
簿価1円の資産は、減価償却が完全に終了した有形固定資産を表す重要な会計概念です。この1円という金額は実際の市場価値を示すものではなく、備忘価額として機能し、その資産が依然として会社に存在し、使用されていることを帳簿上で明確にする役割を担っています 。
参考)https://journal.bizocean.jp/corp01/a06/6130/
例えば、10年前に購入した社用車が完全に減価償却された場合、その簿価は1円となりますが、この1円は車両がまだ会社に存在し、業務に使用可能であることを示す重要な指標となります 。宅建業界においても、営業車両や事務機器など、長期間使用している資産が簿価1円となるケースは少なくありません 。
参考)https://invest-online.jp/qanda/qanda-tax-455-27527/
簿価1円の資産は、その資産を使用している限り除却することができません。除却が可能となるのは、事業の用に供さなくなったときや、実際に資産を廃棄するときに限られます 。
法人が簿価1円の資産を無償で譲渡する場合、税務上は実際の対価を受け取らなくても、時価で譲渡があったものとみなされる重要な原則があります 。この取扱いは法人税法第22条第2項に基づくもので、無償譲渡であっても適正な時価での取引として処理されます 。
参考)https://www.mikagecpa.com/archives/5595/
特に簿価1円のアパートなど収益性のある不動産の場合、たとえ簿価が1円であっても、家賃収入が発生する物件は一定の市場価値を有するため、1円での譲渡は低額譲渡として認定され、適正な時価に引き直される可能性が高くなります 。宅建業界では、このような収益不動産の取扱いに特に注意が必要です 。
税務当局は、無償譲渡の時価算定において固定資産税評価額を採用することを合理的な方法として認めており、「再建築見積価額を再調達原価として評価する方法によって適正な価額が算出できない場合には、固定資産税評価額をもって建物等の適正な価額とすることも、合理性があると認められる」との判断を示しています 。
簿価1円の資産を無償譲渡する際の会計処理は、二段階の仕訳処理が必要となる複雑な手続きです 。まず第一段階として、資産を時価で譲渡したものとして売却処理を行い、第二段階で時価相当額を寄付金として処理します 。
参考)https://nakano-ao.gr.jp/news/2022/07/post-728.html
具体的な仕訳例として、簿価1円、時価200万円の車両を関連会社に無償譲渡した場合を見てみましょう。税務上の仕訳は以下のようになります :
第一段階。
第二段階。
この処理により、簿価1円と時価の差額である199万9,999円が固定資産売却益として計上されることになります 。なお、寄付金については損金算入限度額があるため、その額を超える部分は損金不算入となり、結果的に法人税負担が生じる可能性があります 。
参考)https://hupro-job.com/articles/3605
無償譲渡における消費税の取扱いは、法人税とは全く異なる特殊な考え方が採用されています 。消費税法では「対価を得た取引部分」のみが課税取引となるため、無償譲渡は原則として不課税取引として扱われます 。
参考)https://www.zeiri4.com/c_1032/q_146119/
この取扱いにより、簿価1円の資産を無償譲渡した場合、譲渡側では消費税の課税売上は発生せず、受け取り側でも消費税の負担は生じません 。ただし、法人が役員に対して資産を贈与する場合や、個人事業主が事業用資産を家事消費する場合など、一定の条件下では消費税のみなし譲渡規定が適用される例外的なケースも存在します 。
参考)https://licensed-tax-accountant.com/archives/102
宅建業界においては、営業用車両や事務用機器の無償譲渡が頻繁に発生するため、この消費税の不課税取扱いを正確に理解しておくことが重要です 。特に関連会社間での資産移転や、退職する役員への記念品贈呈などの場面で、この知識が実務上重要となります 。
参考)https://yamashiro-jisho.jp/useful/useful2/3097/
宅建業界では、営業車両や展示用模型、事務機器など、長期間使用して簿価1円となった資産の無償譲渡が頻繁に発生します。これらの資産を適切に処理するためには、まず時価の適正な算定が最も重要な要素となります 。
参考)https://legacy.ne.jp/legacy-cloud/tax_practice/015-douzokukaisha-fudousan-jyouto-jika-sanshutsuhouhou/
特に収益性のある不動産や、まだ実用価値のある車両については、簿価1円であっても相当な市場価値を有する場合が多く、税務調査において時価算定の根拠が厳しく問われる可能性があります 。例えば、減価償却の終わった帳簿価格1円の高級外車を1円で譲渡した場合、中古車時価が600万円であれば、実際には600万円での譲渡があったものとして課税されます 。
参考)https://tasaki-ac.jp/column14.html
また、宅建業者は税理士法により、たとえ無償でも税務相談を行うことが禁止されているため、顧客から簿価1円資産の無償譲渡に関する相談を受けた場合は、適切に税理士への相談を促す必要があります 。このような法的制約を理解した上で、適切な専門家連携を図ることが宅建業者の重要な責務となっています 。
参考)https://www.retpc.jp/archives/19667/