
2020年の土地基本法改正は、平成元年の制定以来約30年ぶりの大規模な見直しとなりました 。この改正の最大の背景は、人口減少社会の進展に伴う所有者不明土地問題の深刻化です 。国土交通省の調査によると、所有者不明土地は全国の約24%に及び、その面積は九州に匹敵する規模となっています 。
参考)https://www.mlit.go.jp/report/press/totikensangyo02_hh_000149.html
従来の土地基本法は「適正な利用の確保」を中心とした制度設計でしたが、土地利用ニーズの低下や管理不全土地の増加により、新たな視点での政策転換が必要となりました 。所有者不明土地の増加は、インフラ整備の支障、防災面での問題、地域環境の悪化など、多方面にわたって深刻な影響をもたらしているため、喫緊の課題として法制度の抜本的見直しが実施されました 。
参考)https://www.lij.jp/html/jli/jli_2020/2020winter_p044.pdf
改正土地基本法では、従来の「適正な利用」に加えて「適正な管理」が基本理念として新たに明文化されました 。これは土地政策史上画期的な転換点となっています 。適正管理の理念は、土地による外部不経済の発生抑制・解消を図る観点から規定されており、土地の管理不全による周辺地域への悪影響を防止することを目的としています 。
参考)https://ogaware.jp/2020-tochi-kihon-ho-kaisei/
具体的には、土地は周辺地域への悪影響を防止する等の観点から適正に利用し、又は管理されることが明記されています 。この規定により、土地所有者には単なる所有権の行使にとどまらず、社会的責任を伴う適切な管理が求められることとなりました 。さらに、土地の価値が土地所有者等以外の者の公共の利益の増進を図る活動により維持される場合の適切な負担についても規定され、土地の公共性がより強調される制度設計となっています 。
参考)https://www.sn-hoki.co.jp/articles/article425164/
改正法では、土地所有者等の責務について従来よりも具体的で実効性のある規定が設けられました 。土地所有者は土地についての基本理念にのっとり、土地の利用及び管理並びに取引を行う責務を有することが明文化されています 。特に注目すべきは、土地の所有者に対する新たな努力義務の創設です 。
参考)https://www.city.nikko.lg.jp/soshiki/2/1008/3/2/1761.html
所有者には「所有する土地に関する登記手続その他の権利関係の明確化のための措置」と「所有権の境界の明確化のための措置」を講ずる努力義務が課されています 。これらの規定は、所有者不明土地の発生予防に直接的に寄与する重要な制度改革となっています 。また、これらの責務の明確化により、従来の所有権の絶対性という概念から、社会的責任を伴う権利としての再定義が図られています 。
土地基本法改正の理念を具体化する重要な制度として、不動産登記法の改正による相続登記申請の義務化があります 。2024年4月1日から施行されたこの制度では、相続により不動産を取得した相続人は、その事実を知った日から3年以内に相続登記を申請することが義務付けられています 。
正当な理由なく義務に違反した場合は10万円以下の過料が科されることとなっており 、法的強制力を持った実効性のある制度設計となっています 。さらに、2026年4月までには住所等の変更登記についても、変更から2年以内の申請が義務化される予定です 。これらの制度は、土地基本法が定める「権利関係の明確化」という所有者の責務を具体化するものであり、所有者不明土地の主要な発生原因である相続登記未了問題に対する根本的な解決策となっています 。
参考)https://www.shouhiseikatu.metro.tokyo.lg.jp/kurashi/2207_08/wadai.html
改正土地基本法の理念を受けて創設された地域福利増進事業制度は、所有者不明土地の利活用促進において画期的な制度です 。この制度では、地域住民の福祉や利便性向上のための施設整備を目的として、最長20年間の土地使用権設定が可能となっています 。事業実施主体は民間企業、NPO法人、自治会等の幅広い主体が対象となり、地域の実情に応じた柔軟な活用が期待されています 。
参考)https://www.zentaku.or.jp/cms/wp-content/uploads/2022/11/4-1.pdf
使用権の設定には都道府県知事の裁定が必要となりますが、適正な補償金を供託することで円滑な事業実施が可能な制度設計となっています 。従来の土地収用とは異なり、公共的な目的のために所有者不明土地を効率的に活用できる点が特徴で、地域の活性化と土地の有効活用の両立を図ることができる革新的な制度となっています 。この制度により、長期間利用されていない土地についても、地域コミュニティの発展に寄与する形での有効活用が促進されることが期待されています 。