
不動産の囲い込みとは、売却の仲介を依頼された不動産会社が、他社への物件情報の提供を故意に制限し、自社のみで買主を探すことで両手取引を狙う行為です。この行為により、不動産会社は売主と買主の双方から仲介手数料を受領できるため、経済的なメリットが大きくなります。
囲い込みの具体的な手法には以下のようなものがあります。
この問題の根本的な原因は、日本の不動産業界における両手取引への強いインセンティブにあります。売主からの仲介手数料3%に加えて買主からも3%を受領できるため、総手数料は6%となり、片手取引の2倍の収益を得られます。
しかし、この行為は売主にとって深刻な不利益をもたらします。物件の露出機会が制限されることで、本来であれば見つかったはずの購入希望者を逃し、結果的に売却期間の長期化や価格の下落を招く可能性が高くなります。
2025年1月から施行された宅建業法施行規則の改正により、囲い込み行為は明確に処分対象となりました。国土交通省が定めた処分対象となる主な行為は以下の通りです。
📋 処分対象行為一覧
処分の内容は宅建業法第65条第1項に基づく指示処分となります。これは業務改善命令に相当し、違反が確認された場合は監督官庁から具体的な改善措置を求められます。
特に注目すべきは、レインズのステータス管理機能の活用が義務化された点です。従来は登録済証の交付のみで足りていましたが、現在は以下の3つのステータスを正確に管理する必要があります。
この改正により、従来グレーゾーンとされていた囲い込み行為の多くが明確に違法行為として位置づけられました。不動産業界では、コンプライアンス体制の見直しと従業員への教育徹底が急務となっています。
囲い込み行為が売主に与える影響は、単なる売却期間の延長にとどまらず、経済的損失と機会損失の両面で深刻な問題となります。
💰 経済的損失の具体例
売却価格への影響は特に深刻です。囲い込みにより物件の露出が制限されると、競争原理が働かず、本来の市場価値よりも低い価格での売却を余儀なくされるケースが多発しています。実際の事例では、囲い込みを受けた物件が市場相場より10-20%低い価格で売却されたケースも報告されています。
不動産会社は両手取引を成立させるため、「物件が売れないのは価格設定が高いから」という理由で売主に値下げを迫ることがあります。しかし、これは他社の買主候補を排除した結果であり、適正な市場競争が行われていない状況での判断となります。
⏰ 売却期間長期化のリスク
囲い込みにより売却期間が長期化すると、以下のような連鎖的な問題が発生します。
特に、売却期間が6ヶ月を超えると、市場では「問題のある物件」として認識される傾向があり、その後の売却活動により大きな支障をきたす可能性があります。
🔍 機会損失の見えないコスト
囲い込みによる機会損失は数値化が困難ですが、その影響は甚大です。他社のネットワークを活用できないことで、以下のような購入希望者を逃している可能性があります。
これらの潜在的な購入者との接点を失うことで、売主は最適な売却条件を逃している可能性が高いのです。
囲い込み対策の最も効果的な手法は、レインズ(不動産流通標準情報システム)の適切な活用と継続的な監視体制の構築です。売主自身が能動的に関与することで、囲い込みリスクを大幅に軽減できます。
📊 レインズ登録状況の確認方法
売主は以下の手順でレインズ登録状況を確認できます。
レインズの売主向け確認システムを活用することで、自分の物件がどのような状態で市場に公開されているかをリアルタイムで把握できます。このシステムは2016年から提供されており、登録番号と確認用パスワードがあれば24時間いつでもアクセス可能です。
🔍 不審な兆候の早期発見
以下のような状況が確認された場合は、囲い込みの可能性を疑う必要があります。
⚡ 迅速な対応策の実行
囲い込みの疑いが生じた場合の対応手順。
国土交通省の調査によると、売主が積極的に監視を行った物件では囲い込み発生率が約60%減少したという報告もあり、売主の能動的な関与の重要性が実証されています。
不動産業界における囲い込み問題は、単なる個別業者のモラルの問題ではなく、業界全体の構造的な課題として捉える必要があります。この視点から、根本的な解決策と今後の業界変化について考察します。
🏗️ 業界構造の根本的問題
日本の不動産仲介業界は、欧米諸国と比較して独特な特徴を持っています。アメリカでは売主側エージェントと買主側エージェントが明確に分離されており、それぞれが依頼者の利益を最大化することに専念する仕組みが確立されています。一方、日本では一つの業者が売主と買主の双方を担当する両手取引が一般的で、これが利益相反の温床となっています。
この構造的問題は以下の要因により深刻化しています。
🔄 技術革新による変化の兆し
近年、不動産テック企業の台頭により、従来の業界構造に変化の兆しが見えています。
これらの技術革新により、情報の透明性が向上し、囲い込み行為の発見と防止が容易になることが期待されています。
📈 規制強化の効果と課題
2025年の規制強化は一定の効果を上げていますが、完全な解決には至っていません。業界関係者からは以下のような課題が指摘されています。
🌟 理想的な業界像への転換
真の意味で消費者利益を最優先とする不動産業界の実現には、以下のような変革が必要です。
国土交通省は2026年度を目途に、さらなる制度改正を検討しており、業界全体の透明性向上と消費者保護の強化が進むことが予想されます。不動産業界従事者にとっては、短期的な利益追求から長期的な信頼関係構築への意識転換が求められる重要な転換期を迎えています。