

英米法は、イングランドの国王裁判所及び大法官府裁判所の判例を通じて形成されたコモンローとエクイティ(衡平法)を基盤とする法体系です。コモンローは11世紀中ごろにノルマン王朝が樹立されて以来、国王の裁判所の判例法として発展し、その後アメリカ等に継受されました。
参考)https://www.foresight.jp/gyosei/column/civillaw-commonlaw/
この法体系における最大の特徴は判例法主義であり、先例拘束性(stare decisis)の原則により、類似事案では過去の判例に従うことが求められます。これは、大陸法系の制定法主義とは根本的に異なる法的思考を示しており、「記録のない時代からイギリス人を律してきた慣行(usages)と慣習上の準則(customary rules)」として発展した完成された理性とされています。
参考)https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B3%E3%83%A2%E3%83%B3%E3%83%BB%E3%83%AD%E3%83%BC
英米法における先例拘束性(stare decisis)は、法的安定性の重要な基盤となる原理です。裁判所が事件を解決する際、先例が存在すればこれに従わなければならないという原則により、法の予測可能性と一貫性が保たれています。この原則は、過去に似た事実に基づく判例があれば、同じように判断するという明確な法的ルールとして機能しており、不動産法の分野においても重要な役割を果たしています。
参考)https://bordersip.com/topics/topics-960/
コモンローの判例法体系では、制定法が第一次的法源である大陸法とは対照的に、判例が第一次的法源となります。この違いは、不動産取引における法的解釈や問題解決のアプローチに大きな影響を与えています。英米法系では、文言の厳格な解釈よりも、類似の事案における裁判所の判断を重視する傾向があります。
参考)https://goldenwiller.sakuraweb.com/hanreihou.html
英米法は、コモンローとエクイティの二つの法体系から構成される独特の二元構造を持っています。コモンローは、イングランドのコモンロー裁判所が下した判決が集積してできた判例法体系である一方、エクイティは、コモンローの硬直化に対応するため大法官(Lord Chancellor)が与えた個別的な救済が集積したものです。
参考)https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A8%E3%82%AF%E3%82%A4%E3%83%86%E3%82%A3
この二つの法体系には明確な違いがあります。コモンローは契約法、不法行為法、不動産法(物権法)、刑事法の分野を中心に発展し、民事事件の救済として金銭賠償を主とします。一方、エクイティでは差止命令(injunction)、特定履行(specific performance)などの救済が認められ、信託法などの法分野を形成してきました。
英米法系の国々では、不動産法も州ごとに裁判所の判例の集積であるコモンローに根拠を持ち、制定法があるとは限りません。これは、日本のような大陸法系とは大きく異なる特徴です。アメリカでは、不動産の定義そのものもHUD(アメリカ合衆国住宅都市開発省)が定めるコモンローとして全州に適用されており、「州を超えた、連邦政府が定めている不動産法」として機能しています。
参考)https://wedgerc.com/2018/11/25/%E3%82%A2%E3%83%A1%E3%83%AA%E3%82%AB%E3%81%A7%E3%81%84%E3%81%86%E4%B8%8D%E5%8B%95%E7%94%A3%E3%81%AE%E5%AE%9A%E7%BE%A9/
物権と債権の区別についても、英米法では大陸法系のような明確な分類が存在しない場合があります。これは、判例法主義の特徴であり、具体的な事案に応じて法的関係が決定されることを示しています。不動産の概念についても、一般論としては英米法系の解釈を受け継ぎながら、政策的な理由から制定法で例外を定める国も存在します。
参考)https://www.bk.mufg.jp/report/aseantopics/ARS456.pdf
英米法系における不動産取引では、判例法主義の特徴が実務に大きな影響を与えています。コモンロー体系の国では、freeholdとleaseholdという一対の概念が基本となり、freeholdは土地に対する無期限・無制限の絶対的権利として認識されています。これらの概念は、日本の所有権や借地権とは異なる法的性質を持ち、不動産取引の構造そのものに影響を与えています。
建物と土地の関係についても、英米法では独特の考え方があります。コモンロー体系の国では、伝統的なコモンローの土地の概念に関する解釈に則って、建物は土地と一体と考えられています。これは、建物リース事業の可否に影響し、建物だけを購入して第三者にリースするという事業形態が基本的にはできないという帰結になります。
英米法系の国々では、不動産業に関する法制度も判例法主義の特徴を反映しています。アメリカでは州によって免許制度を採用し、「ブローカー免許」「セールスパーソン免許」が一般的です。これは日本の宅地建物取引士制度とは異なる体系となっています。
参考)https://www.plazahomes.co.jp/news/real-estate-notary-in-japan/
一方、イギリスでは不動産の売買・賃貸、媒介を行うのに許可や免許等は必要ありませんが、不動産業者は、不動産取引に必要な物件の詳細や取引条件等を説明しなかった場合、刑事罰の対象となることが法律で定められています。これは、判例法主義の柔軟性と実務的な規制のバランスを示す例といえるでしょう。