
造成工事において最も重要な概念の一つが「工事主」の定義です。盛土規制法第2条7号によると、工事主とは「宅地造成、特定盛土等もしくは土石の堆積に関する工事の請負契約の注文者」または「請負契約によらないで自らその工事をする者」を指します。
具体的な例として、甲土地の所有者Aが工事業者Bと宅地造成工事の請負契約を締結した場合、注文者であるAが工事主となります。一方、工事業者Cが自己所有の乙土地について、請負契約を締結せず自ら宅地造成工事を行う場合は、C自身が工事主となります。
工事主の責任は重大で、宅地造成等工事規制区域内において宅地造成等に関する工事を行う場合、工事着手前に必ず都道府県知事の許可を受けなければなりません。この許可なしに工事を開始した場合、監督処分の対象となり、工事の停止命令や改善命令が下される可能性があります。
さらに、工事主は許可を得た後の内容に変更が生じた場合、原則として再度都道府県知事の許可を受ける必要があります。ただし、工事着手予定日や完了日の変更など軽微な変更については、遅滞なく知事に届け出ることで対応可能です。
造成工事の許可申請には厳格な手続きが定められています。宅地造成工事規制区域内で宅地造成工事を実施する場合、工事主は工事着手前に都道府県知事から許可を得ることが法的義務となっています。
許可申請における重要なポイントの一つが、工事の規模による設計者の資格要件です。以下の場合には、政令で定める資格を有する者による設計が必要となります。
逆に、これらの要件を満たさない小規模な工事については、有資格者による設計は必須ではありません。例えば、切土又は盛土をする土地の面積が600㎡である場合、排水施設の設計に政令で定める資格を有する者は必要ありません。
都道府県知事は許可を出す際、災害防止の観点から一定の条件をつけることが認められています。これにより、地域の特性に応じた安全対策を確保することができます。
許可申請の際には、工事計画書、設計図書、現況図等の詳細な書類提出が求められ、審査には一定期間を要するため、工事スケジュールを考慮した早期の申請が重要です。
宅地造成等工事規制区域内で行われる工事には、厳格な技術基準が適用されます。盛土規制法第13条第1項に基づき、技術的基準に従って擁壁、排水施設等の設置その他宅地造成等に伴う災害を防止するため必要な措置を講じなければなりません。
特に重要なのは擁壁の設置基準です。高さが2mを超える擁壁については、除却工事を行う場合でも工事着手日の14日前までに都道府県知事への届出が義務付けられています。これは、既存の安全措置を取り除くことによる災害リスクを事前に評価するためです。
技術基準には地域特性を考慮した柔軟性も持たせられています。都道府県知事は、その地方の気候、風土又は地勢の特殊性により、法令の基準では崖崩れ・土砂流出防止の目的を達し難い場合、都道府県の規則で技術的基準を強化したり、必要な技術的基準を付加することができます。
擁壁設置における具体的な要件として以下があります。
これらの基準により、長期的な安全性と災害防止効果を確保しています。
造成工事における災害防止措置は、擁壁設置と並んで極めて重要な要素です。特に排水施設の適切な設置と維持管理は、土砂災害や崖崩れの防止に直結します。
排水施設に関する技術基準では、地表水等を効率的に排除するための適切な設計が求められます。排水施設の除却工事を行う場合も、高さ2mを超える擁壁と同様に、工事着手日の14日前までの届出が必要です。これは、既存の排水機能を損なうことによる災害リスクを防ぐためです。
災害防止措置として講じるべき主な項目。
宅地造成等工事規制区域内では、都道府県知事による報告要求権も定められています。知事は土地の所有者、管理者又は占有者に対して、その土地又はその土地において行われている工事の状況に関する報告を求めることができ、この際、その工事が宅地造成等に関する工事であるか否かには関係ありません。
さらに、知事は災害防止に必要な擁壁等が設置されておらず、これを放置するときに災害発生のおそれが大きい場合、土地又は擁壁等の所有者・管理者・占有者に対して改善命令を出すことができます。
造成工事の監督体制には、従来の許可制度を超えた独自の仕組みが組み込まれています。宅地造成工事規制区域内において、宅地以外の土地を宅地に転用した場合、転用した日から14日以内に都道府県知事への届出が義務付けられています。この事後届出制度により、土地利用の変化を継続的に把握し、必要に応じた安全対策を講じることが可能となっています。
特筆すべきは造成宅地防災区域の指定制度です。この制度は従来の工事規制区域とは異なり、過去に造成工事が行われた宅地のうち、特に災害リスクが高い区域を対象としています。指定要件として以下が定められています。
これらの要件により、単に盛土高さが5m未満であっても、他の条件を満たせば防災区域として指定される可能性があります。
将来的な展望として、AI技術やドローンを活用した監視システムの導入が検討されています。これにより、大規模造成地の変状監視や早期警戒システムの構築が可能となり、より効果的な災害防止が期待されています。また、気候変動に伴う豪雨災害の頻発化を受け、従来の技術基準についても見直しが進められており、より厳格な排水能力や擁壁強度の要求が検討されています。
宅建業従事者にとって、これらの制度変更や技術基準の更新は、取引物件の安全性評価や顧客への適切な説明に直接影響するため、継続的な情報収集と理解の深化が重要となっています。