状・禁止要件解説

宅建試験で頻出の相殺を主張できる条件を徹底解説。債権譲渡通知のタイミング、相殺適状の要件、不法行為や差押えでの禁止事例を具体例で理解できます。あなたは正しく相殺のルールを理解していますか?

相殺を主張する宅建重要ポイント

相殺を主張の基本知識
⚖️
債権譲渡と相殺の対抗関係

通知前の反対債権取得が相殺主張の鍵となる重要な判断基準

📋
相殺適状の4つの要件

有効な対立債権・同種目的・弁済期到来・相殺可能性の確認

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相殺禁止の例外ケース

不法行為債権と差押え後取得債権での相殺制限の理解

相殺を主張できる債権譲渡通知のタイミング

宅建試験で最も重要な相殺のポイントは、債権譲渡における通知のタイミングです。債権譲渡があった場合、債務者が相殺を主張できるかどうかは、反対債権を取得した時期によって決まります。

 

  • 通知前に反対債権を有していた場合:債務者は譲受人に対して相殺を主張できる
  • 通知後に反対債権を取得した場合:債務者は譲受人に対して相殺を主張できない

具体例で考えてみましょう。AがBに1000万円を貸し、後にBがAに800万円を貸したとします。その後、AがBに対する債権をCに譲渡し、Bに通知した場合を想定します。

 

この場合、Bは通知前からAに対する反対債権(800万円)を有していたため、CからBに対する債権(1000万円)の請求に対して相殺を主張できます。結果として、Bは残り200万円のみをCに支払えば済むことになります。

 

判例では、弁済期到来前に受働債権の譲渡があった場合でも、債務者が譲渡通知の当時すでに弁済期の到来している反対債権を有するときは、譲受債権者に対し相殺をもって対抗できるとされています。

 

相殺適状の要件と弁済期の関係性

相殺を主張するためには、まず相殺適状になっている必要があります。相殺適状の4つの要件は以下の通りです。

  1. 有効な対立債権:互いに債権債務関係が存在すること
  2. 同種の目的:金銭債権同士など、同じ種類の債権であること
  3. 弁済期の到来:自働債権(自分が相手に請求できる債権)の弁済期が到来していること
  4. 相殺可能な性質:法律上相殺が禁止されていないこと

特に重要なのが弁済期との関係です。自働債権については弁済期が到来している必要がありますが、受働債権(自分が相手に支払う債権)については弁済期前でも構いません。

 

期限の定めのない債務の場合は、契約成立と同時に弁済期が到来するため、即時相殺適状となります。これは請求をしない限り履行遅滞とならないものの、法的には弁済期が到来しているとみなされるためです。

 

最高裁判例(平成25年2月28日)では、既に弁済期にある自働債権と弁済期の定めのある受働債権とが相殺適状にあるためには、受働債権につき期限の利益を放棄することができるだけでなく、期限の利益の放棄又は喪失等により、その弁済期が現実に到来していることが必要とされています。

 

相殺を主張できない不法行為債権の例外

民法509条により、不法行為による債務については、債務者は相殺をもって債権者に対抗することができません。これは犯罪の助長を防ぐための重要な規定です。

 

平成29年の債権法改正により、不法行為債権を受働債権とする相殺禁止の内容がより細かく規定されました。

  • 悪意による不法行為(生命身体侵害以外):悪意による物損事故等での相殺を禁止
  • 生命身体の侵害による損害賠償:悪意によらない場合も含めて相殺を禁止

具体例として、AがBに50万円を貸していたが、Bが返済しないため、Aが怒ってBに暴力を振るった場合を考えてみましょう。この場合、Aは「貸金と傷害の慰謝料を相殺する」と主張することはできません。

 

ただし、不法行為によって損害を受けた側(この例ではB)からは相殺を主張することが可能です。つまり、BがAに対して「慰謝料と借金を相殺する」と言うことは許されています。

 

この規定により、加害者が相殺を盾に損害賠償の支払いを免れることを防ぎ、被害者の保護が図られています。

 

相殺を主張する差押え前後の判断基準

債権の差押えと相殺の関係についても、宅建試験で重要なポイントとなります。平成29年の債権法改正で民法511条1項に明文化された内容を理解しましょう。

 

差押え前に取得した債権による相殺
差押え前に反対債権を取得していた場合、第三債務者は差押債権者に対して相殺を主張できます。

 

差押え後に取得した債権による相殺
差押え後に反対債権を取得した場合、第三債務者は差押債権者に対して相殺を主張できません。

 

具体的なケースで説明します。A(第三債務者)がB(債務者)から100万円を借りていたところ、C(差押債権者)がBに対する80万円の貸金債権について、BのAに対する貸金債権を差し押さえたとします。

 

もしAが差押え前にBに対して50万円の貸金債権を有していた場合、Aは相殺を主張できます。しかし、差押え後にAがBから新たに30万円を借りた場合、この30万円については相殺を主張できません。

 

この制度により、差押債権者の期待を保護しつつ、第三債務者の既得権益も適切に保護されています。差押えのタイミングが相殺の可否を決める重要な基準となることを覚えておきましょう。

 

相殺を主張における消滅時効の特殊ルール

消滅時効と相殺の関係は、宅建試験でも出題される重要な論点です。一般的に債権が時効により消滅した場合、その債権は行使できなくなりますが、相殺については特殊なルールが適用されます。

 

時効完成前の相殺適状による保護
時効によって消滅した債権でも、その消滅時効期間が経過する以前に受働債権と相殺適状にあった場合、債権者は相殺を主張することができます。

 

具体例で理解してみましょう。AがBに1000万円を貸し、逆にAはBに自己所有の土地を1000万円で売却したとします。この場合、以下の債権が発生します。

  • A→B:土地代金債権1000万円
  • B→A:貸金返還債権1000万円

仮にAの代金債権だけが時効により消滅したとしても、時効完成前に相殺適状であったため、Aは相殺を主張することが可能です。

 

最高裁判例では、時効によって消滅した債権を自働債権とする相殺をするためには、消滅時効が援用された自働債権が、その消滅時効期間が経過する以前に受働債権と相殺適状にあったことが必要とされています。

 

この制度は、当事者の「清算された」という合理的期待を保護するためのものです。債権者が相殺できる状態にあったにも関わらず、それを放置して時効により債権が消滅した場合でも、相殺適状にあった時点での期待を保護することで、取引の安全と公平性を図っています。

 

ただし、相殺の意思表示は時効完成後であっても有効ですが、時効援用前に相殺適状になっていることが前提条件となります。この微妙な時間的要件を正確に理解することが、宅建試験合格のポイントとなります。