
信託法第23条第1項は、信託財産に対する強制執行を厳格に制限している。この条文は「信託財産責任負担債務に係る債権に基づく場合を除き、信託財産に属する財産に対しては、強制執行、仮差押え、仮処分若しくは担保権の実行若しくは競売をすることができない」と明確に定めている。
参考)https://kakuta-honda.com/blog/blog_office/549
この制限により、受託者の個人的な債務について債権者が信託財産に対して強制執行を申し立てることは原則として不可能となる。例えば、受託者が信託業務とは無関係に負担した住宅ローンの債権者が、信託財産である不動産に対して差押えを実行することはできない。
参考)https://legalservice.jp/shintaku/10498/
🔍 実務上の注意点
さらに、信託法第23条第5項は違反した強制執行に対する救済手段を定めており、受託者または受益者は第三者異議の訴えを提起できる。この規定により、不適切な強制執行から信託財産を守る法的手続きが確保されている。
参考)https://kakuta-honda.com/blog/blog_office/554
信託法第25条第1項は、受託者の破産における信託財産の独立性を明確に規定している。「受託者が破産手続開始の決定を受けた場合であっても、信託財産に属する財産は、破産財団に属しない」と定められており、受託者の破産手続きから信託財産が完全に分離される。
参考)https://shinai-trust.jp/%E4%BF%A1%E8%A8%97%E6%B3%95%E6%9D%A1%E6%96%87%E3%80%80%E7%AC%AC%EF%BC%92%EF%BC%95%E6%9D%A1-%E7%AC%AC%EF%BC%92%EF%BC%96%E6%9D%A1%E3%80%80%E3%82%88%E3%83%BB%E3%81%A4%E3%83%BB%E3%81%B0%E7%9A%84/
この条文により、受託者が経営破綻に陥っても信託財産は破産管財人の管理下に入ることはなく、信託の継続が可能となる。破産財団に組み込まれるのは受託者の固有財産のみであり、配当の対象からも信託財産は除外される。
参考)https://www.shintaku-kyokai.or.jp/trust/more/independence.html
📊 破産手続きでの取扱い
また、受託者の更生手続きや再生手続きについても同様の規定が準用され、再建型倒産処理手続きからも信託財産は独立性を保持する。
参考)https://lawzilla.jp/law/418AC0000000108?n=ln25.7amp;mode=only
信託法第11条は、倒産隔離機能の悪用を防ぐため詐害信託の取消権を定めている。「委託者がその債権者を害することを知って信託をした場合」には、債権者は受託者を被告として民法第424条第1項の規定による取消しを請求できる。
参考)https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_housei.nsf/html/housei/16520061215108.htm
この条文の重要性は、委託者が自己の債務逃れを目的として信託を悪用することを防止する点にある。詐害信託に該当すると判断されれば、信託設定自体が取り消され、財産は委託者に復帰し債権者の引当財産となる。
参考)https://www.machida-legal.com/qa052/
⚠️ 詐害信託の成立要件
ただし、受益者が受益者指定を受けた時点または受益権を譲り受けた時点で債権者を害する事実を知らなかった場合は、取消権の行使が制限される。この規定により、善意の受益者保護と債権者保護のバランスが図られている。
信託法第21条に規定される信託財産責任負担債務は、倒産隔離機能の例外として極めて重要な概念である。この債務に該当する場合のみ、信託財産に対する強制執行が認められる。
参考)https://souzoku.darwin-law.jp/cat-trust/1522
信託財産責任負担債務の典型例として、受託者が信託財産である不動産の修繕を業者に発注した場合の代金支払債務がある。これは信託法第21条第1項第5号「信託財産のためにした行為であって受託者の権限に属するものによって生じた権利」に該当する債務である。
🏗️ 信託財産責任負担債務の具体例
反対に、受託者が個人的に負担した債務については、たとえ同じ業者に対する債務であっても信託財産に対する強制執行は認められない。この区別により、信託財産の独立性が厳格に維持されている。
実務上は、債権者が強制執行を申し立てる際に債権の性質を明確にすることが重要であり、銀行等の第三債務者も信託口座と通常口座の区別について慎重な対応が求められる。
委託者の破産における倒産隔離機能は、信託財産が委託者から受託者へ真正譲渡されていることを前提として成立する。信託設定により財産の名義が委託者から受託者に移転するため、委託者の破産手続きが開始されても信託財産は破産財団に組み込まれない。
参考)https://www.businesslawyers.jp/articles/65
この効果により、委託者が経営困難に陥ったとしても、信託の受益者は継続的に利益を受けることができる。ただし、この倒産隔離効果が認められるためには、信託設定が真正な財産移転として認められる必要がある。
💼 委託者破産時の信託継続要件
また、委託者が信託設定後に自己破産した場合でも、信託は有効に継続し、受託者は信託目的に従って財産管理を継続する義務を負う。この仕組みにより、事業承継や資産承継における安定性が確保されている。
参考)https://souzoku.darwin-law.jp/trust/42
ただし、信託設定が詐害行為に該当する場合は信託法第11条により取消権の対象となるため、委託者の財政状況や債権者との関係を慎重に検討した上で信託を設定することが重要である。