
宅建業者にとって登記簿謄本(登記事項証明書)の法的証明力を理解することは、適切な業務遂行の基盤となります。
登記簿謄本の法的証明力は、その取得方法によって大きく異なります。法務局で直接取得した登記事項証明書には、認証文および登記官の印が付されており、対外的な証明書としての効力を持ちます。
正式な登記事項証明書の特徴。
一方、「登記情報提供サービス」などインターネットで取得した登記資料(いわゆるネット謄本)には、認証文や登記官の印がないため、対外的に通用する証明書としての効力はありません。
この違いを理解せずに業務を行うと、重要な場面で適切な書類を提出できない事態が発生する可能性があります。
宅建業法では、重要事項説明において「当該宅地または建物の上に存する登記された権利の種類及び内容並びに登記名義人または登記簿の表題部に記録された所有者の氏名」を説明することが義務付けられています。
登記簿謄本は表題部と権利部で構成されており、権利部はさらに甲区(所有権に関する事項)と乙区(所有権以外の権利)に分かれています。
宅建業務での活用場面。
重要事項説明書には、基本的に登記簿謄本の権利部をそのまま写して記入します。甲区の順位番号最終順位の名義人が現在の所有者として記載され、乙区には抵当権や地上権などの所有権以外の権利が記載されます。
特に抵当権が設定されている場合は、登記年月日・受付番号・債権額・債務者名・抵当権者名・共同担保目録を詳細に記入し、決済時までに抵当権抹消の調整を行う必要があります。
実務において最も混同しやすいのが、ネット謄本と正式な登記事項証明書の使い分けです。
ネット謄本の特徴。
正式な登記事項証明書の特徴。
宅建業者は、物件調査の初期段階ではネット謙本を活用し、重要事項説明や契約手続きでは正式な登記事項証明書を使用するという使い分けが重要です。
登記情報提供サービスでは「当サービスで提供する登記情報は利用者が請求した時点において登記所が保有する登記情報と同じ情報です。しかし、当サービスは『閲覧』と同等のサービスであり、登記事項証明書とは異なり、証明文や公印等は付加されず、法的な証明力はありません」と明記されています。
重要事項説明書作成における登記簿謄本の記載は、宅建業法で厳格に規定されています。
記載の基本原則。
重要事項説明のための登記簿謄本調査は、重要事項説明当日に取得することが原則です。土日などで実務上困難な場合でも、「重要事項説明当日のできるだけ直前」での取得が求められます。
調査日から説明当日までの期間については、宅建業者が「自らのリスクでもってその記載事項に変化がないものと判断した」とみなされることを理解しておく必要があります。
特殊なケース。
これらの場合は、それぞれ適切な記載方法と買主への説明が必要になります。
宅建業者が登記簿謄本を確認する際の実務的な注意点は、単純な記載事項の転記にとどまりません。
権利関係の分析ポイント。
登記簿謄本の甲区を見ることで、「買って1年しか住んでいないのに売却する理由」や「30年前の建物なのに住宅ローンの残債状況」などを推測できます。
特に「差押」や「競売」の記載がある場合は、過去の金銭的困窮状況を示している可能性があり、市場価格より安く購入できる機会もありますが、残債精算の確認が不可欠です。
実務での対応策。
宅建業者は、登記簿謄本に記載された順位番号最終順位の名義人が現在の所有者であることを確認できますが、これが真の所有者とは限らないことを理解する必要があります。
相続が発生し相続登記が未了の場合は、登記名義人を記入し、現在の所有者であることを証明する書面(遺産分割協議書等)を添付して、買主に状況を説明することが求められます。
また、名義人の登記簿上の住所が現在の住所と異なる場合は、所有権移転時期(残代金決済時・引渡し日)までに名義人の表示変更登記が必要になるため、事前の調整が重要です。
このような実務レベルでの注意点を理解し、適切に対応することで、取引の安全性を確保し、顧客からの信頼を維持することができます。