
不動産登記における登記名義人とは、法務局が管理する不動産登記簿の権利部(甲区)に、所有者または共有者として記載されている人のことです 。一筆の土地または一個の建物に関する登記記録において、不動産に関して所有権・賃借権・抵当権などの権利を有する者として記載されている者を指します 。
参考)https://gouhitu.com/syoyuukennmeigininn
登記名義人は、不動産登記簿の権利部において現在の所有者として最新の順位番号で記載されている人が該当します。過去の所有権移転履歴も残りますが、最終の順位番号に記載された人が現在の登記名義人となります 。この登記名義人は、法律上その不動産の権利者として扱われ、第三者に対してその権利を主張(対抗)することが可能です 。
参考)https://www.chosashi-yamagata.or.jp/knowledge-4
なお、権利部の記載がない場合は、表題部に所有者として記載されている表題部所有者が存在しますが、これは登記名義人とは区別されます 。表題部所有者は建物を最初に建てた人などが記載されますが、第三者への対抗力は制限されます 。
参考)https://gouhitu.com/hyoudaibusyoyuusya
登記名義人と真の所有者が異なる最も分かりやすい例は、登記名義人が既に死亡している場合です。死亡した人に所有権はありませんが、相続登記が完了するまで登記名義人は何年でも死亡者のままとなります 。この場合、登記名義人は亡くなった被相続人、真の所有者は法定相続人となります 。
参考)https://question.realestate.yahoo.co.jp/knowledge/chiebukuro/detail/1056008505/
他人名義による不動産取得も、両者が異なる典型的なケースです。例えば、父親が子供名義で土地を購入したが、実際の資金は父親が出捐し、父親が使用収益している場合、登記名義人は子供、真の所有者は父親と認定される可能性があります 。
参考)https://us1130.co.jp/2021/08/27/%E7%99%BB%E8%A8%98%E5%90%8D%E7%BE%A9%E4%BA%BA%E3%81%8C%E3%81%BB%E3%82%93%E3%81%A8%E3%81%AB%E6%89%80%E6%9C%89%E8%80%85%EF%BC%9F/
実際の判例では「登記名義人と取得原資出捐者や使用収益者との関係等を総合考慮して、登記名義人以外の者に帰属するというべき特段の事情があると認められる場合には、その者を当該不動産の所有者と認定するのが相当である」とされています 。これは、登記だけでなく、購入資金の出所や実際の使用状況なども所有権判定の重要な要素となることを示しています。
参考)https://www.niep.co.jp/report/journals/index029_m2.pdf
日本の登記制度では「登記に公信力がない」という重要な原則があります 。これは、登記簿に記載されている情報を信じて取引した人を必ずしも法的に保護しないということを意味します 。例えば、本来の所有者でない登記名義人から不動産を購入した場合、購入者は原則として不動産の所有権を取得することができません 。
参考)https://yagi-jimusho.com/blog/taninmeigitouki.html
ただし、本来の所有者が虚偽の登記作出に積極的に関与していた場合は例外があります。このような場合、何ら落ち度がなく購入した者は、その不動産を取得することができると判例で認められています 。これは、自ら虚偽の登記を作出した者まで原則通り保護することは適切でないという価値判断に基づくものです。
相続に関しても、遺産分割が済んでいても相続登記を行わない限り、登記名義人は被相続人のままです 。この場合、真の所有者である相続人が第三者に所有権を対抗するためには、適切な相続登記が必要となります 。
参考)https://www.retpc.jp/archives/28518/
不動産取引において、登記名義人と真の所有者の相違は重大なリスクを生じさせます。買主は売主が真の所有者であることを確認する義務があり、登記簿の記載のみを信用することは危険です 。特に相続が関わる不動産では、登記名義人が故人のままとなっているケースが多く、相続人全員の同意を得た適切な手続きが必要です。
参考)https://hamusuke1022.com/civil-law-177-public-disclosure-power-of-registration-vs-public-relations-of-registration/
税務上も、登記名義人と実質所有者の相違は重要な問題となります。相続税や贈与税の課税では、登記名義人ではなく実質的な所有者に対して課税がなされるため、名義のみを他人にすることで税金逃れを図ることはできません 。実際の購入資金の出所や使用収益の実態が課税上の判定基準となります。
登記の申請についても、権利部(甲区・乙区)の登記は任意であるため、当事者が登記を怠れば名義と実態の乖離が生じやすくなります 。一方、表題部の登記は法的義務であり、新築建物の所有者は1ヶ月以内に登記を行わなければ10万円以下の過料に処せられます 。
参考)https://www.souzoku-iris.com/fudousan/column-31/
不動産の適切な権利関係を維持するためには、登記名義人の定期的な確認と更新が重要です。特に相続が発生した場合は、速やかに相続登記を行い、真の所有者を登記名義人として明確にすることが必要です 。また、登記名義人の住所や氏名に変更があった場合も、適時に変更登記を行う必要があります 。
参考)https://sekijimusyo.jp/meihen/
他人名義で不動産を取得する場合は、将来的なトラブルを避けるため、名義人と真の所有者が異なることを示す書面を作成し、資金の出所や使用収益の実態を明確に記録しておくことが重要です 。ただし、安易に名義人を第三者にすることは、名義人が真の所有者と認定されるリスクもあるため注意が必要です 。
参考)https://www.kuretakelaw.com/news/1148
不動産取引においては、登記簿謄本の確認だけでなく、売主が真の所有者であることを多角的に検証することが求められます。住民票や戸籍謄本による本人確認、購入経緯の確認、固定資産税の納税状況の確認など、総合的な調査を行うことで安全な取引が可能となります 。