
再調達原価とは、価格時点において対象となる土地や建物をもう一度調達することを仮定した場合に必要とされる適正な原価の総額を指します。不動産鑑定評価基準では、この再調達原価は原価法の中核となる概念として位置づけられています。
具体的には、建設請負により請負者が発注者に対して直ちに使用可能な状態で引き渡す通常の場合を想定し、発注者が請負者に対して支払う標準的な建設費に、発注者が直接負担すべき通常の付帯費用を加算して求めるものとされています。
再調達原価の重要性は、不動産の価値を客観的に評価する手法として原価法を適用する際の基礎となることです。特に以下のような場面で威力を発揮します。
宅建業務においては、顧客への適切な価格提示や売買契約における価格根拠の説明に活用できる重要な知識となります。
再調達原価の計算には、建物の構造別に定められた標準的な建築単価を使用します。平成30年度の建物の標準的な建築価額表による1㎡あたりの単価は以下の通りです。
構造別再調達単価
計算式は次のようになります。
再調達単価 × 延床面積 ÷ 耐用年数 × 残存年数(耐用年数-築年数)
実際の計算例を見てみましょう。築11年・建物面積100㎡・木造2階建ての建物の場合。
168,500円 × 100㎡ ÷ 22年 × (22年-11年)= 842,500円
ただし、実際の不動産査定では建物のグレードも考慮されます。大手査定システムでは「グレード率」が設定されており。
このグレード率により、同じ面積でも建築会社や仕様によって再調達原価が調整されます。
再調達原価は新築時点での価格を表すため、築年数が経過した建物を評価する際には減価修正が必要不可欠です。減価修正とは、時間の経過による価値の減少分を控除する作業で、最終的な積算価格を求めるために行われます。
減価修正の計算式
積算価格 = 再調達原価 - 減価額
減価修正には2つの方法があり、不動産鑑定評価基準ではこれらを併用することが求められています。
①耐用年数による方法
税法で定められた法定耐用年数を基準として減価を算定する方法です。
②観察減価法による方法
建物の実際の状態を観察して減価を算定する方法で、以下の要因を総合的に判断します。
この2つの方法を併用することで、より精度の高い評価が可能となります。
再調達原価を求める方法には、直接法と間接法の2つのアプローチがあります。これらの手法は、入手できる資料の信頼度や対象不動産の特性に応じて使い分けられます。
直接法の特徴と適用場面
直接法は、対象不動産から直接的に再調達原価を求める方法です。
直接法では、実際の建築費用の詳細な積み上げにより、より正確な再調達原価の算定が可能です。
間接法の特徴と適用場面
間接法は、類似する他の不動産の建築費データから間接的に求める方法です。
間接法では、構造・用途・規模が類似する建物の㎡単価を参考にして算定します。
併用の重要性
不動産鑑定評価基準では、収集した建設事例等の資料の信頼度に応じていずれかを適用し、必要に応じて併用することが定められています。実務では、複数の手法による検証を行うことで、より信頼性の高い再調達原価の算定が可能となります。
再調達原価の算定では、理論通りにいかない実務上の課題があります。特に宅建業務において留意すべきポイントを整理します。
価格時点の考慮
再調達原価は「価格時点において」の金額であることが重要です。建築資材の価格変動や人件費の上昇により、同じ建物でも時期によって大きく金額が変わります。近年では。
これらの社会情勢を反映した現在価格での算定が必要です。
実際の再建築費との乖離
標準的な再調達単価では、実際の建築費と大きく乖離する場合があります。例えば、80㎡の木造住宅の場合。
この乖離を理解し、顧客への説明時には現実的な建築費についても言及することが重要です。
土地への適用制限
原価法は建物評価には有効ですが、土地については制限があります5。
置換原価の概念
建築資材や工法の変遷により、対象不動産の再調達原価を求めることが困難な場合には、同等の有用性を持つものに置き換えて求めた「置換原価」を再調達原価とみなします。
実務では、これらの注意点を踏まえつつ、複数の手法による検証と合理的な説明ができる算定根拠の整備が重要となります。