
破産管財人が破産財団から不動産を放棄する通知を行った場合、翌年度以降の固定資産税は破産財団からは支払われません。この放棄は、管財人が売却困難な不動産について、継続的な固定資産税負担を回避するための法的手続きです。
固定資産税の納税義務者は、固定資産課税台帳に登録された所有者となります。破産手続き開始後、管財人が1月1日時点で当該不動産を破産財団として保有し続けている場合、その年度の固定資産税は破産法148条1項2号の財団債権として弁済を受けることができます。
しかし、管財人が財団放棄を行うと、その不動産の管理処分権は破産者(法人の場合は清算法人)に戻ります。これにより、次年度以降の固定資産税の納税義務も破産法人が負うことになりますが、営業を停止した破産株式会社が実際に納税することは事実上困難です。
破産管財人が不動産を破産財団から放棄する際は、権利放棄に該当するため、原則として裁判所の許可が必要です(破産法782条12号)。ただし、放棄物件の価額が100万円以下の場合には、法令上は報告で足りることになっていますが、実務上は裁判所の許可を得ることが望ましいとされています。
管財人は、まず不動産の任意売却を試みますが、地方都市の不動産や農地・山林などで買い手がつかず、売却が事実上不可能な場合に放棄を検討します。特にオーバーローン不動産については、判例が「破産財団からの放棄」は有効であると判断しています。
📅 タイミングの重要性
破産財団からの不動産放棄により、管財人は以下の責任から免れることができます:
🏠 占有管理義務の免除
⚠️ 民法717条の占有者責任免除
この責任免除効果は、管財人が放棄を決断する重要な要因となっています。特に老朽化した建物や管理コストが高い不動産では、継続的な管理責任を負うリスクを回避できる点で実務上重要な意味を持ちます。
破産財団からの不動産放棄は、地方自治体の税収確保に深刻な影響を与えます。放棄通知を受けた市町村は、実質的に固定資産税の徴収が困難になる状況に直面します。
💡 清算人選任の実務的課題
法人破産の場合、破産により役員は全て地位を失うため(民法653条2号)、代表者不在の状態となります。固定資産税徴収のために清算人選任を申し立てる場合:
⏰ 時効による徴収権消滅リスク
市町村が適切な中断措置を講じない限り、固定資産税の徴収権は法定納期限の翌日から5年間で時効消滅します(地方税法18条)。これにより、実質的に税収確保が困難になるケースが多発しています。
🔍 代替的徴収手段の模索
一部の自治体では、放棄不動産の管理コスト軽減のため、土地の寄付受け入れや公売制度の活用を検討するケースが増加しています。また、放棄予定物件の事前把握により、管財人との協議を通じて売却可能性を探る取り組みも見られます。
破産手続きにおける固定資産税の取り扱いは、発生時期により財団債権としての位置づけが異なります。破産手続開始前に発生した固定資産税で、破産手続開始決定当時まだ納期限が到来していないか、納期限から1年を経過していないものは、破産法148条1項3号の財団債権として優遇されます。
📊 財団債権の支払順序
実務上、管財人は財団債権の支払いを優先するため、これらの固定資産税は破産債権より優先して配当されます。ただし、破産財団に十分な資産がない場合は、財団債権でも満額回収できない可能性があります。
🏛️ 国税庁の見解と実務
破産財団に属する課税資産の処分について、国税庁は「破産手続中であっても破産法人は存続し、破産財団は破産法人に帰属する」との見解を示しています。これにより、消費税等の課税関係は破産法人に帰属することが明確化されています。
収益物件の場合、管財人は賃料債権と併せて財団放棄を行うケースもあり、これにより固定資産税負担と賃料管理責任の両方を回避する戦略が取られることがあります。