
追認とは、取り消すことができる行為について、取消権を放棄し、その行為を有効に確定させる意思表示です。宅建業務において、制限行為能力者や詐欺・強迫を受けた者との契約では、追認の理解が不可欠となります。
追認の本質的な効果は以下の通りです。
特に重要なのは、追認は相手方に対する意思表示によって行う必要があることです。書面でも口頭でも構いませんが、相手方に確実に伝達されることが前提となります。
宅建業者が関与する不動産取引では、未成年者の親権者や成年後見人等が追認権者となるケースが多く、これらの保護者に対して適切に意思表示を行う必要があります。
追認が有効に成立するためには、民法124条に定められた要件を満たす必要があります。
追認の要件(民法124条1項)
この要件の典型例は強迫のケースです。強迫を受けて契約した場合、強迫状態が継続している間は追認の効力が生じません5。強迫が終了し、かつ取消権があることを知った後でなければ、真意に基づく追認とは認められないからです。
追認要件の例外(民法124条2項)
これらの場合は、状況消滅を待たずに追認できます。
法定追認(民法125条)
以下の行為があった場合、追認したものとみなされます。
ただし、「異議をとどめた」場合は法定追認とならないため、注意が必要です。
催告権の活用
相手方は、追認権者に対して1ヶ月以上の期間を定めて催告できます。確答がない場合の扱いは催告相手により異なります。
取消権は永続的に行使できるものではなく、民法126条により期間制限があります。
取消権の消滅時効
この2つの期間のいずれかが経過すると、取消権は時効により消滅します。
「追認をすることができる時」の意味
これは単に成人に達した時点ではなく、以下の条件を満たした時点を指します。
例えば、未成年者が18歳に達しても、取消権があることを知らなければ、この時点からは5年の時効は進行しません。
時効の援用
取消権の消滅時効は、当然に効力を失うのではなく、時効の援用により初めて効力を失います。宅建業者は、相手方に時効の援用を促すことで、法的関係の安定化を図ることができます。
時効の中断・停止
取消権の時効についても、一般的な時効の中断・停止事由が適用されます。
実務上、宅建業者は契約から相当期間経過後に取消権の時効完成を主張することで、法的安定性を確保できる場合があります。
無権代理における追認は、代理権のない者(無権代理人)が行った法律行為を、本人が後から有効なものとして承認する制度です。
無権代理の追認効果
無権代理行為の追認には以下の特徴があります。
宅建業務では、例えば夫が妻の代理人として土地を売却したが、実際には代理権がなかった場合、妻(本人)の追認により売買契約が有効となります。
相続と追認
興味深いケースとして、本人が無権代理人を相続した場合があります。この場合、相続により本人と無権代理人の地位が同一人に帰属するため、追認の問題は生じません。
表見代理との関係
追認がなされない場合でも、表見代理の要件を満たせば、相手方は本人に対して契約の履行を請求できます。宅建業者は、代理権の確認を怠らず、万が一の場合に備えて表見代理の成立要件も検討する必要があります。
代理権の消滅と追認
代理権が消滅した後に代理人が行った行為についても、追認により有効とすることができます。不動産取引では、委任状の期限切れや代理人の死亡などのケースで問題となることがあります。
宅建業者が追認に関する実務で注意すべき点は多岐にわたります。適切な対応により、トラブルの未然防止と円滑な取引実現が可能となります。
契約締結時の確認事項
取引相手が制限行為能力者でないことの確認は基本中の基本です。
法定追認を避けるための対策
相手方が取消権を行使する可能性がある場合、以下の行為は法定追認を構成する可能性があるため注意が必要です。
これらの行為を行う前に、取消権の存在について十分に検討し、必要に応じて専門家への相談を行うべきです。
催告権の戦略的活用
催告権は、法的関係の早期安定化に有効なツールです。
リスク管理と保険活用
追認関連のリスクに対する保険商品の活用も検討すべきです。
記録保存と証拠確保
追認に関する記録は長期間保存し、万が一の紛争に備える必要があります。
これらの対策により、宅建業者は追認に関するリスクを最小限に抑制し、顧客との信頼関係を維持しながら適切な不動産取引を実現できます。